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俺の双剣は進化する。  作者: ☄️星拾いの旅人✨️


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第四話 転換点

 いつものようにギルドへ赴く俺は、いつもと違うギルドの様子に首を傾げた。

 なんだか騒がしい、というか焦っているのだ。受付のお姉さんも、ゴツくてチャラいおっさんも、手練れ感を醸し出しているおっさんも、なんだかそわそわしていた。


「何かあったの?」


 俺はたまたまいたルーシェに話しかける。


「ノクス知らないの? 異常事態が起きたのよ。今、ギルドが対策部隊を組んでいるらしいわ」


 対策部隊……確か緊急事態時にギルドがいくつかのパーティーをまとめて一つのグループにする、みたいなかんじのやつだったような。


 ルーシェによると、いつもの草原に魔物が大量発生したらしい。それも、草原では出くわさないようなランクの魔物が。


「昨日のオークと何か関係があるのか……?」


 昨日のオークは、本来なら現れないようなところで現れた。もしかしたら昨日の事がこの異常事態の前兆だったのかもしれない。

 報告しておけばよかった。勝利の喜びですっかり失念してしまっていた。


「ルーシェはどうするんだ?」


 俺が聞くと、ルーシェは愛剣である『家宝ヴェルディガス』の柄を強く握った。


「それはもちろん、魔物たちを倒しにいくに決まってるでしょ!」

「怖くないの?」

「はぁ? なわけないでしょ」

「すごいなルーシェは。流石、この歳であれだけの強さを誇る天才様だ」


 ちょっといじるように言った俺だったが、ルーシェの顔は曇った。


「……そうね。あたしなんて――」

「ああストップストップ! ごめん! 気に障るような事言っちゃって……!」


 地雷踏んだか…?

