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第003話_交じり合う卵たち

 A.M.E.A(アメア)の教室は、僕たちがいた貧困街(ガター)のどんな建物よりも広くて清潔だった。空調からは心地よい香りが漂い、デスクは傷ひとつない白磁のような素材でできている。窓の外にはホログラムの虹が架かる管理された中央区(セントラル)の空が広がっていた。


「・・・落ち着かないわね。何もかも綺麗すぎて自分が油汚れか何かに思えてくるわ」

 

「あはは・・・。まあ、ここはセントラルだし直になれるでしょ」

 僕は眼鏡を直しながら答えた。でも落ち着かないのは僕も同じだ。


「静かすぎて逆に耳が痛い!あの重機の軋む音が恋しいわ」


 そんな会話を打ち切るように、教室に白髪の男が入ってきた。僕はあの人を知っている。整備士科の入学試験で教官をしていた男――エリオット・グレイ教官だ。

 教室の喧騒は一瞬で無くなった。彼は徐に手元のホログラム端末を操作し、空間に巨大な学園地図を浮かび上がらせた。


「改めて、合格おめでとう。君たちが今座っている椅子は、この銀河である意味、最も高価な椅子の一つだと思う。・・・だが、それを維持できるかどうかはこれからの成績次第だ」


 エリオット教官の淡々とした説明が続く。学生には「ランク」が設定され日々の座学や実技の結果で得られたポイントの累計で決まる。高いランクであればあるほど卒業後傭兵として困ることは無くなる。逆に、ランクが低ければ前途多難な傭兵生活が待っている。そして、進級に満たないランクだった場合は即座に『放校』――つまり、この清潔な世界からの追放を意味していた。


「また整備士科の諸君らは明日から最新の診断AI、通称『オラクル』の使用権が与えられる。機械の状態を数値化し、最短で正解を導き出す。存分に活用してくれたまえ」


 その言葉に僕は居心地が悪くなった。

「(診断AIか・・・。それはきっと便利なんだろうけど、僕にはまだ部品から聞こえる「声」を上げている感覚の方がしっくりくるなぁ)」


「そして操縦士科も同様だ。最新の操縦AIシミュレーター『アヴィオン』の使用が許可される。実戦が一番勉強になると思うがせっかくの学生諸君を無為に減らすのも得策ではないのでね。」

 

「ふんっ、貴族のボンボンにはシミュレーターがお似合いだわ。私には要らないわね」



 A.M.E.Aの長い初日がようやく終わりを告げようとしていた。支給された端末で自分の部屋を確認すると、僕とレナの部屋は男子寮と女子寮で離れ離れになっていた。


「ハル、貰った端末いじり続けて寝坊とかしないでよ。明日から授業なんだから」


「そんなことしないよ。レナこそ、同室の人と喧嘩しないでよ」


「それは向こう次第ね、私はいつも通りいくだけよ」


「不安だな・・・。(同室の人達がかわいそうかも)」


 そんな予感を抱えながら、僕は男子寮302号室の前まで来た。

恐る恐る端末を玄関の機械にかざした。

 玄関を開けると長めの廊下があり、左右に四つの扉があり個人の部屋とお風呂だろうか。その奥がリビングやキッチンといった共有スペースがある。奥から話し声が聞こえる。

「もう同居人は着いてるのか」

 リビングの扉を開けようとしたその時、先に扉がけられて元気な声が聞こえてきた。


「よっ、三人目! 俺はレオ・バーネット。整備士科の一年だ。よろしくな!」

「お前が入学試験で()()()()()って噂について聞かせろよな」

 明るい茶髪を跳ねさせた少年がソファの上から元気よく手を振る。実家が製薬関係だという彼は、早くも実家のように寛いでいた。


「あ、はい・・・ハルと言います。よろしくお願いします」

元気な声に面を食らっていると、キッチンカウンターの方から重みのある声が響いた。


「・・・私はルーク・ジャン・クロムウェル。操縦士科だ」

黒髪の青年が座っていた。名前に刻まれた「ジャン」というミドルネーム。それが、彼がセントラルの貴族であることを証明していた。


「あ、よろしくお願いします、ルーク様」


「・・・敬語も敬称も不要だ、ルークでいい。我々は今日から同じ釜の飯を食う戦友だからな。・・・ところで、君に一つ確認したい」

ルークが真剣な顔で立ち上がり、僕に歩み寄ってくる。身長は175ぐらいだろうか、筋肉質でかなりの威圧感だ。


「な、なに?」


「苗字がないということは、君はガター出身か?・・・それならば普段の食事は泥を濾過した固形燃料を食べているというが本当か? 君のためにセントラルでも最高級の『胃に優しい粘土』を取り寄せられるがどうする?」


