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西銀河物語 第2巻 アメイジングロード 第三章 帰還 (3)

第三章 帰還


(3)

ヘンダーソンは、コムを口元に置くと

「全艦に告ぐ、こちらヘンダーソン総司令官だ。「X2JP」方面より敵味方不明の艦隊が現れた。距離は五光時ある。艦隊を「X2JP」方面に向け標準戦闘隊形のまま待機」

「二光時まで近づいた段階で第一級戦闘隊形をとる。艦長は、乗員を交代で休ませるように」

「格納ボックスを牽引している航宙駆逐艦は、後ろにさがれ」

「哨戒艦は、未知の跳躍点及び「X3JP」方面の索敵も厳重にしろ」

矢継ぎ早に指示を一気に出すと一息入れて

「まだ、戦闘になると決まったわけではない。今は緊張をほぐすように。以上だ」

「ハウゼー艦長、メンケント本星宛に緊急文を送ってくれ。内容は、「第三二一広域調査派遣艦隊は、帰還途中ADSM72星系にて敵味方不明の艦隊と遭遇」これを現在位置と共に送ってくれ」

 ハウゼーは、復唱すると、通信管制官に「高位次元連絡網」を使用してメンケント本星に「レベルA」の暗号電文で送る様指示を出した。

 ヘンダーソンは、シノダの方を振り返り、「大丈夫だ」という顔を作って見せた。シノダも声に出さずに頷くとスクリーンビジョンを見つめた。

 ミルファク星系方向に先頭にいたヘルメース級航宙駆逐艦とワイナー級巡航艦がそれぞれ右回りと左回り動き始めると後方にいたアガメムノン級航宙戦艦、民間輸送艦とタイタン級高速補給艦、アルテミス級航宙空母が推進ノズルを少し噴射し、そのままゆっくりと後ろに下がり始めた。そしてそれを気にその周りにいたアテナ航宙重巡洋艦が、包み込むように右と左に回り込み始めた。

 シノダは、固まっていた三角形が前方外側から左右にほぐれ、続いて三角の底の方が前に進んだかと思うと左右に回り込んだ艦が後ろに付き、いつの間にか、三角形が反対になる映像を見ていた。まるで艦の一つ一つがバレリーナのように踊り、白鳥が羽を広げそして閉じるというみごと艦隊運動に目を輝かせた。

 やがて、それが終わると右舷になった哨戒艦が右舷前方にある肉眼では見えない「X2JP」方面の哨戒に当たるべく進宙を始めた。左舷と後方の哨戒艦も今通って来た未知の跳躍点と「X3JP」方面に向けて進宙を始めている。

「すごい」つい口に出してしまったシノダにアッテンボローは振向き、

「これが我第十七艦隊得意の艦隊運動だ。ミルファク星系広しと言えども、これが出来るのは、ヘンダーソン総司令官率いる我艦隊だけだ」そう言って自慢げな顔を見せた。

 日頃の艦隊整備、訓練のたまものだ。艦隊方向を前後逆方向にする為には、艦隊全体を時計回りに動かすのが一般的だが、これは時間が掛り過ぎるし、もしその時点で横から攻撃されたらたまらない。艦隊の隊形を変えつつ、即時応戦態勢を保つと言う離れ業は実戦経験者のみが体に染み込ませた方法だ。


 三〇時間後、「フォースデルタ」の第一級戦闘隊形に変えた「第三二一広域調査派遣艦隊」は民間輸送艦とタイタン級高速補給艦を下がらせると第二級戦速にて艦隊を進ませた。

「さて、どう出るかな」アッテンボローは、スコープビジョンを見ながら独り事の様につぶやいた。

 やがて相手の艦の姿が映像に捉えることが出来るようになるとレーダー管制官から

「艦型判明、航宙駆逐艦クラス一二〇隻、航宙軽巡航艦クラス八〇隻、航宙空母らしき艦なし。以上です」それを聞いたウエダ副参謀は、

「我々のヘルメース級航宙駆逐艦位の大きさですね。あのクラスの主砲では、重巡航艦のシールドも破れない。艦数も圧倒的に少ない。隊形も単純な長方形を縦にしたような形だ。あれでは、もろすぎるぞ」それを聞いたアッテンボロー主席参謀は、