 ルーシェがいきなり目のハイライトをなくしてポツポツと呟き始めたのでヤバいと思って止めたが……彼女には何かありそうだ。

 今はこれ以上の詮索はよしておこう。


「じ、じゃあ俺も魔物討伐に参加しようかな! アハハハ!」


 怖かったが、自分の上達にも繋がると考え、俺も魔物討伐へ参加する運びとなった。



 ――――――――――――



 通常の依頼とは異なり、今回は緊急依頼ということで、ギルドから依頼が出された。報酬もかなり高い。

 Eランク冒険者でも参加は可能だったが、生死は自己負担で、とのことだ。



 草原につくと、そこは乱闘状態だった。

 いつもはスライムが数体いるだけのところに、ゴブリンやオークまでもがいる。

 冒険者たちもどうにか倒しているが、魔物の数はまだまだ多い。


「ふふん! 腕が鳴るわ!」


 ルーシェはそう言うと『炎付与(ファイアエンチャント)』をして魔物の集団へと突っ走ってしまった。


「よし、俺も……!」



 ――――――――――――



「ハァッ、ハァッ……い、生きててよかった……」


 双剣が『赤錆の熱双剣』に進化したことで、スライムとゴブリンなら余裕、オークはギリギリだが倒せるようになった。


 そして、オークの魔石と触れさせたことで、双剣が新たな進化を果たした。


 ◇◇◇


 名称:剛腕の双剣


 能力:腕力+30%


 ◇◇◇



 腕力が大きく上昇するため『剛腕の双剣』が攻撃力は一番高いかと思ったが、『剛腕の双剣』の能力は身体能力ではなく腕力のみの上昇だ。


 身体能力の上昇には腕力の他、俊敏性や持久力なども上昇するため総合的に見れば身体能力が10%上昇する『赤錆の熱双剣』の方がいいのかもしれない。


「いや、どっちもって選択肢もあるか……」


 オーク戦で試したことがある、右と左で違う形態の双剣を装備するという選択肢。この場合、能力はどちらのものになるのだろうか。それとも……


 と、その時。


「っ、オーク!? まだ残ってたのか!」


 オークが前方から歩いてきた。魔物は全部倒したと思ったがまだいたらしい。


「いきなり実践だけど、試してみるか……!」


 右は『赤錆の熱双剣』、左は『剛腕の双剣』に形態移行(シフト)した。


「うおおっ! ……うわ! 全然違う!」


 まずは『赤錆の熱双剣』に熱を帯びさせ、そのままオークの足へ斬りかかる。


 明らかに威力が違った。

 今まではオークの足に刃は入るが、途中で止まってしまうので無理やり剣を引き抜いていたが、今回は肉をどんどん断っていき、オークの足を切断することができた。


 やはり、左右に異なる形態の剣を装備すると、どちらの能力も発動できるらしい。これは大きな発見だ。


「おっと……」


『赤錆の熱双剣』を装備しているおかげで俊敏性も上がり、オークの攻撃も避けやすい。

『剛腕の双剣』を装備しているおかげで攻撃も通りやすい。


 この調子で畳み掛け―――


「おらあああああああああっ!!!」


 と、双剣を握り、オークへ突っ込もうとした俺の前に、人の影が走り抜けた。

 俺がその姿を確認する前に、その人は大きく跳躍し、オークの巨体を一刀両断してしまった。


 ルビーのような赤髪の、中学生くらいの少女………ルーシェだった。


「ああっ! 俺の手柄がぁ!」

「え? あ、アンタいたのね」


 ふぅ、とルーシェは息を整え、俺に近づいてくる。

 その額には汗で前髪が張り付いていた。どれだけ魔物を倒してきたのか。


「それにしてもオークを一刀両断か……アハハハ……」

「遠い目してどうしたのよ?」

「いや、上には上がいるな……と」


 首を傾げるルーシェ。


「まあ、お疲れ様」

「ふぅ……それにしても、疲れた……」


 俺は地面に倒れ込む。あぁ、このまま寝てしまいたいくらいだ。


「今日の魔物の数はすごかったものね。………そんなに疲れてるのなら、(うち)来る?」

「……………………え?」



 ――――――――――――



 なんか、ルーシェのお家にお邪魔させていただくことになってしまいました。

 俺はネクタイを整え……って、ネクタイなんて着けてなかった。


「なんでそんなに緊張してるのよ?」

「だ、だって貴族だぞ……! 無礼をはたらいたらこ、殺される……!」

「そんなことしないわよ」


「ほら、速く歩く」とルーシェは俺の背中をドスッと叩いた。かなり強い。痛い。



 しばらく街道を歩いていると、いきなりファンタジーの世界でよくでてくる貴族のお家があらわれた。


「ほら、入るわよ」


 ルーシェは俺の手を取って、豪邸へ入っていく。俺もルーシェに続いて門をくぐった。


 門をくぐると一気に、感動が押し寄せてきた。まさか自分が異世界へ行って、貴族の豪邸を見ることになるなんて夢にも思っていなかったからな。


「す、すご………」

「ふふんっ、でしょでしょ!」


 ルーシェも自慢げに鼻を鳴らした。こういうところ可愛い。


 ルーシェは俺を風呂場へ案内してくれた。


 風呂場はとても広かった。前世の最高級ホテルの温泉のようなかんじだ。毎日こんな豪華な風呂に入れるなんて少し羨ましい。


 俺は汗を洗い流してから浴槽へ浸かる。


「ぶへぁぁぁ…………っと危ね」


 気持ち悪いおっさんの声を上げるところだった。


 いや〜極楽極楽……とか思っていたら、浴室の扉が開いた音がした。


「え? ……………っ、はぁ!?」


 誰だ? と思って扉の方を向くと、なんとルーシェだった。バスタオルに身を包んでいるが、俺にとってはアウトだった。


