力の在処
「ええい! いまいましい! 女よ、その男の首をはねよ!!」
「えっ、女って私の事ですか? そんな事しませんよ! シガム君は私と同じパーティなんですから!」
魔王は焦り、女は平気だった。シガムの言っていたことは確かに一部正しかった、奴のアンカースが魔王相手に役に立つかも知れないという見立て、上級魔族の特権能力にしか効果の無いその魔法が、女の意識を人間に保っている。
シガムは立ち上がって魔王に対峙し、女を背にかばった。
「ヴェルミナさん、魔王の倒し方を教えてください!!」
シガムの精神がようやく魔王を倒す段階に入った。魔王を倒すのは簡単だ、魔王には『再生』やら『眷属』やら、他にも色々能力はあるが、頭を粉々に吹き飛ばせば終わる。しかし俺の『寄生』はこのままではシガムの身体を支配しきれない、出来れば魔王に『寄生』の対象を変えたい。
「魔王に俺を突き刺せ。お前の手の平から、俺の指が突き出しているから、平手撃ち一発を当てればいい。それで魔王は死ぬ」
「分かりました! やってみます!」
魔王は揺らめいて一歩前に出た。
「なんだ貴様、ヴェルミナと繋がっているのか、あの考えなしの愚か者と」
これだけしゃべった。気付くのも当然、しかし挑発に答える必要は無い。
「ヴェルミナさんが愚か者ってのは、ちょっと違うんじゃないですかね」
「……なっ」
シガムが魔王の挑発に答えていた、コイツは真面目過ぎる。
「僕はヴェルミナさんに寄生されかけてますけど……この人の魔力と計算高さは、高いと思いますよ」
「寄生だと? あやつは能力なしの魔物で廃棄されたはず、だとすればその手に刺さってる指がそうか」
魔王に俺の存在を認識されてしまった。最悪だ。問答無用で殺すのが一番だというのに、状況が悪くなっていく。俺にも焦りが滲んできた。
「シガム! 良いから早くやれ! 話せば話すほど不利になるぞ!!」
「もう遅いわ……『威圧』 そしてダークフレア」
魔王が両手を前に出し、その手に黒い炎を溜め、即座に発射した。それと同時、威圧の能力がシガムの恐怖を増幅し、膝を曲げられる。
「アンカース!!」
シガムは呪いを察知すると反射神経であるかのようにアンカースを唱える。呪いを見てから呪いだと判断するまでの速度が尋常では無い。そしてシガムは俺のついた右手を振ってダークフレアの黒煙をかき消すと、真っすぐに魔王へと走って行った。
「うおおおおお!!」
しかし、シガムの身体能力は極めてしょぼかった。強いのは俺がついている右手のひらだけで、魔王にとってシガムの本体は取るに足らない敵であった。
「なんだその遅さは『幻影』」
魔王の『幻影』は自身の姿を揺らめかせ、高速で体を滑らせる基礎能力、呪いでは無い。
「なるほど、お前の魔法は対呪い特化というわけか、その弱さでどうしてここまで来れたのかは知らんが、さっきの魔力のムチを出してこないのならば、大したことは無いな」
魔王の対策が追いついて来ている、やはり魔王は速攻で殺し、寄生先変更は別の下級モンスターにするように切り替えるか。ここでシガムに死なれては面倒だ。……俺がそう方針を変えようと思った。
……その時だった。魔物に変えられた女、セリーナが後ろから声をかけて来た。
「シガム君! 私頭の羽はえて来てから、なにか力を感じるのよ! ちょっと手伝っても良い?」
「セリーナさんのスキル、錬成だけですよね!? それ戦闘スキルじゃないですから、無理はしないで……」
シガムの抑制も聞かずに、セリーナはシガムの両腕を掴んだ。するとシガムの腕に魔力の手枷が付き、その手枷から伸びる魔力の糸がセリーナの指へと繋がっていた。
「私、この羽のおかげで『傀儡』が使えるようになったみたい! そう頭の中で響いているのよ! シガム君の平手打ち、魔王に一発お見舞いするんでしょ!?」
「ええ、そうですけども……」
「任せて……!!」
セリーナが指をくねらせると、シガムの身体は不規則な空中軌道を取って魔王の影へと向かって行った。
「うわっ! うわああああ!!」
情けない声をあげて飛んでいくシガム。それを見て魔王は腰に備えられた剣を抜いて構える。
「こいつ、眷属にはかからず、魔族の能力だけ得たのか……」
シガムは空中から右手を上げ、魔王へと振り下ろすように操作された。しかし魔王はそれを幻影で素早くかわす。そして交わされたシガムの右腕は床を叩き、その瞬間に俺の魔力が炸裂した。爆音と共に黒い柱が垂直に走り、床を、下の階を、どこまでも深く消し飛ばし、更には天井にも穴が空いて夜空が覗いた。シガムの右手周囲、その縦軸にあった全ての物が一瞬で塵になって消える。
それを見て魔王は深く剣を構えた。
「なんだっ! その威力は……!!」
「シガム君の攻撃すごい! これなら行けちゃいそうだね!!」
「ちょっとセリーナさん! やり過ぎって言うか……!!」
セリーナの操作によってシガムの身体能力が上がり、俺の魔力の放出威力も上がっていた。俺は自分の魔力をシガム由来でしか発揮できないから出力制限を受けているが、もしこれで魔王のような強靭な肉体に寄生出来たらと思うと身震いが止まらなかった。俺は昂ぶり、セリーナに命令していた。
「セリーナ、この傀儡は使えるぞ! 魔王を殺さない程度に、とにかく素早く平手を当てる事だけに集中しろ!!」
「ヴェルミナァ!! お前はヴェルファージの息子の時点で邪魔だとは思っていたが、貴様この俺に牙をむいたな!!」
「牙剥いたも何も、俺はお前らに廃棄された!! これは魔王、貴様への報復だ!!」
そんな会話の流れも汲まないまま、セリーナのシガム操作は続いていた。
「素早く……パチンと当てる!!」
シガムの足が高速ステップを開始し、蛇のように姿勢を低く床を滑り、一瞬で魔王の懐へと潜らせた。そして俺の指のついたその右手の平が武道の達人のようにうねり、魔王の肩へと俺の指を突き刺した。その瞬間、魔王の力が俺の中にみなぎり『寄生』の選択権が復活したのを感じた。
「来た……!! 魔王へ寄生を発動!!」
その瞬間、シガムの手の平に癒着していた俺の身体は分離し、その右手からズボリと抜け出し、魔王に刺さった状態で残った。
「クハハハ!! やったぞ、これは最高の身体だ!」
このまま魔王を乗っ取り、シガムもセリーナも叩き殺し、勇者を殺して世界を俺の支配下に……!!
「アンカース!!」
「なに……っ!」
シガムの左腕が、セリーナの手枷を消し去っていた。セリーナの『傀儡』は対象を取る能力。呪いだ。シガムのアンカースは有効、そして……
「アンカース!!」
今度は魔王の肩へ左手を当てて唱えたアンカース。俺の魔王への寄生を妨害してきた。
そしてシガムはそのまま左腕で魔王の肩から俺の指を引き抜くと、自分の右手へと再び突き刺した。
「痛っ……!!」
「おい、何やってるんだ! シガム貴様ぁあ!!」
「僕は魔王を、倒す方法を聞いたんですよっ!!」
シガムはそのまま魔王の至近距離から魔王の頭に向かって右の拳を突きつけ。俺の魔力を炸裂させた。
そして爆裂音が魔王の部屋の石壁を揺らし、魔王の頭は粉々に消し飛ばされた。




