第三話 VSオーク
幼馴染のアルシアから婚約を受け、どうしたらいいものかと部屋にこもって考えても、結局なにも思い浮かばなかった。
アルシアには答えを出すまで待っていてくれと言った。期限は一週間。
「はあっ!」
俺は、八つ当たりをするようにゴブリンを斬る。『錆びた鉄の双剣』は、最初の木剣やスライムの双剣よりはまだマシなのだ。
最近は、ゴブリン程度ならば倒せるようになってきた。始めた筋トレと素振りのおかげか。
「まあ、この双剣のおかげでもあるか」
俺はウィンドウを開く。
◇◇◇
名称:錆びた鉄の双剣
能力:身体能力+5%
◇◇◇
進化すればするほど強い双剣になりそうだ。
「よし、気持ちを入れ替えて! 今日もゴブリン討伐するぞお!」
……わかってるさ。アルシアの事から逃げてるってことくらい。
――――――――――――
その後は順調だった。
依頼はゴブリンを十体討伐すること。ゴブリンの魔石を十個ギルドへ持っていけばクリアだ。
魔石は色々な用途があるので、あればあるほどいいのだ。主にエネルギー源。前世の世界でいうところの電気に近い。
「はっ……!」
もう一体、ゴブリンを仕留める。この身体は軽くていいな。三十路のおっさんとは違う。
「この調子だと、そろそろEランクに上がれるかもな」
冒険者にはランクがある。冒険者登録時がFランク。そこから六つのランクがある。並べるとこうだ。
F→E→D→C→B→A→S→X
一番上のXランクなんていうのは、一国に数人程しかいないらしい。今の俺では到底到達できない。
「今日は少し奥の方まで行ってみるか」
今日は探索範囲を広げて、草原の奥の方にも足を踏み入れてみた。
そして、すぐに後悔した。
「っ、お、オーク……!?」
何故こんなところにいるんだ。オークはCランクの魔物。ここらへんでは強くてもDランクの魔物しか出てこないはず。
「まずい……!」
逃げようとした俺だが、右足のすぐ横に斧が振り下ろされると、無理だと悟る。こんなヤツに背中向けて逃げるなんて不可能だ。
「……戦うしかないな」
俺は<双剣>を出した。『錆びた鉄の双剣』だ。
オークと目が合う。
三メートル超えの巨体。
不気味な目。
しかし
「ハッ、前世の上司の方が数倍怖いっつーの!」
そうだ。人を機械としてしか見ていないような冷徹なあの目よりはまだマシだ。
先手を打ったのはオークだ。
俺が双剣で突っ込もうとする前に斧を振り下ろしてきた。
それを間一髪で避けた俺は、斧の持ち手の部分に注目した。材質はおそらく木。もしかしたら持ち手を切断できるのでは? と、そんな考えが浮かんだ。
「………っ、硬っ!?」
俺は双剣を思いっきり斧の持ち手の部分に叩きつける。が、思い通りにはいかなかった。
少し凹んだ気もするが、斧の持ち手はほとんど無傷だ。この双剣が錆びていて切れ味も悪いところもあるが、ちゃんとした剣でも、俺の力量ではこの斧を切断するのは無理だな。
俺は斧の無力化を諦め、攻撃を掻い潜ってオークに攻撃する方向へチェンジした。
幸い、オークの攻撃は単純だ。斧を持ち上げ、振り下ろすだけ。
その威力と速度はマズいが。
と、その時。オークが斧を振り上げた。攻撃の予備動作だ。
振り下ろし攻撃は、オークの正面に立たなければ避けることができる。
俺は、横へ避けた―――はずだった。
オークの攻撃は、縦ではなかった。
「横かよっ……!」
オークは斧を横に薙いできやがった。
わざと攻撃を単純にして次も同じだろうと思い込ませてから予想外の攻撃をブチ込む策士か! と思ったが、多分偶然だろう。
俺は土下座をすることでなんとか斧を回避する。
前世で『超速土下座』の練習をした甲斐があった。
斧を振った後のオークの隙をついて斬り込もうと思ったが、ここでまた予想外が発生した。
攻撃方法は斧だけではなかったのだ。その巨大な足で俺の身体へ蹴りを入れる。
双剣で防ぎきることができずに、俺は吹き飛んだ。
「ガッ……ぁ……!」
