第3−11話 追い込まれた皇帝の狂気
狭い廊下が、複雑に続き、必要がないほどに曲がり角が多い。一見すれば、皇帝の住まう宮殿には、無駄な作りのように見えがるが、この曲がり角はノバガードが潜むには格好の場所である。
宮殿内へ突入した虎白ら一向は、メルキータ皇女の案内の元で進む。彼女からの忠告もあり、角に潜むノバガードを前もって撃退できたのも、無駄な犠牲を抑える要因となった。
「もう少しで、ノバガードが鍛錬する道場があります。 そこを通過しないと、兄上の元へ行けない作りになっているんです」
メルキータに案内されるまま、道場への扉を蹴破ると、そこには上半身裸で座る男がいる。
目をつぶって瞑想でもしている男を見た一同は、武器を構えた。大男は、目を見開いた。彼の瞳には、燃え上がる闘志が溢れている。
「陛下の元へ行かせるわけにはいかない」
「ば、バイロン! 道を開けてくれ!」
「なりません皇女様......外部の者を使って兄上様を失脚させようなどと......先代が聞けば嘆くことでしょう......」
「馬鹿な! お前ほどの男ならわかっているだろう!? 兄上のやり方では、民が生きていけない!」
バイロン大将軍は、静かに手のひらを向けた。もうこれ以上の議論は不要だと言わんばかりに、悟った目をしているツンドラの英雄は、虎白へと視線を向けた。
「貴様が鞍馬だな?」
「どけ。 死ぬ暇があんだったらメルキータに仕えろ」
「全てを覚悟したような瞳、自信に溢れる言動。 どうやら貴様には、万人を束ねる才があるようだ」
「そうかよ......闘志溢れる瞳、全てを悟ったような言動。 てめえは、間違っているとわかっていても忠義のために死ねる男の才があるんだな」
両者にこれ以上の会話はなかった。顔を合わせた僅かな時間で、虎白とバイロンという傑物は、認めあった。
ゆっくりと立ち上がったバイロンは、壁に掛けてある大剣を手にした。そして虎白が鞘から刀を抜こうとしたその時だ。手を被せてきたのは、竹子だ。
「待って虎白」
「何やってんだ?」
「主への忠誠のために死ねますか......奇遇ですね」
「小娘なんぞに用はない。 さあ鞍馬来い」
「家臣として、主を貴公のような殺気立つ者に近づかせるわけには行きませんね」
鞘から刀を抜いたのは竹子だ。隣には笹子が立ち、彼女もまた刀を構えている。
驚いた虎白が美人姉妹に刀を鞘に戻すよう語りかけたが、彼女らは既に覚悟を決めていた。
「今の姉上格好良かったですよお」
「ごめんね虎白......ここは譲れないかなあ。 敵国の副将なら白陸の副将として、私が戦うよ」
「お前ら相手はツンドラの英雄とか言われているデカブツだぞ!?」
「信じてくれないの......?」
下唇を噛んで、悲しそうな視線を送っている。
虎白は思った。信じてくれないだあ?馬鹿言ってんじゃねえ。世界の誰よりも信じている。だからこそ、離れてほしくない。こんな怪物みたいな男に、お前を戦わせたくないんだ。
「ダメだ竹子......」
「虎白殿! 彼女を信じましょう......ノバ皇帝を逃がせば、次は確実に我々が負けます!」
虎白が悩んでいる間に、背後から追いかけてきたノバガードが到着した。アルデン王は、自身の近衛兵を多数その場に残して、虎白を引っ張って走った。
竹子と笹子、そしてスタシア王立近衛兵四十名が道場に残り、ツンドラの英雄バイロン大将軍とノバガードと対峙した。
先へ進んだのは、虎白、莉久、夜叉子、メルキータ皇女、そしてアルデン王と八名の近衛兵のみだ。
薄暗い廊下を進む虎白らは、ノバ皇帝がいるであろう最後の部屋へ向かっている。道中で遭遇するノバガードを倒して。
「鞍馬様! この先へ進めば兄上が!」
虎白は最後の扉を蹴破った。しかし扉の先に広がっていた光景は、虎白が思っていたのとは違った。
ノバ皇帝が立っている。だが、彼は剣を持って女の喉元に突きつけている。まるで人質でも取ったかのように。
虎白はその光景を見て、考えた。誰だあの女。宮殿内にいたのは、ノバに近い存在のはず。それでもって、人質にすることで、俺達が困る相手か。まさかあの女は。
「は、は、母上っ!」




