眷属の能力
「なんだその女、お前の女か?」
「いえ、昨日会ったばかりで、パーティ同じだっただけで、会話すらしてないですけど……」
俺の力を使えば魔王を倒せると進言して、それを渋っていた小物の男が、女がパーティから魔王への生贄にされたと聞いて、突然やる気を出し始めた。
「早く案内して貰えますか、魔王のいる所……」
「ちょっと足の操作権をくれ無いか、そしたら一瞬で着くぞ」
「ダメに決まってるでしょ! 別に信用してないですからね!? 僕走るんで道だけ教えてくださいよ!!」
ちっ……思ったよりも冷静だったか……
「ならば、闘技場の上を見ろ、正面の柱に着いた照明に右拳を向けろ」
薄暗い闘技場、それを囲むように立った、闘技場の支柱だった。それに1本につき一個、室内を照らす燭台がついており、炎が揺らめいている。
「あの燭台ですね……これで何を?」
シガムは大人しく言うことを聞き、燭台に手を向けた。
「そうしたら、届けと唱えながら拳を開け、それで魔王のもとに着く」
シガムは従順だった、足を貸せは通らなかった、無論支配範囲を広げる為に言っただけなのだが、それは即断って、この指示には疑う様子もない。シガムは右拳を開いた。
「届け……!!」
すると、シガムの手のひらから、黒い魔力のムチが一直線に伸びて燭台を弾き飛ばして火の粉が舞った。そのまま柱を突き破り、壁を突き破り、向こうの部屋で天井を突き破り、城外の空へとのびていく。
「なんですかぁ、これ! どこまで行くんですか!!」
「ククク、これが魔王への最短攻略ルートだ……!!」
空の先には塔、城の中で最大の尖塔があり、ムチはその最上階の壁を突き破った所で、広がってひっかかる。
「なにか……引っかかりました!?」
「飛ぶぞ! 拳に力を入れろよお!!」
そこからムチは一気に収縮、シガムの身体を一つの弾丸のようにして、空へと運んで行く。柱も壁も、魔力の拳で貫通。壁に大穴を開けながら吹っ飛び、尖塔の頂上の部屋まで2秒とかからなかった。
尖塔の部屋の壁を突き破った瞬間、目を丸くした魔王の姿が目に付いた。その片手で女の首を掴んでおり、女はぐったりとしていた。
「セリーナさん……!!」
それを見た瞬間、シガムの行動は早かった。俺の指示も無しに、右拳を魔王に向かって振り下ろし、自分を引っ張って来たムチを縦一直線に走らせ、斬撃を放った。天井を、奥の壁を、魔王の腕を、床までを一気に切り裂く大きな一撃だ。
魔王にとっては完全な奇襲で腕を断たれた形になる。切り落とされた腕と女の重み分、後方に仰け反り、自身の玉座に腰を下ろした。
シガムはそのままムチを床に貼り付けて、伸縮を使って飛び込み、魔王の腕とともに落下する女、セリーナを抱きとめて部屋の奥まで滑って行った。
そしてすかさずセリーナに呪文をかける。
「アンカース!! 大丈夫ですか、大丈夫ですか! セリーナさん……!!」
セリーナは完全に意識を失っており、呼吸もしていなかった。シガムがそれを覗き込んで身を震わせていると、後方で魔王が喋りだした。
「再生……」
その一言とともに、魔王の切られた腕から新しい腕が生えてくる。
「なんだ貴様、壁から入ってきて、会話もせずにいきなり攻撃してくるなど、冒険者のすることでは無いぞ」
俺はこの状況を良くないと感じていた。魔王が驚いているうちに頭を叩き潰せば良かった。しかしシガムは女の救助を優先し、腕を切り落とすに収まっており、魔王に存在を意識されてしまった。この雑魚では魔王の攻撃を受け流せない。先手必勝で殺すしかない。
「シガム! 魔王が来るぞ! その女は既に魔王の能力『眷属』に堕ちた! そこに置いて立ち上がれ!」
「アンカース!! アンカース……!! アンカース……」
魔王の能力の一つ『眷属』は首を掴まれるとことで発動、その生物は生物としては死に、魔王に従順な魔族として生まれ変わる事になる、厄介な能力だ。部屋に来た時この女は首を掴まれていた。つまりシガムは今、既に手遅れの肉塊に壊れたように重ねがけ無効の呪文をかけ続けている。
そうしていると魔王の方が先に立ち上がった。
「なんだお前、突然出てきて腕を切り落としたと思ったら次は錯乱か、目障りだ……消えろ」
魔王が片手をこちらに向けた、次に来るのは呪いではない、純粋な魔力による攻撃魔法だ。
「攻撃が来るぞシガム……! 立って魔王を殺せー!!」
「なんだ……ヴェルミナの声? ますます忌々しいわ、焼け死ね、上級炎・ダークフレア」
魔王の腕の前で黒い炎の弾が渦を巻いて放たれた。火の粉を散らしながら一直線にシガムの頭部に向かってくる。もうダメだ、シガムは死ぬ。その後何とか俺自身の指を魔王に触れさせるように誘導、この道しかない。俺はシガムの死後の行動について考え始めていた。
……その時だった。
「あれ、シガム君……?」
シガムの腕の中で死んでいたセリーナが、目を覚ましていた。それを見るやシガムはすぐに右拳を後ろに振り上げながら立ち上がり、魔王のダークフレアを泡でも弾くかのようにかき消した。
「セリーナさん! 無事だったんですね!!」
「もしかして……助けに来てくれたの……?」
この男、魔王の攻撃をかき消したのに、女のとこしか見ていない、最初からイカれてるとは思ったが、相当に感性が狂っている。その光景を見て魔王が口を挟む。
「その女は我が能力、眷属にかけた。生きてたのではない、死んでから魔族として蘇ったのだ、今に牙が生え、翼が生え、顔に黒い毛が生えてくる、そして意識が消失して我に忠誠を誓う。」
すると、その宣言通りにセリーナの犬歯が伸びて口からはみ出してきた。
「セリーナさん……そんな……!!」
「フフフ、愚か者が……貴様の絶望に歪む声を聞いてから、セリーナとやらに貴様を殺させてやるわ」
魔王は腕を組んでその光景を眺め出した。
次にセリーナの頭の上にコウモリの翼が広がった。しかしそれは背中ではなく、頭から生えている。そしてシガムとセリーナは見つめあっていたが、それ以上の変化は起きなかった。そしてセリーナが喋り出す。
「あれ……? な、なんか生えてきちゃったね?」
そう言いながら、自身の頭から生えた羽を引っ張って離す。その羽はピンとして元気に広がっていた。
「あっはは……なんかサキュバスみたいになっちゃったね? 似合うかな?」
「あ……まあ、はい、似合うと思いますけども……」
セリーナとシガムは素っ頓狂な会話を続けていた。動揺していたのは魔王の方だった。
「なぜだ……我が眷属の能力を防いだ……!? 特異体質か……!!」
俺には分かっていた。魔王が眷属の深化の手順をさっき語っていた。
一度死に、魔族として蘇生、
牙が生え、羽が生え、毛が生え
自我を失い、忠誠を誓う。
つまりこれは、羽が生え……の途中でアンカースが有効になったと言うこと。この女は魔族でありながら人間の自我があり、眷属にはなっていないのだ。
シガムのアンカースの……絶妙な性能によって……




