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天冥聖戦 本編 伝説への軌跡  作者: くらまゆうき
シーズン2 犠牲の果ての天上界
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第2ー17話 戦いの天才

 白陸が建国される目前のある日。

 白い着物を優雅になびかせて、遠くを見つめている虎白。竹子は隣で、何を考えているのだろうかと想像を膨らませていた。


「なあ竹子」

「え!?」


 霊界で戦っていた時に言ってくれた言葉を改めて言ってくれるのだろうか。竹子はそんな期待を胸に、勇ましい表情をしている虎白の顔を見た。


「もし俺が白陸にいなかった場合は、全て竹子の判断で決めていい」

「わ、私が......」

「この世界で誰よりもお前を信じている。 お前が決めたことなら、俺は反対なんてしない。 もし状況が悪くなっても、一緒に解決していこう......」


 待ち望んでいた言葉とは違った。だが、これはこれでたまらないほど、嬉しい言葉だった。

 胸がキュンっと締め付けられる感覚を堪え、赤面しながらうなずいた。



 そして今、ツンドラ帝国軍が押し寄せているこの状況で竹子は、覚悟を決めていた。


「メルキータ殿を追い出すつもりなら、最初からそうしているよね......もしここに虎白がいれば、相手に暴言の一つでも吐いているはず」


 相手を見下したような表情をする虎白が直ぐに思い浮かんだ。そしてそんな表情も含めて、全てが愛おしくてたまらないのだ。

 竹子は、愛する者の顔を思い浮かべ、持っている刀を力強く握りしめた。


「通しません!」

「いいや通らせてもらう! 女だろうと構うな! 殺せ」


 狂犬のように歯茎をむき出しにして、瞳孔を開いているツンドラ軍は、一斉に竹子へと飛びかかった。


「撃てー!」


 笹子の声が響くと同時に、雷鳴のような銃声が轟いた。飛びかかって空中に浮いていた半獣族が、一瞬にして力を失い地面へ吸い込まれるように倒れた。


「姉上! 援護致しますよお! 敵の将軍を倒せば、逃げて帰るでしょう!」

「ありがとう笹子。 私に任せて!」


 白陸兵を指揮している笹子は、まるで新たな城壁を作り上げたかのように、盾兵を横一列に並べた。銃撃を脅威と感じたツンドラ兵は、竹子を無視して次々に盾へと体当たりしている。

 たちまち怒号が響き渡り始めた小さな国は、戦場と化した。移住したばかりの住人達が、白陸へ来たことを後悔したような怯えた表情をしている。


「も、もう攻め滅ぼされるのか......明日からまた難民だ......」


 住人達は既に諦めて、荷解きを済ませた荷物を再びまとめ始めた。

 だが次の瞬間には、この場にいる誰もが言葉を失う光景が広がっていた。


「はあ......はあ......て、敵将討ち取りました」


 息を切らせている竹子の刀は、赤く染まっている。そして倒れて動かなくなっているのは、ツンドラの将軍ではないか。周囲にも多くのツンドラ兵が倒れている。


「電光石火の居合い切り......何度鍛錬を行ったことか。 相手の踏み込む一瞬の隙を斬り裂く......これが私の得意技ですよ」


 何が起きたのかわからないツンドラ兵は、口を開けたまま、唖然としている。血に染まる刀を上から下に振り下ろすと、将軍の血が綺麗に流れ落ちた。


「た、た、退却!」


 悲鳴にも遠吠えにも聞こえるツンドラ兵達の声が響いている。

 竹子は大きく深呼吸をすると、刀を静かに鞘へ戻した。すると、背後から手を叩く音が聞こえた。振り返ると、夜叉子が拍手をしている。


「やるね。 驚いたよ」

「夜叉子さん......」

「あっさりと負けてしまったら私も山賊に戻ろうかと考えていたけど、さすがだね信頼されるわけだよ」


 竹子は思った。どうしてこうも余裕のある態度なのか。将軍は倒したが、未だ周囲には大勢のツンドラ兵がいる。怒り狂った彼らが襲いかかってくるのは明白。それなのにどうして扇子まで取り出して余裕を見せているのか。


「あんた今、私が変なやつだと思っている? それは傷つくよ。 傷つくと根に持つ質たちなんだよね......」

「い、いえそんなことは。 ただ、どうして余裕があるのかと疑問を感じています」

「まあ見てな」


 仰いでいる扇子を、天に向って突き上げた。そして次の瞬間。

 地面が開くと、そこには半獣族が大勢隠れていたのだ。これはツンドラ軍ではなく、夜叉子の抱えていた山賊だ。


「こんなこともあると思ってね。 あらかじめ、うちの子が隠れる穴を作っておいたのさ」


 この突然の奇襲に慌てるツンドラ軍は、我先に城門を飛び出していった。

 しかし夜叉子は、それでも余裕の表情をしている。突き上げていた扇子を横に振ると、何やら轟音が轟いた。竹子は、城門を抜け出したツンドラ兵を見て、唖然とした。

 轟音が轟いたと思えば、逃げていたツンドラ兵が消えているからだ。


「合図をすれば、城門の外にある落とし穴が作動するように作ってあるのさ。 城って言うのはね、罠が多いほど良い城ってもんだよ」


 落とし穴に落ちたツンドラ兵は、竹槍に串刺しになっている。苦しそうな唸り声が、穴底から聞こえている。

 なおも、夜叉子は落ち着き払っている。彼女の圧倒的すぎるまでの罠の数々に、言葉を失う竹子は、夜叉子への底知れぬ恐ろしさすら感じていた。

 夜叉子の隣へ来たトラの半獣族にうなずくと、獰猛な山賊衆と半獣族達が、戦闘不能と化したツンドラ兵を冷酷なまでに刈り取っていった。


「や、夜叉子さん......」

「これが戦争でしょ。 悪いけど、やり方が汚いなんて聞きたくないよ」

「い、いいえ......恐ろしさすら感じましたが、お見事な罠です」

「恐ろしさねえ」


 ツンドラ帝国の襲来から僅か三十分。何百という戦死者を出した末、完全撤退。

 無名の小国が、北の超大国を撃退したと、世間で騒がれることになるのだった。

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