第二話 双剣の進化
俺の<双剣>は、進化する。
冒険者になって、数カ月。双剣の進化には、二つの方法があることがわかった。
一、魔石と触れさせる
これは、初めて双剣が進化した時の方法だ。もっとも、あの時は偶然だったが。
あの時はスライムの魔石と触れさせたため、スライムのような双剣になったが、おそらく他の魔物の魔石と触れさせれば、その魔物の特徴が反映された双剣になるのだろう。
二、経験値による進化
こっちのほうが進化っぽい。魔物との戦闘により、ゲームでいう経験値がたまり、一定以上溜まると双剣が進化する……のだと思う。
確信がないのは、証拠がないからだ。しかし、双剣が進化したときのウィンドウにこう書いてあった。
『一定以上に達したため進化しました』
何が一定以上に達したかはわからないが、おそらく経験値のようなものだろう。
こうして俺は、新たに二つの形態の双剣を手にした。全て並べるとこうだ。
・木製の双剣
・スライムの双剣
・錆びた鉄の双剣
一番最後の錆びた鉄の双剣というのは、経験値による進化で変化した形態のことだ。何故錆びているのか。切れ味もあまり良くない。
「ねぇ聞いてる? ノクス、こっち見て」
そんな俺は今、何をしているのかというと
「冒険者は危ないんだからね! ノクスが死んじゃうのが私は怖いの……。だから、やめたいって思ったらいつでもやめていいんだからね!」
「うん、わかったよアルシア。心配してくれてありがとう」
「……っ、ぅん!」
俺が微笑むと、アルシアは少し頬を上気させながらはにかむ。
俺は今、ハピハピ異世界ライフを満喫しているのだ。
こんな美少女に心配されるとか、俺前世でそんないいことしたっけ?
といってもアルシアは、精神年齢三十歳超えの俺からしてみれば子供のようなものなので恋愛感情は湧かないが。
え? 鼻の下が伸びてるって?
……おいおい勘のいいガキは嫌いだぜ。
……っと危ない、ついつい前世のおっさん的思考(謎)が出てきてしまった。今の俺は十五歳のピュアな少年なのだ。
――――――――――――
さて、異世界での生活も少し落ち着いてきたところで、もっとこの世界のことを学ぼうと、町の図書館へ出向いた。
俺の住んでいるデラル町は、中心都市から離れた比較的のどかな場所だ。治安も良く、人も優しい。
図書館へ入ると、ルビーのような赤髪の、見慣れた顔がいた。
「あれ、ルーシェ? ルーシェが図書館なんて来るんだ」
「アンタ、あたしの事バカにしてるわよね。あたしだって勉強くらいしに来るわよ」
ルーシェはそう言うと、ぷいっと顔を背けてしまった。
この図書館には勉強しにくる人が多い。こういうところは日本みたいだ。
「さて、俺も勉強しますか……」
俺はこの世界の地図や歴史書、魔術書などを片っ端から読み漁った。
どうやらこの世界では百万年も前から文明があったらしい。それなら何故、前世の世界のように科学技術が発展しないのか、と思ったが、おそらく魔術のせいだろう。
魔術で火を起こしたり、物を動かしたり、高速で移動したり出来るので、科学はそこまで必要視されなかったのだ。その代わり魔術は大いに発展している。
初級→中級→上級→超級→天級→神級
と六つに位分けされており、今までに数百もの種類の魔術が開発されてきている。
俺も異世界に来たからには魔術でも使ってみたいな、と思ったのだが、俺には魔術の才能はないらしい。
頑張っても初級魔術全般が使えるようになる程度だろう。
勉強するとか言っておいて隣でよだれを垂らしながら居眠りしているルーシェは、しかしかなり強い魔術士である。
といっても、ルーシェは派手な爆発魔術とかではなく身体強化などを使って主に剣で戦うタイプなのだが。
さて、この世界の歴史に話を戻そう。一万年前くらいに人と魔族の戦争があったらしいのだが、すぐに終結したらしい。何があったのかはよくわかっていない。
その時、知恵を持った魔族の王、つまり魔王がいたらしいのだが、魔王についても全然判明していない。
というか、この世界の歴史は内容が薄い。昔の人が記録に残していないのかは分からないが、百万年も前から文明があったにもかかわらず、歴史的な出来事は数千年から一万年に一回とかだ。
「ふわあ……、あれアンタまだいたの……っ!?」
ルーシェは目が覚めると、机に垂れている自分のよだれを見ると顔を真っ赤にして隠した。
「な、なによっ!」
「……何も言ってないけど」
「う、うるさいわね! 寝てたんだからしょうがないじゃない!」
「だから何も言ってないけど……」
ルーシェは意外と子供っぽいところもあるのだ。……まあ十五歳じゃまだまだ子供か。
「ちょいそこのおぬしら!」
俺が微笑ましくルーシェを眺めていると、後ろからしわがれた声がとんできた。
「図書館では静かにせい!」
見ると、エルフだった。もっとも、俺が思っていたようなお姉さんエルフではなく、おじいちゃんエルフだったが。
「なんじゃその残念そうな顔は」
「いえ、なんでも」
このおじいちゃんエルフはこの図書館を管理している。博識で、何でも知っているが年齢を聞くと怒るらしい。
お姉さんエルフでもないのに。
「なんじゃそのジト目は」
「いえ、なんでも」
俺たちは謝って、図書館を後にした。
「それにしてもルーシェ、なんか服が貴族みたいだな」
「そうね。だってあたし貴族だもの」
「へぇ…………………ん?」
えっ!? あのルーシェが!?
