第002話_二人の旅立ち 後編
一方その頃、レナは別の演習宙域でテスト機に乗り込んでいた。操縦士科の課題は、複雑な障害物が配置されたコースの走行。
「・・・ハルが整備した船なら、もっと私の要求を満たせるのに」
そんな不満を感じながら教官の説明を聞く。
最新設備に囲まれても、彼女らに与えられた機体はお世辞にも整備が行き届いているとは言えない代物だった。それも一受験者に一時的とはいえ貸し与えることを考えると無理もない。
「このグループの試験官を担当する操縦士科教員のヴォルフ・アイアンサイドだ。貴様らのようなゴミの面倒を見なきゃいけんのは甚だ癪だがこれも仕事だ」
「これから試験のルールを説明する。一度しか言わんから覚悟して聞け!」
「(なんなのあいつ・・・。乱暴なんてもんじゃない、ほんとに中央区の人間なの?貧困街の方が合ってるでしょ)」
レナは少し失礼なことを考えながら教官の話に耳を傾けた。
「ルールは単純。指定されたコースをいかに早く、いかに損傷を少なく走り切れるかだ。コースにはリング状のチェックポイントがあるからそれをくぐらないと強制失格だからな、わかったか?」
あまりの教官の迫力に受験者はみな気おされていた。中央区では聞かないような大きな声、乱暴な言葉遣い。エリート街道を進む人間が多い受験者達には反応が難しかった。ただし、一人の娘を除いて。
「わかったから早く始めましょ」
一歩も引くことなく彼女はそう言った。
教官がにやりと笑う。
「全員位置につけ!死んでも知らんからな、緊急脱出の判断は自分でしろよ!」
「それじゃあ、試験開始!」
スタートの合図とともに、受験生たちはスロットルを開けた。コース上にある障害は直ちに機体に影響を及ぼすものから、単純に走行が難しくなるものまでさまざまである。最低限ゴールする必要があるこの試験において『速さ』はある程度犠牲にしても『安全』をとる者が多い。しかし、レナの頭には『安全』なんて言葉は浮かんでいなかった。
周りの受験者を振り切るほどに全開のスロットル、最小限の姿勢制御スラスターだったが確実に障害とチェックポイントをこなしていく。
「ちんたら走ってたら、いつまで経っても肉は食べられないのよ!」
機体は物理法則を無視したような角度で旋回し、デブリのわずかな隙間を滑り抜けた。その距離、わずか数センチ。野生の獣のような直感で障害物を躱し、弾丸のように加速し続ける。
「おい、あれ見ろよ!貧困街の女が、イカレた操縦してるぞ!」 「どうせすぐに墜落する。ああいう調子に乗った受験者は毎年いるけど毎年痛い目にあっているからな」
観客席で順番を待つほかの受験生たちの嘲笑が響いた。彼らはレナの操縦を理解しようともせず、ただただ“無謀”な行動としてしか認識していないようだった。
そんな考えをすべて鼻で笑うようにレナの乗った機体はゴールへと近づいていく。
ゴールラインを駆け抜けたとき、モニターに表示されたタイムはA.M.E.Aの創設以来となる記録をたたき出した。おまけにレナの機体には、かすり傷ひとつ付いていなかった。コックピットから降りてきてレナは顔色一つ変えず
「・・・ま、こんなもんね。次はもっとマシな船を用意しなさいよ」
何も考えず言い放ったその言葉が、彼女の「最強」伝説の第一ページ目となった。
「今年は良いのが入ってきてんじゃねか」
ヴォルフ教官は久しぶりの高揚感を確かに感じていた。現役の傭兵として活躍していた時でさえも何度は感じることができないその高揚感を。
◇
そして今、僕たちは入学式のホールに行く途中で、入学試験会場で感じた驚愕や感嘆、恐怖の入り混じった視線にさらされている。
「・・・ハル。あんた、やりすぎた自覚あんの?」
「レナこそ。周りの受験者が腰抜かしてたらしいよ」
「私はいつも通りやっただけよ!」
「僕もそうだよ!」
「「・・・ふふっ」」
僕たちは小さく笑い合い、これから始まる過酷な日々へと足を踏み出していく。
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