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天冥聖戦 本編 伝説への軌跡  作者: くらまゆうき
シーズン3 ツンドラ帝国遠征編
45/205

第3ー5話 束ね率いる覚悟

 属国が全て裏切った。その凶報は、直ぐにノバ皇帝の元へ伝えられた。今にも出陣しようかと、殺気立つ一同に聞かされた衝撃の事態は、一瞬にして空気を凍りつかせた。


「弾除け程度に思っていた属国共が寝返ったか......」

「陛下これは一大事ですな。 秦軍八十万に、属国が加わるとなると敵は百万を超えますな」


 側近のバイロンが言った。しかしノバの表情に変化はなく、凍りついた瞳で遠くを見ている。

 広間を今にも出ようとしていたノバは、再び玉座に腰掛けると文官に地図を持ってこさせた。

 大きな机に広げられた地図には、ツンドラ帝国と属国が記されている。


「現在、秦軍は我々の国境付近にまで迫っています」

「敵もそう簡単には、攻め込んでくるはずもない。 まずは国境警備隊を臨戦態勢にさせて、我ら本軍も向かうぞ。 属国が寝返ろうと、兵力は今だ我らの方が上だ」


 ツンドラは北側領土で、最大の領土面積を誇っている。だが、広大な面積が故に、兵力を分散せざる得なかった。

 総兵力五百万を誇るツンドラだが、無理やり集結させても百数十万が限界なのだ。

 ノバは表情や言動にこそ出さなかったが、事態は相当に切迫しているというわけだ。話しを終えたノバは、側近のバイロンらを引き連れて部屋を出ていった。



 方や属国を全て味方につけた虎白は、各国の国主らと顔を合わせている。


「い、一体何が望みなんですか......」


 虎白の寛大すぎるまでの対応に困惑する国主らは、表情を曇らせている。戦争が終われば、なにかとてつもない条件を出してくるのではないか。

 しかし呑気に朝食を食べている虎白は、モグモグと口を動かしながら話しを聞いているだけだ。


「な、なんとか言ってください! 最前線に送ることもせず、属国にするわけでもない......何をお考えなのか」

「食事会ってよお。 話してばっかりで、飯を食わねえだろ? 俺嫌いなんだよなあ......なんか美味そうな飯が、ただの飾りみてえでよお」


 何を言い始めたのか。国主達が、目を丸くしている。それを気にもせず、美味そうな朝食を食べ続けている。

 やがて全て食べ終えると、満足そうに一息ついた。そして次の瞬間、戦慄するほどの視線を国主らに向けた。


「怖くて食欲すら出ませんってか? お前らなんで国主とか名乗ってんの? 知らぬうちに、誰かに屈服することに慣れちまったんだろ?」


 そう言って、狐特有の鋭い目がさらに強張っていく。瞳孔の開いた目は、ノバが向ける氷の視線に負けないほど恐ろしいものだった。

 怯えて言葉を失う国主達は、虎白の話しを黙って聞いている。


「雪豹とか、物珍しい種族は国として小さいのは仕方ねえ。 だから属国になることを選んだのも仕方ねえ。 でもよ、ただ怖くて怯えて属国になってんなら仕方ねえわけがねえ」

「な、何が言いたいんです!」

「てめらの責任から逃げてんじゃねえって言ってんだ」


 睨み殺される。それほどまでに虎白の視線は、凄まじかった。だが、ノバのように凍りついているわけではない。

 恐ろしい視線に変わりないが、虎白の瞳にはメラメラと燃えるなにかがあった。それに気がついているのは、ウランヌ女王だ。


「では聞かせてください。 虎白様の責任は? 亡命したメルキータ皇女の支援ですか?」

「これは始まりに過ぎない。 俺は戦争のねえ天上界を創る。 お前らみたいな自分の本心ではない考えを正当化して、恐怖に怯える者らを守るために」


 その時、ウランヌの豊満な胸を貫いて、心臓にまで突き抜けるほど凄まじい高揚感を覚えた。あまりの衝撃に、耳を疑う国主達は、吐息をハアハアと吐くので精一杯だ。


「俺はツンドラがお前らを属国にして、守っているのなら構わねえと思っていた。 だが、メルキータの話しを聞くと、ノバはお前らを労働力にして戦争でも始めようとしている。 何と戦うためだ?」

「に、人間の国家ですよきっと......」

「そうだろうな。 お前らは先頭で戦い、人間から永遠に恨まれる。 それが、お前らの歩もうとしていた未来だ」


 どういうわけか。ウランヌは思っていた。この男の底知れぬ自信は、なんだろうか。確証はないはずなのに、虎白なら本当にツンドラすらも打ち倒してしまいそうだ。

 そして放つ言葉は、不思議なまでに勇気が湧いてくる。そうだ、きっとあの目だ。鋭いが、確かに感じる熱い覚悟のようなものに、魅了されているのだ。

 ウランヌは、食事を一口食べた。満足げに頷く虎白は、他の国主達にも早く食べろと、両手を広げて上下に動かしている。


「飯美味いよな。 自分に嘘ついて恥じて生きていると、飯の味すら薄れるってもんだ。 そんな生き方は、どれだけ正当化しても権力者の飾りにすぎねえよ」


 虎白は、存分に食べ始める国主の顔を見て微笑んでいる。

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