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私は時計が嫌いだ

作者: 教官様様

今現在の時刻は何時ですか?

それは時計を見ればわかります。

しかし、その時計に表示されていた時間は、

果たしてあなたが思っていた時間と同じでしたか?

時間の長さは、人によって異なりますが、

時計によって異なることはないはずです。

そんなことを感じながら生きる人は、

一体何を思って毎日を過ごしているでしょうか。

私は工場の歯車


私は工場の歯車、

私はこの工場で働く従業員。

所詮は、工場のための道具に過ぎない。

所詮は、工場のための歯車の一つに過ぎない。

毎日手足の疲れを覚え、その度に時間を見る。

自分が思っているよりもはるかに時間の流れが遅い。

私は時間が嫌いだ。


私は時間が嫌いだ

仕事の時にはいつもより長く、

趣味の時にはいつもより短く。

そんな時間を指し示す時計が嫌いだ。

私は時計が嫌いだ。


私は時計が嫌いだ。

時計はとても正直だ。

いつも正確な時間を私に指し示してくれる。

だが私の心には嘘をついている。

私の心をことごとく踏みにじり、現実を突き付けてくる。

私はそんな時計が嫌いだ。

私は時計が嫌いだ。


私は時計が嫌いだ。

時計は私に嘘をつく。

工場の時計は私に嘘をつく。

私の時計は私に嘘をつく。

いつものように思っているよりも遅く、

いつものように思っているよりも早く、

仕事もこれくらい短ければいいのに、

趣味もこれくらい長ければいいのに、

それでも時計は嘘をつく。

私は時計が嫌いだ。


私は時計が嫌いだ。

もういっそのこと、これくらい長い時間だと自覚し、

長く働いたつもりでも5分と思っておこう、

そうしてみたら、案外その通りだった。

時計が私に正直になった気がした。

私は時計が少し好きになった気がした。


私は時計が少し好きになった。

趣味の時間も、いつもより短く考えてみたら、

案外その通りだった。

私の時計も正直になってくれた。

私は時計が好きになった。


私は時計が好きになった。

いつも私とともにある時間。

そしてそれを指し示す時計。

時計はいつも正直で、静かだ。

私は、そんな時計が好きだ。

私は時計が好きだ。


私は時計が好きだ。

仕事中にも、時計と私の心は一致した。

趣味の間にも、時計と私の心は一致した。

私と時計の心が一致するのがうれしかった。

私は時計が好きだ。


私は時計が好きだ。

私は時計にお礼を言おうと思った。

でも時計は話せない。機械だから。

時計は話を聞けない。機械だから。

時計は心を持たない。機械だから。

それでも私は、心の中でそっとつぶやいた。

「ありがとう」

その時聞き覚えのない声が聞こえた。

「どういたしまして」

私はあたりを見渡した。

当然私一人の部屋に人の気配などあるはずもない。

声の主は時計だった。

時計が私と話をした。


時計が私と話をした。

それからしばらく、時計と会話をした。

「今何分だろう?」

私がつぶやくと

「今9時16分だよ。」

と答えてくれた。

「俺と同じだな」

優しく返事をした。

時計はとても優しい。

私とも気が合う。

私は時計を愛した。


私は時計を愛した。

その次の日の夜、

時計は私に話しかけなかった。

昨日はあんなに楽しく話していた時計が、

突然口を利かなくなった。

私は時計ともっと話がしたい。

私は時計と話がしたい。


私は時計と話がしたい。

仕事中にも時計と話がしたくて、

時計のことを考えていたら、

普段やらないミスを犯した。

上司に怒られるが、

私の眼中には時計しかなかった。


私の眼中には時計しかなかった。

ある日、時計は私に嘘をつき始めた。

仕事がいつもより早く、

趣味がいつもより遅く。

あれだけ気が合った時計が、

嘘をついてきた。

時計が寂しがっているように見えた。

私は時計に会いたい。