 え、ここ女湯だったのか? そしたら俺、詰みなのでは? 人生終了ボタンポチッ♪


「すみませんでしたぁぁぁぁぁぁ!!!」


 俺は情緒不安定になりながら、急いで浴槽から出て、風呂場を走り、つるっと滑って盛大にコケた。


「………な、なにやってるのよ……」


 ルーシェがジト目で俺を見てくる。視線は俺の顔から下へ下へ………ある一点で止まった。


「なっ!? か、隠しなさいよ! 変態!」


 ルーシェは手元にあった固形せっけんを思いっきりぶん投げた。

 その際、バスタオルがひらりと揺れ、俺の目にも見えてしまった部分があるので俺からも言わせてもらう。

 隠しなさいよ、変態。


「ゴボォォォ!!!」


 ルーシェが放った豪速球(固形せっけん)は、俺の顔面にクリーンヒット。ストライクだった。


 だから鼻血が出ているのは、それのせいだ。

 決してルーシェの身体を見たからではない。


「あっ、わっ……ご、ごめん……」

「いや、気にしないで。………それで、何故ここに?」


 ルーシェは顔を赤らめて、言った。


「お父様に、『ボーイフレンドのお背中お流しできないでヴェルディガス家を名乗れると思うなよ!』って言われて……」

「お、おぅ………」


 ずいぶんと変わったお父様だ。


 『お背中お流しいたします』イベントをじっくりと堪能した後、風呂場を後にした。

 ちなみに風呂上がりの牛乳はなかった。

 ……いや、そこまでしてもらうのは贅沢すぎるだろう。


「やあ。君が我が愛しの娘、ルーシェのボーイフレンド……の、ノクス君かい?」


 と、その時。

 目の前に、やたらと光り輝く(物理的に宝石が多い)男が、まるでスポットライトを浴びているかのような足取りで現れた。


「俺……いえ、私はルーシェ様の、ただの友人です」

「ノンノンッ! 私に敬語なんて、そんな野暮なものは必要ないさ。それと、娘のことも『ルーシェ』と呼び捨てて構わない。愛に身分は関係ないのだからね!」

「は、はぁ……」


 男は指先をパチンと鳴らし、どこからか取り出した薔薇をひらつかせる。

 ……うん、やっぱりクセが強い。この人がルーシェのお父さんか。


「そうは仰られましても……貴族のお父様に敬語なしで話すというのは、かなり気が引けます」

「おっと、いけない! 呼び方を変えてもらおうかな。『お父様』ではなく、『パパ』。あるいは親愛を込めて『ヴェルディガス・マイ・ロード』と呼んでくれて構わない」


 ヴェルディガス・マイ・ロードは、ビシッと指をこちらに向けてウィンクした。

 ……ダメだ、この人。会話のドッジボールが強すぎる。


「君はおもしろい子だ。ルーシェとも仲良くしてやってくれよ! それでは失礼」


 ヴェルディガス・マイ・ロードは去って行ってしまった。入れ替わるようにルーシェが来た。


「パパ……っ、じゃなくて! お父様が失礼したわね」


 ふむ、普段はパパ呼びなのか。


「ノクスはこれからどうするの? 夜ご飯、食べていってもいいわよ?」

「いや、失礼させてもらうよ」


 夕食まで食べさせてもらうのは流石に恐縮すぎる。


 俺はヴェルディガス・マイ・ロードに挨拶をしてから、ヴェルディガス家を後にした。



 ――――――――――――



「ん? やけに騒がしい」


 ヴェルディガス家から俺の家までは、かなり離れていた。まあ冒険者ギルドから見て真反対の位置だしな。


 家の近くまで歩いてきたが、辺りが騒がしい。まるで地震でも起きた後のような。


「っ、ノクスの坊っちゃん!」


 訝しげに辺りを見回しながら歩いていると、近所のおっちゃんが駆けてきた。


「どうしたんですか?」


 おっちゃんは苦い顔をして言った。


「………お前んちが、魔族に襲われた……」

「………っ!?」


 急いで家へ帰った。


「……………」


 そこは、地獄だった。


 炎が広がり、家は倒壊している。倒壊した家に押しつぶされて動かない人がいた。ノクスの母親だった。すでに息はない。


 背筋が凍りついた。

 手足が震える。

「母さん」と呼ぼうとして、しかし声が出なかった。

 初めて、人の死を目の当たりにして俺は、ただただ立ち尽くしていた。

 自分の近くまで火の手が近づいていることに気づき、ようやく手足が動いた。


「………っ、父さん!?」


 横倒れている人影が見えた。

 父さんだった。

 傷だらけだ。誰でも手遅れだと分かるほどに流血している。だが、まだ意識があった。


「ノ、クス……お前は、無事で……よかった……」


 荒い呼吸の中、父さんはかすかに口角を上げた。


「なんでこんなことになってるんだ!? 魔族に襲われたって本当か!?」

「あ、ああ………それ、より……アルシア、が……攫われ、た」


 血の臭いがつんと鼻をつんざき、吐きそうになった。


「つい、この間まで、病弱だった……お前に頼むことしか、できない……こんな父親で、ごめんな……」


 父さんは、命を振り絞って、最期の言葉を紡ぐ。


「アルシアを、助けて、やって……くれ……ノクス……!」


 父さんは、息を引き取った。

 苦痛と後悔、それと少しばかりの希望が混ざった表情だった。


「…………」


 涙は流れなかった。


 両親が死んだというのに、俺の心はどこか他人事のように静まり返っていた。

 本当の両親ではないからだろうか。


 ………最低だ。



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