第2ー13話 移民の中に紛れる者
白陸の本城完成。壮大な天守閣から景色を見下ろす一同は、城壁で守られる町並みを一つ一つ確認している。
「ねえ水を差すようで悪いけどさ」
「なんだ?」
「城壁を抜かれた場合の防御がなさすぎる。 敵が入ったら、蹂躙し放題だよ」
天守閣から黒髪をなびかせている。夜叉子の指摘を聞いた虎白は、国の防御能力を次の課題とした。
そして同時に、夜叉子が言っていた冥府軍の存在も視野に入れた。
「さっそく国民を集めることと、軍隊を組織しないとな」
「うちで面倒見てた行く宛のない連中を連れてきていい?」
「もちろんだ。 俺はアテナに協力してもらえないか、話してくる」
こうして夜叉子は、一度縄張りの山に戻り、民と山賊衆を引き連れて白陸へ戻ることにした。
虎白は、再びアテナ神殿へ。竹子と笹子は、国内の見回りに出た。国と言えば聞こえはいいが、まだ小さい白陸は、馬で見回ることができる程度の国だ。
美人姉妹は、馬にまたがると、街中へ出ていった。
アテナ神殿へ辿り着いた虎白は、彼女と面会している。細長い山の頂上にある神殿からは、天上界の絶景が望めた。
虎白からの話しを聞いているアテナは、背中を向けたまま、返答をした。
「さすがに秦国の支援のおかげで早かったようね」
「ああ、それで国民なんだが」
「わかった。 ただ、あまり質の良い民というわけにはいかないわ......彼らは父上を嫌っているのよ。 政治的にね」
振り向いたアテナは、浮かない表情をしている。これはつまり、ゼウスを嫌う民を虎白に押し付けているというわけだ。
浮かない表情をして、言葉を詰まらせるアテナに対して、虎白はこれを快諾した。
「何も問題ねえ。 贅沢なんて言わねえよ。 民と話し合ってそいつらが、暮らしやすい国を作るよ」
「感謝するぞ鞍馬......それと、私の方からも天上界中に白陸建国を知らせるわ。 もしかしたら、移民が集まってくるかもしれない」
アテナは目を瞑って「ヘルメス」と囁いた。すると、虎白の隣に金髪が美しい美男子が立っているではないか。
まるで瞬間移動でもしてきたかのように、平然と立っている美男子は、虎白を見下ろしながら笑っている。
「やあ鞍馬! 相変わらず小さいね!」
「いや、お前らギリシア神族がデカいだけだ......」
「国を作ったことを知らせればいいんだね! わかったよそれじゃ!」
まさに疾風の如く、一瞬で現れて、一瞬で消えたヘルメスは天王ゼウスの息子で、アテナの弟だ。
彼は伝令の神で、高速移動ができるのだ。そのせいか、性格も落ち着きがなく、動き回っている。
「相変わらず落ち着きがないなヘルメスは......」
「まあそれでも可愛い弟よあの子は」
「助かったよアテナ。 ありがとうな」
虎白は、アテナに微笑んだ。目を見開いて、硬直するアテナは、少しの間を置いて頷いた。
白陸へ戻った虎白は、驚愕した。アテナ神殿へ行ってヘルメスが、建国を世界に知らせてから、一時間程度が経過した。
既に白陸への移住を望む、多くの民が集まっているではないか。
「虎白おかえり!」
「おお、竹子」
「もう凄いことになっちゃって......」
「だな。 急いで、民が暮らす地域を割り当てよう」
しばらくして夜叉子と山賊衆も白陸へ戻ってきた。まるで祭りのように人で溢れかえる中、竹子と笹子が泡を吹き出しそうになりながら、民を居住区へ配置している。
ガヤガヤと賑やかな民の列を、夜叉子と共に見て回っている虎白は、見覚えのある存在に気が付き、近づいた。
「友奈か!?」
「あ、どうも......」
「俺達の国に来るのか?」
「も、もしお邪魔でなければ......あと、友達も一緒に......」
気まずそうにペコペコと会釈する友奈は、虎白を刺してから音沙汰がなかった。それがどうしたことか、白陸が建国されると戻ってきたのだ。
「さ、さすがに虫が良すぎるかな......」
「いや構わねえよ。 お前の仲間を死なせたのは、俺の責任でもある......嫌われて当然だ。 もし、もう一度俺を頼ってくれるなら大歓迎だ」
その言葉に安堵の表情を浮かべる友奈は、丁寧に一礼した。隣で立っている女は、半獣族だ。
夜叉子の配下の山賊衆とは、異なり人間に限りなく近い外見をしている。虎白のように、人間の姿に動物の耳を頭から生やし、腰元には尻尾がある。
そんな半獣族と友達になった友奈は、彼女を連れてきた。
「め、メルキータと申します。 お見知りおきを」
「うん? 随分と行儀が良いな?」
「あ、いや......初対面なんで」
「おい友奈。 この女とはどこで知り合った?」
「あなたを刺した後に、彷徨っていたら心配して声かけてくれたの」
虎白がメルキータを見ると、彼女は目を背けた。夜叉子と顔を見合わせる虎白は、静かに二人から離れていった。
「夜叉子どう思う?」
「何か隠しているね。 危ないから受け入れない方がいいよ」
「口を割らせるか?」
「そうだね。 答えないなら追い出しな」
明らかな動揺と、上品な振る舞いに疑問を感じた夜叉子は、何か危険を感じ取り、メルキータを睨んでいる。
ふと夜叉子と目が合うと、慌てて目をそらした。やはり何か怪しい。長年山賊の頭を務めてきた夜叉子には、直感的にそれがわかった。
虎白と共に彼女の元へ歩いていった次の瞬間だ。
「た、助けてください! く、鞍馬様!」
メルキータは突然、頭を深々と下げたのだ。