私は時計に会いたい。

それから時計は常に嘘をつき、

私に何かを訴えていた。

だが私には時計の言葉が聞こえない。

いつも嘘をつき続けている時計は、

私を睨んでいた。

時計は私を睨んだ。


時計は私を睨んだ。

あまりにもしつこい時計の嘘。

あまりにも長い時計との別れ。

私は耐え切れず、部屋中の時計を倉庫へしまった。

あえて捨てず、壊さず、電池も抜かず、

倉庫へしまった。時計を愛しているから。

私は時計を愛していた。


私は時計を愛していた。

私は時計が伝えたい気持ちが知りたくなり、

倉庫の時計を取り出した。

私に話しかけてきた時計とは別の小さな時計。

時計は裸を見られても恥かしがらない。機械だから。

時計は体を開かれても痛がらない。機械だから。

時計は電池を抜こうとしても否定しない。機械だから。

私はネジを回し、時計の中身を見た。

時計の中身は歯車だった。


時計の中身は歯車だった。

開けてすぐ目に飛び込んできたのは、

歯車、歯車、歯車。

工場にいる私と同じ、歯車であふれかえっていた。

歯車によって構成されたその時計は、

私の心に何かを伝えてきた。

でも時計は意志を持たない。

時計は意志を伝えられない。

時計は感情をぶつけてこない。

私と同じ歯車なのに、彼らからは何も聞こえてこない。

私は意志を持つ。

私は意志を伝えられる。

私は感情をぶつけれる。

私と同じ歯車なのに、私は何もかも聞こえてくる。

私はこれと同じ歯車なんかじゃない、

私は工場の道具じゃない。

私は人間だ。


私は人間だ。

結局、時計が伝えたかった思いもよくわからず、

何年もの月日が経っていた。

未だに時計は私に嘘をつく。

でも気づいたら、部屋に私の時計が飾られていた。

私は時計が恋しくなり、時計を飾り直すことにした。

私は時計と過ごしたかった。


私は時計と過ごしたかった。

ある日の午後、二の腕をぶつけた。

その瞬間、とある記憶が蘇った。

上司からの説教、

高校の教員の説教、高校に受けたいじめ、

中学に受けたいじめ、小学に受けたいじめ、

それら記憶は私の中をよぎり、私を苦しめ続けた。

私は緊張のあまり、その場で倒れた。

私は初めて仕事で倒れた。


私は初めて仕事で倒れた。

すぐに健康管理課に運ばれ、記憶について

一つ一つ話した。

「うん」 「そう」

そんな返事を聞きながら単調に。

それでも私は時計と過ごしたかった。

私は家へ向かった。


私は家へ向かった。

その時、私の目の前には信じがたい光景が広がっていた。

私の時計が、今日の午後に記憶が蘇った時間と

全く同じ時間から動かなかった。

そう、私の時計が死んだ。


私の時計が死んだ。

私はすぐにその時計へ駆け寄り、

電池を入れ替えたが、時計は全く動かなかった。

時計が死んだ原因を調べようと、

解体を試みたが、見たことないネジによって

固定されたその蓋をあけることはできなかった。

私の時計が死んだ。


私の時計が死んだ。

私はその夜、時計から離れられなくなった。

常に身のそばに時計を置き、

一滴の涙をこぼした。

私の中であふれていた感情が、

形となって表れた瞬間でもあった。

そんな思いを伝える前に、

私の時計が死んだ。


私の時計が死んだ。

私の時計は、何年も黙り込んでいた。

それでも私の時計は、私に嘘をつき、

私に何かを伝えようとしていた。

そんな思いを伝えられる前に、

私の時計が死んだ。


私の時計が死んだ。

次の日、私は初めて仕事をサボった。

何も感じず、何も話さず、何も聞かない時間だけが

ただずっと過ぎて行った。

時計の音も聞こえない沈黙の部屋に、

魂の抜けた一つの肉体が布団に倒れこんでいた。

私は壊れた機械になった。


私は壊れた機械になった。

それから気づかぬうちに、何日も経っていた。

電話が鳴っても答えず、インターホンにも出ず、

食事もせずにただ柱に飾ってある死んだ時計を眺め、

排泄すら忘れて布団は汚れていた。

私は何もしなくなった。