「攻撃手段が、まだ解らん。今は甘く見ない方が良い。あれだけの艦隊で向かって来るのだ。何か策があるのだろう」


「艦長、敵味方不明の艦隊からメッセージです」ハウゼーは、自分のスクリーンに表示された内容を見るとすぐにヘンダーソンに送った。

「総司令官。どう思われますか」ヘンダーソンは、眉間に指を当てると少し考え込み

「主席参謀、副参謀。君たちも見てくれ」と言って目の前に有るメッセージを送った。

「盗んだ物を返せ。さもなくば死ぬ」か。口に出して言う主席参謀にホフマン副参謀が

「我々は、甘く見られているのですかね。あの程度の艦数と装備で我々に勝てると思っていのか」

「幼稚すぎませんか、内容が。少なくとも艦隊同士が向き合っているのです。こんな表現はしないでしょう。宙賊にしては、構えすぎていますが」

 ヘンダーソンは、

「ハウゼー艦長、前方に展開する哨戒艦を下がらせてくれ。左舷前方はそのままに」

「今ここで彼らの要求を呑めば、次にあの星系に行った時、どういう対応にでるか解らない。ここは彼らの戦力と武器を見極めるためにも少し対応してみるか」

 艦数、武力共に圧倒的に優位と考えているヘンダーソンは、彼らの技術を確かめたいという衝動に駆られていた。

「返せない。我々は死にもしない」と返答して反応を見るか。そう言って参謀たちの顔を見ると同意の表情を見せた。ヘンダーソンは、

「ハウゼー艦長、このメッセージを返答してくれ」と言った後、全艦に前方シールドを最大にするように伝えた。


 双方が三〇光分まで迫った時、

「敵艦隊、ミサイル発射」レーダー管制官の声にヘンダーソンは、

「早すぎるな。全艦、対敵ミサイル距離一〇光秒まで迫った時、アンチミサイル発射、一光秒でmk271c(アンチミサイルレーダー網)発射。敵艦隊との距離が三〇光秒まで近づいたら中距離ミサイル発射」

「攻撃は十分ひきつけてから行うものだ」そう思いながら、相手の対応が見えないでいた。

 敵艦隊まで三〇光秒と迫った時、ヘルメース級航宙駆逐艦の後方に展開するワイナー級軽巡航艦一二八隻から一隻当り二〇本、計二五六〇本の中距離ミサイルが次々と発射された。

 更に二〇秒後、前方に位置するヘルメース級航宙駆逐艦一二八隻から一隻当り12本、アテナ級重巡航艦六四隻から一隻当り十八本のアンチミサイルが発射された。一瞬間をおいて全艦がmk271c(アンチミサイルレーダー網)を発射した。

 敵艦から発射されたミサイルにアンチミサイルが突進していく。アンチミサイルに捉えられた敵ミサイルが、宇宙空間にまばゆい光の点となって現れた。まるで遠くから小型花火を見ているかの様だ。

 アンチミサイルをくぐりぬけた敵ミサイルが、今度はmk271cに掛る。シールドにぶつかり爆発するミサイルを見ていると、ミサイルが壁にぶつかっているようだ。それもくぐりぬけたミサイルが、艦の前方に広がるシールドにぶつかり、まばゆい光をはじき出す。艦隊の前方に光のショウが始まっている。

 「すごい」始めてみる凄まじい光景にシノダは息を飲んで見ていた。


 ・・ミサイルは、敵艦の位置を知る為、近くに来るとミサイル自身が、アクティブに探査レーザーを出し、目的に誘導するように作られている。

 これを利用し、アンチミサイルはパッシブモードレーダーで飛来したミサイルを認識し迎撃する・・正確にはぶつかって行く・・当然この方法は、はずれもあるので後方にmk271c(アンチミサイルレーダー網)を配置する。

 mk271cは、網の目に広がったシールドだ。突進してきたミサイルがシールドに触れて破壊される仕組みだ・・但し同じところに複数のミサイルが突入した場合、壊されたても修復しない・・ので、二本目以降のミサイルは通過してしまうのが弱点だ。

 この二重防御を行っても発射された敵ミサイルの二割程度は通過する。この通過したミサイルを艦の前方に展開するシールドで防御する・・・

 

 三段階で迎撃された敵ミサイルは一発としていずれの艦にも届くことはなかった。

 ヘンダーソンはこちらから発射された中距離ミサイルの結果をスコープビジョンから見ていた。

 中距離ミサイルが、三〇光秒まで迫った時、長方形の広い面を向けていた敵艦が、一〇隻に一隻の割合で前進してきた。「何をするのだろう」と見ていると艦同士からレーザーの様な鈍い光を出し、双方が交差すると艦と艦の間、四艦で一つの薄い灰色のスクリーンを形成し始めた。ちょうど長方形の広い面を何枚ものスクリーンで覆う様にしている。

 ヘンダーソンは、「何だ、あれは」と思いつつ、やがて中距離ミサイルが一光秒まで迫った時、突然、そのスクリーンが前面に飛び出してきた。

 全長八メートルの中距離ミサイルがスクリーンに触れた瞬間、爆発もしないで消えていったのである。まるで消しゴムで消されるように。

艦橋がざわついた。

「何だ、あれは」アッテンボローの声にヘンダーソンは

「我星系でも最高機密にしてる、あれをもう実現しているのか」その声にアッテンボローは、苦味虫をつぶしたような顔になった。

「総司令官、主砲射程距離に入りました」艦長の声に

「主砲発射」全艦に向かってヘンダーソンがコムで叫んだ。隊形をフォースデルタにした、四つのグループの艦隊が前進しながら主砲を一斉に発射した。

 アガメムノン級航宙戦艦の二〇メートル収束メガ粒子砲、ポセイドン級巡航戦艦の一六メートル収束メガ粒子砲、アテナ級航宙重巡航艦、ワイナー級航宙軽巡航艦、ヘルメース級航宙駆逐艦のレールキャノンが一斉に火を噴いた。巨大な光の奔流となって敵艦に突き刺さる。

