第004話_初めての授業 前編
今回も前後編。前編は整備士科であるハル編から!
A.M.E.Aの整備実習棟は床は防塵コーティングが施され、空気中に漂うのは重油の臭いではなく清潔な香りが漂っている。
「さあ、諸君。今日から君たちは優秀な技術者になるべく研鑽を積んでもらう。幸いここには教材になるユニットは沢山あるので頑張るように」
「まずは診断用AI『オラクル』の扱いに慣れてもらうよ」
エリオット・グレイ教官が教壇で指を鳴らす。生徒一人一人のデスクに、小型の多機能端末が準備されている。これが整備士科の命とも言える最新診断AI『オラクル』だ。
「ハル、これすげーぞ。実家の会社で使ってるやつより三世代は先だ」
隣の席で、レオ・バーネットが身を乗り出して端末を覗き込んでいる。
「オラクル、か。僕もまずはこれに慣れないと」
ハルは丸メガネを直し、自分に言い聞かせるように呟いた。ガターでは自分の感覚を頼りに修理してきたからな。金属の温度やオイルの粘り、ボルトから伝わる微かな震えとか。だけど、ここは銀河最高峰の学園だ。
祖父の教えを大切にしながらも、最新の技術を受け入れる謙虚さをハルは忘れていなかった。
「本日の課題は、そこにある『中破した駆動ユニット』の復旧だ。手順はオラクルが指示してくれるだろう。しかし、それが出来るかは君らの腕次第だがね」
不敵に笑うエリオットの合図で作業が開始された。
「「オラクル始動!」」
ハル達の前に置かれた無骨な金属の塊――宇宙艇の姿勢制御用スラスターユニットに赤い光が照射された。 オラクルの端末が冷徹な電子音とともに解析結果を表示する。
『解析完了。損傷箇所三箇所。フェイズ1:主軸の歪み矯正。フェイズ2:損傷ベアリングの交換。フェイズ3:制御基板の再ハンダ。推定作業時間:四十五分』
表示された修理箇所のスキャン画像とおおむねの作業時間を生徒たちが確認する。
「四十五分!? 冗談だろ、手作業なら二倍はかかるんじゃないか?」
隣でレオが思わず声を上げている。だが、ハルは驚かなかった。驚いている暇があるなら、手を動かすべきだと思っているから。それがガターでジャンクを直してきた彼のスタイルだった。
「よし、やってみよう」
ハルが動いた。その瞬間、周囲の空気が変わった。
ハルの動きには迷いが一切なかった。オラクルの指示が画面に流れるよりも早く、彼の指先が必要な工具を選び取っている。
<フェイズ1,主軸の矯正>通常、油圧プレス機の設定に数分を要する作業だが、ハルはユニットを固定台にセットするなり流れるような手つきで調整ダイヤルを回した。
「えっ?!ハル、もうそこ終わったの!?」
レオが自身のユニットをようやく固定した頃、ハルの手元ではすでに主軸がミリ単位の誤差もなく、真っ直ぐな中心線を取り戻していた。
<フェイズ2,ベアリングの交換>ハルの指先が内部構造へ迷いなく滑り込む。故障部品を取り出し、新しい部品を滑り込ませるその動作は、まるで手品を見ているかのように鮮やかだった。
「速えぇ。ハルの手、魔法みたいだな・・・」
隣で自分の作業を中断して見惚れていたレオがポツリと漏らす。
その言葉通り、ハルの手つきはテキパキという言葉では足りないほど効率的だった。不要な動きが一つもなく、最短距離で目的のボルトに指が届く。
<フェイズ3,基板のハンダ付け> ハルはハンダごてを取ると、オラクルが指定する回路図を一瞬で脳内に叩き込んだ。迷いのないコテ先が銀色の雫を落としていく。
作業開始からわずか二十分。 ハルは工具を置き、汚れを拭き取った。
「ふぅ、終わった」
「教官。三箇所の修理が完了しました」
教室中がそのセリフにどよめいた。他の生徒たちは、まだ最初の分解すら終わっていない者も多い。 エリオット教官が、驚きを隠すようにハルの元へ歩み寄る。
「・・・二十分。オラクルの推定時間を二十五分も短縮しましたか」
「ハル君、君はオラクルの指示を先読みしていたのですか?」
「いえ、指示通りに動くよう努めただけです。初めて見る機械ですし。しかしこのオラクルというシステムは無駄がなくて素晴らしいですね」
ハルは本心からそう答えた。エリオットは複雑な表情でハルのユニットをスキャンする。
「完璧だ、数値に揺らぎはない。これ以上ない合格点だ」
周囲から溜息と、嫉妬の混じった視線が刺さる。
「さすがガターの化け物」「手だけは速いんだな」「あいつのユニットだけ簡単だったんだろ」
「ありがとうございます」
そんな声を無視して、ハルは静かに頭を下げた。
しかし合格をもらったハルの心の中には、一つの小さな”棘”が刺さったままだった。
ハルは、自分の直したユニットを見つめる。オラクルの診断結果は「正常」。パーツ交換も完璧で、理論上の性能は担保されている。
――でも、まで聞こえるんだよなぁ
ユニットの奥底、オラクルが「正常」と判断したギアの噛み合わせから、微かな「悲鳴」が聞こえる。 おそらく、長年の稼働で生じた金属疲労の蓄積だ。オラクルの指示した三箇所の交換だけではこの「悲鳴」は止まらない。
「(・・・でも、これは授業だから)」
ハルは、差し出しかけた右手をそっと引っ込めた。これ以上の作業は蛇足であり、組織としての整備においては時間の浪費と見なされるかもしれない。
「今日は、これで終わり。ルール通りにできたんだからそれでいいんだ」
ハルは自分を律するように、小さく息を吐き合格したユニットをカートに置いた。
「なぁ、ここどうすればいいか教えてよ」
「レオ君、作業は一人でできるようにならないとだめですよ」
レオからアドバイスを求められるが即座に教官からストップが入った。
「だってさ、頑張って!」
レオは苦い顔をしながらオラクルの指示に従う。それをハルは優しい目で見守っていた。
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