「・・・えっ? いやいやいや、確かにまともに食べれない日もありましたけどさすがに土は食べないですよ!!」

 あまりにショッキングな提案に僕が困惑していると、レオが爆笑しながら割り込んできた。


「ははは! ハル、気にすんなよ。ルークはマジでガターのことを魔界か何かだと思ってるからさ。それよりハル、この棚のどっちを君が使うか決めようぜ!」

「私の提案がハルを傷つけてしまったのか。これも新たな学びだな。」


 ――じいちゃん、僕はここでの生活が不安です。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 一方、女子寮。  

レナがリビングのドアを開けると、そこには先客がいた。

「あんた誰?私はレナ。操縦士科よ。」


「・・・あ、あの、今日から同室になる、整備士科の一年の・・・ルナ・ヘイゼルですぅ・・・。出身は,,,」  

 青い髪を揺らし窓辺で小さくなっている小柄な少女。しかし、レナの視線は彼女の豊かな胸元に釘付けになり彼女の自己紹介など耳には入らなかった。また、その瞳には明らかな嫉妬の炎が宿った。


「・・・ちょっと。あんた、何よそれ?」

 ルナの自己紹介を断ち切るようにレナの口から言葉が零れる。


「はい?なんのことですか?」


「その無駄に大きな脂肪の塊は何だってのよ、セントラルの食いもんがそんなにいいわけ??????????」


「ひ、ひゃい!? これは別に好きで大きいわけじゃ、ごめんなさい、ごめんなさい・・・」


 そこへ、三人目の住人がリビングの扉を開けて入ってくるなり冷ややかな視線をこちらに投げかけた。そのきれいに整えられた金髪は見るからに一般のそれではないことがガター育ちのレナでも分かった。


「・・・騒がしいわね。ドブネズミが紛れ込んだと聞いていたけれどマナーも知らないのかしら、呆れた」

「ガターの人間にふさわしい野蛮な言葉遣いね。私は操縦士科1年。セシリア、セシリア・ヴァン・ド・グロリアーノ。グロリアーノ家次期当主にして歴代最強の操縦士になる人間。あなたのような下賤な存在と相部屋だなんて学院の品格も落ちた者ね」

 ”セシリア・ヴァン・ド・グロリアーノ” セントラル5大貴族の一角。貴族に許されたミドルネームはその数で階級のようなものがある。ルークの所は“ジャン”の一語、セシリアは“ヴァン”と“ド”の二語ある。名前からもう伺える格式の高さがその彼女の傲慢さを裏付けているようだった。


「・・・何よ、そのキラキラした名前。あんたみたいなのはガターなら一秒で身ぐるみ剥がされておしまいね。その金髪を重油で染めてあげようかしら?」


「・・・上等じゃない。あんたのその余裕がこれから泣きっ面に変わっていくのが楽しみだわ。ねぇ、ルナ?」


「ひっ!?わ、私に振らないでください~~~」


 ガターとセントラル、たたき上げとエリート。正反対の二人がバチバチと火花をちらしているのを、ルナが今にも泣き出しそうに震えながら見つめていた。

 

セントラルでの新しい生活。ハルとレナに平穏な日々が訪れるのはまだ先になるかもしれない。


週1~2回の投稿を目指します。更新したときはTwitter(現:X)を使用してお知らせします。




また本作品は編集者としてGeminiを使用しています。


本文作成→Geminiによる添削・校正→本文完成の流れで製作しています。


間接的とはいえAI使用になるため、信条に反する場合はブラウザバックお願いします。

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