 三〇万キロをコンマ五秒で到達する陽電子粒子砲は、敵艦のシールドと思われる部分に触れた瞬間、まばゆい光を発した。やがてシールドが破壊されると艦の正面の装甲にぶつかりまたもやまばゆい光を発し、それは徐々に艦の装甲を溶かしていった。・・真っ赤に熱した鉄の棒がスチロールの塊を溶かすように・・やがて艦の半分近くまで到達したエネルギーは消滅し、艦自体が残骸として残る。乗員は、何も感じることもなく蒸発しただろう。そう思うとヘンダーソンはわき腹が突かれるような感覚に襲われた。

 一度の斉射で長方形の広い面を見せていた艦隊は、ボロボロになった。まるで穴だらけの布だ。二度目の斉射で、艦の大半を失った敵艦隊に三度目の斉射が襲いかかろうとした時、隊形をバラバラにして一目散に「X2JP」方向に逃げて行った。それでも三度目の斉射によってほとんどの艦は残骸と化している。

 三〇分後、スコープビジョンには、一三〇隻は超えると思われる敵艦の残骸だけが残った。ほとんどの艦は前方を向いていた為、まともに砲撃を受け、残っていても半分、多くが四分の一も残っていないありさまだった。

 アッテンボローが「掃討に移りますか」という問いにヘンダーソンは、

「いや、あれでは動ける艦はないだろう。駆逐艦と軽巡航艦を前に出して生き残った者がいないか調査してくれ。ウエダ副参謀、我が方の損害出たか」その声に

「それが」アッテンボローが「どうした」という顔を向けると

「損害無しです」

「なにっ」アッテンボローが気の抜ける声を出した。

「敵、主砲の威力が小さすぎ、駆逐艦のシールドも破れなかったとの報告が届いています。また、重巡航艦以下の放ったレールキャノンは、敵艦のシールドを簡単に破り、敵艦の装甲を貫いたそうです」

 ヘンダーソンは「どういうことだ。あれだけの技術力を持ちながら。それともまだ何かるのか」と答えの出ない疑問が頭の中に淀んだ。

 スコープビジョンを見ながら敵艦の調査をすべく航宙駆逐艦と軽巡航艦合わせて二三隻が敵艦まで後数百キロまで迫った時、いきなり、スコープビジョンに凄まじい光が入ってきた。瞬時に光量を落としたが、まともにスコープビジョンを見る状況ではなかった。

「どうした」ヘンダーソンの叫び声にレーダー管制官が、

「敵艦の残骸が自爆しました。一隻残らず」

「なんだと」

 息を飲むことも出来ずスコープビジョンを見たヘンダーソンは、唖然とした。先程まで前方に漂っていた一三〇隻を超えると思われた敵艦が、巨大なガスの塊となって映し出されている。艦橋で数秒の間動けるものはいなかった。

「ハウゼー艦長、調査に向かわした艦はどうなった」ヘンダーソンの声に

目の前のスクリーンボードを見たハウゼーは、一瞬声を失った。

「八隻が大破、三隻が中波、一二隻が小破です」言葉を失ったのは、ヘンダーソンも同じだった。

「何ということだ。もう少し間を置けば被害が出ずに済んだのに」あまりの大勝に浮かれすぎた自分自身に情けない気持ちでいっぱいになった。

「敵の最後の手段か。これが」気をすぐに取り直すと

「ハウゼー艦長、後方に下がらせた哨戒艦を「X2JP」方面に向かわせて警戒に当らせてくれ」それを言うと今度は、コムを口元にして

「駆逐艦「ヘレネ」、駆逐艦一〇隻を伴って被害が出た艦の乗員の救助をすぐに行ってくれ」

「グレイプ、カロン、ニクスの高速補給艦は、中波以下の艦の修理に当ってくれ」

 次々と指示を出すヘンダーソンの顔を見ながらシノダは、「今まで見たことのない提督の苦悩の表情に胃が締め付けられる思いがした。「これが戦闘か」

 「ヘンダーソン総司令、爆発の大きさが異常です。通常の核融合炉の爆発、それもあのクラスでは、航宙駆逐艦の距離まで衝撃波が届いても軽く衝撃を受ける程度です。あれは、爆発と言うより外に向けてエネルギーを放出したと言った方が正しいです」

 ウエダ副参謀の声にヘンダーソンは、

「最初からそのつもりだったと言うことか。しかし自分自身を囮にしてまでするか」

「いえ、あの艦隊が、正確には逃げた艦以外が、リモートだとすれば納得がいきます。それにあの無力な艦の装甲意味も。コアの周りは強固にして主砲の影響をおよばせない様にしたのではないでしょうか。いずれにしろ今回捕獲した「艦の残骸」が教えてくれると思います」

ヘンダーソンも主席参謀もウエダ副参謀の考えに納得のいく思いで聞いていた。


 五時間後、負傷者の救護と、中波以下の艦の応急修理を終えた艦隊は、隊形を標準戦闘隊形にしたまま、ミルファク星系跳躍点に向けて航宙した。

 跳躍点まで後、一日半の航宙である。




 

 

 







 

 







































 





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