私は何もしなくなった。

ある時一つの電話がしつこく鳴り響いた。

それでも私は電話に出なかった。

そもそも電話の出方がわからなくなっていた。

電話に出ることができなかった。

動くことすらままならなかった。

木の棒のようなその体は、

私の抜け落ちた希望が

いかに大きかったかを物語る。

しかし、そんな思いすら届かぬまま、

私の時計が死んだ。


私の時計が死んだ。

電話が鳴りやみ、しばらくの沈黙が部屋を支配した。

その直後、インターホンが何度か鳴り響いた。

それでも私は出ることができなかった。

すると突然扉が開いた。

鍵をかけていたはずの扉が勝手に開いた。

少し視線をずらすと、そこには健康管理課の人が

驚いた様子でこちらを見ていた。

あの人はすぐに携帯で電話をしていた。

そんなことはどうでもよかった。

私の時計が死んだ。


私の時計が死んだ。

気が付いたら大きなサイレン音と共に、

白い屋根、白い布に包まれ、

目の前には白いヘルメットを被った

二人がこちらの様子を見て、

何かを話していた。

その意味を私は理解できなかった。

私は完全に壊れていた。


私は完全に壊れていた。

次に気が付いたときには、白い屋根、白い布に包まれ、

傍らには心電図が映し出されていた。

ここは病院だ。私は病院へ運び込まれたのだ。

その視線の先には時計があった。

あの時計は私に時間を指し示してくれた。

でも私の時計は戻らない。

私の時計が死んだからだ。


私の時計が死んだ。

口元に運ばれる何かを噛みしめ、

喉に力を込めるだけの時間。

医者から何かを聞かされていたのをただうなずくだけの時間。

これだけめんどくさい時間を過ごしても、

私が思っている以上に時間の進みは遅かった。

あの時計は私に嘘をついている。

でも、私の時計は何かを伝えたがっていた。

あの時計は、私に何も感じさせてくれない。

私の時計の思いが知りたい。


私の時計の思いが知りたい。

私はただ無意味な時間を時計の秒針と共に過ごし、

秒針の音を聞きながら生きていた。

その無意味な時間は、私の時計に対する思いをさらに

強くしていった。

あの時計は、私に思い出させようとしているのだろうか。

時計はさびしがり屋なのだろうか。


時計はさびしがり屋なのだろうか。

いつかの夜、私の耳には、

他の患者の吐息と時計の秒針の音しか聞こえなかった。

そんな時、ふっと何かの音が鳴りやんだ。

時計の音、秒針の音だ。

あの時計は、私が無意味な時間を過ごしていながら、

何も伝えぬまま死んでいった。

病院の時計が死んだ。


病院の時計が死んだ。

その次の日、看護師は死んだ時計に気づき、

すぐ新しい時計をつけ直した。

だが、その時計からは秒針は聞こえなかった。

デジタル時計だった。

思いも感情もない、ただの数字だけの機械だった。

私は、もう二度と時計の音が聞けないのかと思った。

私は時計ともう一度会いたい。


私は時計ともう一度会いたい。

そう思った私は、誘われるがままに病院の屋上へ向かった。

私の時計の元へ向かいたい。

そう思った私は、屋上を取り囲む柵を乗り越えた。

私の時計の思いを知りたい。

そう思った私は、ためらいなく。

  −病院の屋上から飛び降りた。−

初めまして、初投稿です。

時間のこと考えながら働いてたら

思いつきました。

ほんとにそれだけの作品です。

ただ、働きながら物語を考えるのは

とても楽しかったので、

今日に限っては辛い仕事も楽に終わってくれました。


そんな日常から生まれた1作でしたが、いかがでしたでしょうか?

普段から物語やら小説やらは考えはするのですが、

このように形にするのは初めてでしたので、とても嬉しく思っています。

最後まで読んでくださってありがとうございます。


実はこの話には続きがありますので、次作ご期待ください。

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