図書館でよだれ垂らしながら居眠りしてるようなあのルーシェが!?
「……いまヘンなこと考えたでしょ」
「いえ全く」
ルーシェが貴族。突然のカミングアウトに、俺はかなり驚いた。
どれくらいかって?
そりゃ、あのプライドの高い戦闘民族の王子が『ダニィ!?』って叫ぶくらいだな。
ふーん、とジト目で俺を見た後、ルーシェは外で遊ぶ子供たちに目を向けた。
「お空の青は ペンキの青
毎日 天使が 塗りなおす
もしも 筆が 止まったら
剥げた 隙間から 真っ黒が
ギョロリと こちらを 覗いてる」
子供たちは歌を歌いながら、けんけんぱらしき遊びをしている。それにしても変な歌詞だ。
「……ああいうのが羨ましいのか?」
「違うわよ」
ルーシェはそっぽ向くと
「じゃあ、また」
小さく手を振って、帰っていった。
――――――――――――
「あ、おかえりノクス」
家へ帰ると、アルシアが出迎えてくれた。ハグをして頬にキスをしてくれたのは、この世界の風習なのだろう。
本では読んだことはないが。
「ただいま」
出迎えてくれる人がいる家というのは素晴らしいものだ。前世、社畜おっさんだった俺は当然彼女や妻なんているわけがなく、ずっと一人だったからな。
「ノクスは何してたの?」
「ああ、図書館で勉強をね。アルシアは?」
「私はノクスの部屋で………っ! じゃなくて! その……のんびりしてた!」
なんか怪しい言葉が聞こえたような。
……まあいいか。
アルシアは俺の手を繋いでソファに座る。
そこまではいつも通りなのだが、今日はなんだか様子がおかしい。いつもよりそわそわしている。
「あの……ね、ノクス」
アルシアの顔が、赤く染まっていく。
俺は、うっすらと嫌な予感がした。だから、話をそらす。
「そ、そういえばアルシア。今日はいい天気だな」
だめだ。社畜おっさんに会話は難しいようだ。
「聞いて……!」
アルシアは、俺と目を合わせて離さない。
「私……」
ああ、だめだ。これは、避けられない。
「私、ノクスのことが好き……これからもずっと一緒に支え合っていきたい………だから……私と、結婚してください……!」
――――――――――――
結婚してくれ、と。アルシアからそう言われて、最初に感じたのは罪悪感。
当たり前だ。
なぜなら、それは俺に向けられた好意ではないのだから。アルシアが愛しているのは、彼女と共に時を刻んできたノクスの記憶だ。
しかし今ここにノクスはいない。今ここにいるのは、ノクスの皮をかぶった他人。
俺に、アルシアの好意を受け取る資格なんてない。
いつまでも黙っている俺に、アルシアは堪えられなくなったのか、から笑いをした。
「ご、ごめんね。いきなりこんなこと言われてもイヤだよね……ノクスは私のこと、別に好きでもなんでもないよね……」
「いや、そうじゃ……!」
「今のことは……忘れて?」
アルシアは、今にも溢れそうなほどに瞳を濡らしている。
「……ごめんね、ノクス」
アルシアはそう言うと、自室へ走っていってしまった。
残った俺は、ソファに倒れ込む。
……最悪だ。
あんな泣きそうな顔をさせて、俺は何をやっている。
だが、あのまま頷けばよかったのか? 彼女が求めているのは『本物のノクス』だ。
中身が別人の、ましてやくたびれたおっさんだと知ったら、彼女は今の百倍傷つくに決まってる。
泥棒。
ふと、そんな言葉が頭をよぎった。
ノクスの身体を乗っ取っただけじゃない。彼に向けられるはずの愛まで奪う。最悪にクズな泥棒だ。
俺にできるのは、アルシアの愛を汚さないようにノクスを演じ続けることなのか?
それとも、これ以上彼女の人生を搾取しないように、冷徹に突き放すことなのか?
どちらを選んでも地獄だ。
「……っ」
俺は、どうしたらいい……。




