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第2話

ハデルという国は砂漠の真ん中に位置する国である。国の人口はそれ程多くないが、常に旅芸人や商人達が行き交うため、街に人は多い。

王都はグロソップ、皇女シラの住家つまり王宮が街の中心にでん、と居を構えている。その王宮から歩いて30分もすればこの国一番の繁華街にたどり着く。

そして先程王宮から抜け出したシラは繁華街の中を颯爽と闊歩していた。賑やかな街中はシラは勿論、旅人達や国民、来る人全てを楽しくさせるようだと常々シラは感じている。身内贔屓と言えばそれまでだが、全くの的外れでもないだろうと思わせる喧騒がある。砂漠特有の橙の地面、頬を撫でる少し熱気を孕んだ強い風、その風に煽られて進む白い雲と水を流したような青い空。色鮮やかなこの国をシラは心底気に入っている。

それはもう、何処かに嫁ぐ気にはなれない程に。


「…やってらんないなぁ…」


小さく呟いた声は風に溶ける。一つ溜息をついたシラは目当ての店を見つけ、足早に中に入っていった。




その店は古汚いような店内で、照明は薄暗く橙の明かりが中を照らしている。入口から階段を下り、降り立つ店内にはカウンターと三つの長方形のテーブルが置かれている。照明からの影か、それともただの汚れか、判断のつかない古ぼけた木のテーブルには全て灰皿とナリタリカのスパイスが据え付けられている。

シラがこの店に入ってきたのはまだ日も明るい内だというのに、そこには14人の男達が居座っている。真昼間から酒を飲み、煙草に火を燈す彼らはシラを見て安心したように息をつき、笑いかけた。

「…遅いぞ、シラ」

「また出掛けるに手間どったんだろう」

「今日も逃亡したのかよ?」

口々に話し掛けられ、シラは笑いながらカウンターの中央の席に座る。

「まぁね。いつもの通りだよ」

カウンターに腰を掛けると同時に飲み物が出される。シラがいつも頼む炭酸水で割ったアルコールである。

当然のようにそれを口に含み、シラはゴクリと喉を鳴らした。

「それでどうなの?順調?」

冷えたグラスを頬に当て、その冷たさに満足しながらシラは真横に座る男に話しかけた。

男はナバタという名前で、年齢は25歳、背が高く、整った端正な顔をしている。しかし明るく陽気な他の男達と違い、一人落ち着いていてどこか冷たい感じのする男でもある。

ナバタはシラに視線を移し、まじまじとシラを眺めた。

「…まぁな。こっちの準備は上々だ。後はタイミングだけだろう」

「それはよかった。けどまだダメよ」

にっこりとシラは笑う。ナバタを上目遣いに見つめてシラはくるりと椅子を回転させ、そこにいる一同を見渡した。

「私達の明日に!乾杯!」

持っていたグラスを掲げ、男達の歓声を聞きながらシラはグラスの中身を空けた。




ハデルの王宮に着いたラース率いるジーナの一行は王宮の中、応接室でレオザとの謁見を迎えていた。初めて見るハデルの王をラースは不躾な程まじまじと見つめた。

青い瞳、黒い髪、甘いマスクの美男子ではあるが、ラースを驚かせたのはそこではなく、肌の色である。

「…白い…」

思わず呟けばレオザはフッと鼻で笑う。

「お前もな」

「…この国では珍しいですよね」

「まぁな。来るまでに見られたろ?」

褐色の肌が中心に行き交う中でラース達のように肌の白い人物は人の目を引く。服を着て肌の色が隠れても何処かが違う。ちょうど今のラースのようにじろじろと見つめる者ばかりだった。ラースはレオザを見つめて素直に頷く。

「そうですね。まぁ、見られましたけど、慣れてますから」

にっこりと笑うラースをレオザは値踏みでもするように眺める。将来自分の弟になるかもしれない少年はレオザを見て楽しそうに笑う。

実際王族に生まれたからには見られる事は当然なのだ。その一挙手一投足を国民だけでなく他国も注目している。生まれた時から人々の視線を集め、それは死ぬその時まで続く。否、もしかしたら死んだ後まで続くのかもしれない。王族とは、それ程の注目を集めるのだ。そしてそれは好意的なものだけではない。中には敵意もある。好意的な視線と敵意ある視線に射ぬかれながら決して屈する事のない人物、それが王でなくてはならない。少なくともレオザはそう考えているし、今目の前にいる王子もその事は理解できているように思える。

「それはそうと、シラ様はどちらに?」

にこりとラースは笑う。当然といえばその通りの質問にレオザはピクリと眉を跳ね上げる。牽制でもするようにラースを見遣るが、ラースは飄々と視線を受け流す。質問の答えを待っているラースにレオザは深い溜息をつき、片手で額を抑えた。

「…いない。会うのは明日にしてくれると助かるんだがな」

「いない、とは?」

「言葉通りだ。今はいない、ついでにいつ帰ってくるかもわからない」

深い溜息と共に言えば、ラースは目をしばたたき、次いで興味深そうに顎に手を沿える。

「成る程。シラ様は特にこの婚約に乗り気ではないということですね」

先程までの態度を変えずラースは相変わらず飄々と笑顔を見せる。その様子を呆れたように眺めてレオザは頷いた。

それを確認してラースも頷いてみせる。

「明日、会えるのを楽しみにしています」

いつまでも笑顔を崩さないラースをレオザは一抹の不安と大きな興味を持って見つめていた。


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