第005話_初めましての体験
A.M.E.Aの初実習は、精神的にも肉体的にも学生たちを激しく消耗させた。
夕暮れ時。校舎から食堂へと続く連絡通路には、若者たちの開放感に溢れていた。
「いやー、それにしてもハル! お前の作業の速さ凄かった、マジでビビったぜ。オラクルがあんなに真っ赤になって処理落ちしそうになってんの初めて見た!」
「ありがとう。でもそんなに大げさなことじゃないよ、レオ君。僕はただ、手順通りにやっただけだから」
ハルは隣を歩くレオと先ほどの初実習でのことを話しながら、少し照れくさそうに笑った。貧困街では祖父以外から褒められることが少なかったので、こうして正面から褒められることにはまだ慣れていない。
そんな2人の後ろで人混みに紛れるようにして、ルナがついてきていた。彼女は会話の輪に入る勇気がなかなか出ずおどおどとした動作で、時折その豊かな胸元を揺らしながら一定の距離を保っていると、
「どきなさいよぉぉぉ!! 肉よ! 肉が私を呼んでるわぁぁ!!」
凄まじい風圧と共に、一陣の赤い突風が駆け抜けていった。
「うわっ!? 今のレナ?」
「だろうな。操縦士科の演習は整備士より体力勝負だって聞くし、あいつは特に燃費が悪そうだ」
脱兎のごとく食堂へ駆け抜けていくレナ。その後ろを、セシリアがと溜息をつきながら歩く。
「野蛮ね、これだからガター出身は」
さらにその後ろをルークが
「あの動物的な行動は空腹という名の極限状態からなるのか。勉強になる」
無駄に大真面目な顔で観察しながら続いていく。
A.M.E.Aの学生食堂は、もはや”学食”という言葉では形容しがたいほと立派な場所だった。
ホテルのラウンジのような内装、柔らかなジャズのBGM。そして何より、注文パネルに並ぶメニューがハルの理解を超えていた。
「・・・何だこれ。ステーキ、カツカレー、ナポリタン・・・。名前は知ってるけど、写真が僕の知ってるものと違いすぎる」
ハルはパネルの前で立ち尽くした。
ガターでの“ステーキ”といえば、出所のわからない動物の肉を練り合わせて作られる。見た目はまるでゴム靴の底のような代物だった。
しかし、目の前の画像に映るそれは、表面に美しい網目状の焼き色がつき、滝のような肉汁がお肉の断面からお皿へと溢れ出している。あまりの衝撃に固まっていると
「どうした、ハル。フリーズしているのか?」
背後から声が聞こえ振り返ると、ルークが音もなく合流していた。
「あ、ルークさん。いえ、どれを頼めばいいのか分からなくて。メニューが多すぎるというかなんというか」
「無理もない。ガターでの過酷な食生活――泥水と粘土のルーチンから、この多様性の海に放り出されたのだ。情報処理に手間取るのも無理はない」
「だから、粘土は食べてないって言ってるじゃないですか!」
困り果てるハルに、レオが肩を組んで割り込む。
「ハル! 男なら黙ってカツカレーだろ! 見てみろよ、このボリューム!操縦士ほどじゃないかもだが、整備士だって体力勝負。肉は食っとけ!」
「いや、レオ。整備士は繊細な指先の感覚を維持せねばならん。脂質は控え、この魚のレアステーキ御膳にするべきだ」
レオとルークが、ハルの両脇から熱心なプレゼンを始めた。
「カレーの刺激は脳を活性化させるぞ!」
「魚のDHAは神経伝達速度を向上させる」
「あ、あの、二人とも落ち着いて・・・」
結局ハンバーグ定食に決めて三人で席を探していると食堂の一角に、凄まじいオーラを放つ席には一人の少女がいた。
そこには、巨大な桶のような器に入った“メガ盛り特製唐揚げ丼”と格闘するレナの姿があった。
レナは周囲の視線を一ミリも気にすることなく、口の周りをタレと油でギトギトにしながら、唐揚げを口の中へと放り込んでいる。
「むぐっ、んぐっ、・・・ぷはぁ!! 最高ね」
恍惚とした表情で咀嚼するレナ。その食べっぷりはもはや”野生”そのものだ。
ハルは、目が合いそうになった瞬間、そっと視線を逸らした。
「(・・・今は、そっとしておこう。野生の猛獣は食事中が一番危険だって、じいちゃんも言ってたし)」
一方、その数メートル先。
セシリアは一人、一口サイズのミックスサンドイッチを指先すら汚さずに優雅に口へ運んでいた。
彼女は最低限の栄養を補給すると、席を立ち食器を片付けて早々に自室へと引き上げていった。孤高。その一言に尽きる。
三人は席に座り、お互いの実習について話しながらご飯を食べる。
「ハルは凄かったぜ!」
「ほう、オラクルを追い越すなんて聞いたことが無い」
「レオ君、話盛りすぎだよ〜」
たわいもない会話であったが、ハルにとっては同世代との会話はレナと以外では無かったので新鮮でもあり楽しいものであった。
レオとルークがデザートを求めて先にトレーを下げに歩いていく。
ひとり残ったハルが、温かいお茶で一息ついているとーー。
「あ、あの・・・ハルさん!」
横から、消え入りそうな声がした。
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