第４ー４話 恐れる勇者の咆哮
決してどす黒く染まらず、民を守れる強国へ。
それは突拍子もない虎白の夢の話にも聞こえる。
この発言も宴の席に招かれていたゼウス配下の詩人達によって天上界の至る所に響くだろう。
詩に乗って語られる虎白の夢の話しを聞いた各国の皇帝や王達は鼻で笑うに違いない。
そんな大それた事が実現できるはずもないだろうと。
まさに今、ゼウスの詩人から聞かされて鼻で笑っている「あの男」がワインを飲み干した所だ。
「馬鹿馬鹿しい。 何を子供の様な事を話しているのだ。 まるで南側領土はその鞍馬とやらが治めると言っている様にも聞こえるぞ。」
秦国の嬴政すらも上回る超大国を有し、ゼウスから南側領土の全権指揮を任されている男が玉座で苛立ちを抑えきれずにいた。
黄金のゴブレットを握りつぶすほどの剣幕で詩人を睨みつけているかの男は人々から「征服王」と呼ばれ崇拝されている。
詩人はゼウスの息子にして戦神であるアレスの加護を受けし者とまで言うほどだ。
人々からそこまで言われる理由はこの男は大王にして自ら最前線で兵と共に戦う勇敢さと圧倒的な統治力を持っているからだ。
三百万とも四百万とも言われている嬴政の秦軍すらも凌駕すると言われる征服王を人はアレクサンドロス大王と呼ぶ。
この男が天上界南側領土の最高権力者にしてゼウスからマケドニアという国を預けられている大王なのだ。
虎白の建国を知ったアレクサンドロス大王は不快感をあらわにしている。
「天王様は何を血迷った事を。 神族の狐だと？ なんだそれは！！」
ゼウスから可愛がられている虎白だったが、征服王も同様に天王から敬愛されていた。
そんな征服王ことアレクサンドロス大王は自身の管轄する南側領土に許可なく建国された白陸帝国なる国を嫌悪している。
凄まじい剣幕に戦慄しているゼウス配下の詩人が大王の間から逃げ去る様に出ていくと、後を追いかける様に外へ行くと天空に向かって怒鳴り散らしているではないか。
「どういうおつもりかー！！！！ 我に許可なく狐の神族の国ですとおお！？」
晴天の青空に向かって絶叫する征服王に答える様に雷鳴が青空で鳴り響くとアレクサンドロスの目の前に落雷した。
白い髭をわしわしと触りながらあくびをしているゼウスは征服王の怒号を聞いて耳を塞いでいる。
手を広げて上下に振って怒り狂う大王を落ち着かせようとしている天王は二日酔いなのか眠そうだ。
「ご説明を！！！！」
「ああ、朝から騒がんでくれ・・・頭の中で我の雷が暴走しておる・・・」
「天王！！！！」
「うるさいと言っておろうが。 鞍馬は我らギリシア神族ではなく日本神族なのだ。 だからと言ってお前が気を使う事もない。 配下が増えたと思え。」
竹子や甲斐などなど美しい女を肴に飲みすぎた天王は頭の中で暴走する雷を抑えながら激昂するアレクサンドロス大王を落ち着かせた。
配下が増えたと聞かされた征服王は納得したのか、大声を上げる事を止めた。
だがそれでも勝手に建国を行ったゼウスと虎白には不満がある様で腕を組んでは遠くを見ている。
「まあそう怒るな。 それよりも聞いてくれ。 冥府が攻め込んで来るやもしれん。」
「なんですって！？！？」
「ああ、騒ぐなと言っただろう・・・あー竹子は可愛かったなあ。 他の鞍馬の配下も美女ばかりだった・・・」
いい加減にしろと顔で訴えるアレクサンドロスは女の話しよりも冥府襲来の話しが気になって仕方なかった。
脳内の雷を落ち着かせたゼウスは虎白の冥府潜入事件によってハデスが動き始めたと続けた。
話しを終える前にゼウスは耳を塞いでいるがそれも当然、勝手に建国した虎白の影響で戦争が始まろうとしているのだ。
鞍馬の名を連呼しては大絶叫している征服王の怒りを沈める方法はどこにあるのか。
またしても脳内で雷が暴走した天王はたまらず天空へと飛び立つと雷鳴と共にどこかへ消えた。
一方で怒りが収まらないアレクサンドロス大王は部下達に声を発すると、馬に飛び乗った。
「我が勇敢なるアレクサンダー達よ！！ 我についてこい！！ 目指す先は白陸帝国なる国だ！！」
そう叫ぶと数百もの騎馬隊を引き連れて白陸へ向かったのだ。
虎白が話した突拍子もない発言は天上界中に響き渡り、アレクサンドロスの様に怒りを覚える者や希望の光りと受け止める者など様々だった。
だがこの発言が原因か冥府潜入が原因か。
冥王ことハデスと配下の邪悪なる軍団が天上界に迫っているという噂だけは避けられない事実だった。
