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第006話_束の間の休息

 レオとルークがデザートを求めて先にトレーを下げに歩いていく。

ひとり残ったハルが、温かいお茶で一息ついているとーー。


「あ、あの・・・ハルさん!」

 横から、消え入りそうな声がした。


「ハ、ハルさんのあの手際! 本当に、本当に凄かったですぅ!」

 ルナは身を乗り出して言葉を紡いだ。


「あんなに複雑なユニットを、まるで全部構造が分かっているみたいににスイスイと! 私はオラクルの指示を見るだけで精一杯だったので。でも!ハルさんは指示が出る前から次の工具を持ってて。あ、あの無駄のない動き、瞬きするのも忘れちゃうくらい感動しちゃって!」


「あ、あの、ルナさん? 落ち着いて」

 決壊したダムのような褒め言葉の奔流にハルも思わず困惑した。貧困街(ガター)では周りに比べる人は祖父ぐらいしか居なかったので、ハルとしては”できて当たり前”と思っていた。これほど純粋な、熱を帯びた称賛を向けられた経験は初めてである。


「そ、そんなに大げさなものじゃないですよ。ただ、ガターには満足な工具も予備のパーツもなかったから。一度失敗したら、その機械は二度と動かなくなるし、僕たちの生活も終わっちゃう。だから、最短の動きで、機械に負担をかけずに直す方法を体が覚えちゃっただけなんです。じいちゃんが厳しかったから、手が止まるとゲンコツが飛んできましたし」

 ハルが謙遜気味に笑うと、ルナは少し落ち着いたのか、小さく「はわわ」と息を吐いた。


「やっぱり、ガターでの経験が今のハルさんを作ってるんですね……。あ、あの、一つ聞いてもいいですか?」

「うん、いいよ」

「・・・あ、あの。操縦士科のレナさんってガター出身だって聞きましたけど、やっぱり、お知り合いなんですか?」

「ああ、ずっと一緒に育った幼馴染だよ。腐れ縁ってやつかな」

 ハルが答えると、ルナの表情に同情とも畏怖とも取れる複雑な色が混じった。


「幼馴染! ・・・あ、あの、レナさんって、その、すごく元気・・・ですよね。ハルさん、レナさんにいつも振り回されたり、困らされたり・・・してないですか?」


 ルナの脳裏には、先ほど『肉よぉぉ!」と叫びながら突風のように食堂を駆け抜けていった時、女子寮で『その胸、邪魔じゃないの!?』と絡んできたレナの姿が浮かんでいた。


「あはは・・・」

 ハルは否定も肯定もできず、ただ乾いた笑いをもらすしかなかった。これまでの人生でレナの無茶振りに応え、壊した機体を直し、怒鳴り声の聞き役になってきた全ての苦労が凝縮されているようだった。


「まあ、退屈はしないよ。本当に」

 少し遠い目をしているハルの顔を見て、ルナは苦労していることを確信した。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 10分ほどガターでの生活やレナについてなど会話をしていると

「あ!私ったら、思わず長話になってしまいました。ごめんなさい! 本当にごめんなさいっ!」


 ふと我に返ったルナが立ち上がった。慌てて深々とお辞儀をするたびに、その豊かな胸元が大きく揺れ、ハルは目のやり場に困って思わず目を逸らす。


「あ、ううん、大丈夫だよ。僕も楽しかったし。じゃあ、また明日、実習でね」

「はいっ! 失礼しますぅ!」

 ルナは小走りに食堂を去っていった。その背中を見送りながら、ハルはほうじ茶の最後の一口を飲み干す。


「(いい子だなぁ。ガターには、あんなに真っ直ぐ褒めてくれる人、いなかったし……)」

 心が温かくなるのを感じ、ハルが小さく息を吐いた――その時だった。


「へぇ。ああいう感じが好みだったわけね、あんた」


 背後から、鼓膜に直接冷気を流し込まれたような声が響いた。

「うわっ!? ・・・レ、レナ!?」


 いつの間にいたのか。そこには、メガ盛り丼を完食して満足したレナが、不敵な笑みを浮かべて立っていた。


「な、何言ってるんだよ。ルナさんは同じ整備士科の友達で、実習の話をしてただけだよ!」

「ふーん。顔を真っ赤にして話してたわねぇ? 鼻の下が伸びてたわよ、天才整備士さん?」

「伸びてないよ! 揶揄うのはやめてくれよ・・・」


 ハルが椅子から転げ落ちんばかりに慌てふためく様子を見て、レナは満足げに鼻を鳴らした。


「ま、せいぜい鼻の下を伸ばして、ネジの締め忘れでもしないことね。おやすみ、ハル。しっかり寝ときなさいよ」


 言うだけ言って、レナは颯爽とそしてどこか上機嫌そうに食堂を後にした。残されたハルは、嵐が過ぎ去った後の廃墟のような顔で机に突っ伏した。

「なぜかどっと疲れた」


「ただいま、ハル。お待たせ!」

「お待たせしたな、ハル。デザートのソフトクリームの巻き加減についてレオと議論していたら遅くなってしまった」

 レオとルークが戻ってきた。デザートを手にご機嫌な二人だったが、机に突っ伏して魂が抜けたようになっているハルの姿を見て、同時に足を止めた。


「あれ? ハル、どうした? 具合でも悪いのか?」

「ハル、もし食あたりなら言ってくれ。私の実家から取り寄せた『浄化作用のある土』が――」

 レオが心配そうに覗き込み、ルークも真剣な面持ちでハルの肩に手を置く。


「いや。何でもないよ。本当に、何でもないんだ・・・」


 ハルは顔を上げないまま、力なく手を振った。

 最新AIとの格闘よりも、幼馴染の一言が今のハルには致命的なダメージとなっていた。

週1~2回の投稿を目指します。更新したときはTwitter(現:X)を使用してお知らせします。


また本作品は編集者としてGeminiを使用しています。

本文作成→Geminiによる添削・校閲→本文完成の流れで製作しています。

間接的とはいえAI使用になるため、信条に反する場合はブラウザバックお願いします。

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