木に背中から衝突し、肺の中の空気が強制的に吐き出される。骨は……折れてないことを祈ろう。
痛みでのた打ち回りたいのを必死に我慢して、俺は再びオークへ肉薄した。
「ぅ、おぉぉぉぉ!」
蹴りに警戒しつつ、両足に一撃ずつ、後ろに回って背中にも一撃入れた。だが浅い。自分の足を爪で引っかいた程度の傷だ。
一旦距離を取り、対抗策を考える。
「……、そうだ。スライムの双剣なら……」
俺は『錆びた鉄の双剣』から『スライムの双剣』へ形態移行させる。スライムの双剣の能力は確か、形状変化。それを利用すれば……
初めて使ってみたが、上手くいった。
スライムの双剣の一つを形状変化させて斧に巻き付け、近くの木に絡みつける。これで、短時間ではあるが斧は使えないはずだ。
そして
『形態移行』
俺は、片方のみ形態移行させた。もちろん『錆びた鉄の双剣』だ。
俺は、死に物狂いでオークを斬りまくった。
何回も、何十回も斬り、ふと顔を上げてみると、目の前にオークの巨大な拳が迫っていた。
「ガッ………!」
ぐしゃっ、と嫌な音がした。多分、鼻がつぶれた音だろう。
俺は無様に転がりながら、地面に倒れる。
「く………そ……」
痛みで痛みが覆われていく、よくわからない感覚。俺は、殴られ蹴られても痛みに耐えて立ち上がれるような主人公ではないのだ。
ここまでよく戦ってきただろう。褒められてもいいくらいに。
死ぬ、と。そう思ったが変化は起こった。
双剣が光った。
進化の時の光だ。
その光を見て俺は、漠然としたやる気に包まれた。大丈夫だ、まだ死んでない。
「……まだ、死ぬわけにはいかない」
アルシアのこともまだ解決してないし、異世界ライフを楽しみ尽くせてもないんだ。
俺は双剣を両手で掴む。離れていても呼び戻すことができるらしい。
光がパッと弾け、新たな双剣が除く。
◇◇◇
名称:赤錆の熱双剣
能力:摩擦で剣身が高熱を帯びる
身体能力+10%
◇◇◇
「ぐっ……おおおっ!」
俺にとどめを刺そうと振り下ろされた斧を転がって回避すると、双剣をガキィ、と擦り合わせた。
「よし、成功だ」
思った通り、双剣が高熱を帯びた。熱放射で俺の腕も少し熱いくらいだ。
すでに満身創痍ではあるが、俺はオーク相手に突っ込んだ。蹴りをが肩を掠り、殴りが耳を掠ったが直撃はしていない。
「うおおおおおっ!!」
オークの腹に二閃入れた。
進化した双剣は、先程までの殺傷力の比ではない。
オークが、初めて焦った声を上げた。
思った以上だ。身体能力が+10%されているのも理由の一つだが。
オークの血が舞う。
怯んだ隙に、俺は右手にあった剣をオークの頭めがけて投擲した。その時、肋骨のあたりから嫌な音が響いたが、気にしない。
結局、手に弾かれて顔には当たらなかったが、それが、狙いではない。
オークの注意が一つの剣に向いた段階で、俺の勝利は決まっていた。
俺は、もう一方の剣をオークの胸元へ突き刺した。
――――――――――――
「ハァッ……ハァッ、か、勝った………」
オークの魔石を拾い、俺は冒険者ギルドへと戻った。
受付のお姉さんはボロボロの俺を見て驚いたが、オークの魔石を見せるともっと驚いていた。まさかFランク冒険者がオークを倒してくるとは思っても見なかっただろう。
ちょっとドヤった。
その後病院へ行き、治癒魔術で、潰れた鼻含め全身を治してもらった。あれが一瞬で治るのだから、やっぱり異世界ってすごい。
しかし治療費はまあまあかかった。とはいっても、オークの魔石で得た収入があったのでおつりは出たが。
「それにしても、また進化するとは」
あの状況で、双剣が進化しなかったら間違いなく俺はオークに殺されていた。まったく、運がいいやつだ俺は。
もうそろそろ日が沈む。今日は早く家へ帰ろう。……まあ、アルシアの事でちょっと家に居づらいが。
そうそう、俺もようやくEランクになることができた。まだまだ初心者ではあるが、成長の第一歩だろう。
俺はぐーっと伸びをして、雲の間から覗く異世界の美しい夕陽を眺めながら帰路へついた。




