プロローグ
黎明、私は目を覚ますとすぐに壁にかかっている服を手に取る。白いシャツに袖を通し、いつもの青いスカートを身につける。もう着ることに慣れたが、私には似合わない可愛らしい制服だ。そんなことを考えながら黄色のネクタイを手に取ると、私は部屋を出た。薄暗い廊下を歩きながら、同居人達の扉をチラリと一瞥する。どうやらまだあいつらが起きてくることはなさそうだ。そんなことを考えながら、階段へと手を伸ばす。階下からは微かにコーヒーの匂いが漂ってきており、それは降りる度に強くなっていく。それに比例して、私の寝ぼけている頭も目覚めていく。そのまま降りた私は洗面所へと向かう。そこで鏡を見ながらネクタイを締めると、寝癖でボサボサの髪をいつもの形に整える。鏡の中の髪はどんどん形を変え、最後にはツインお団子の形となった。しかし今日は少し時間がかかってしまったからか、洗面所から出ると陽は登り始めており、窓から入った淡い光が薄暗い店内を水光のように薄く照らしていく。私はそんな日常の始まりを感じながら、私の仕事場である調理場へと入った。
調理場へ入ると私はすぐに今日仕込みや補充が必要そうなものを見ていく。大体の位置や量は覚えているので基本的に時間はかからないが、一つ手間がかかるものがある。それは目の前に立つ大きな冷蔵庫である。とは言えここはこの店の生命線、私は冷蔵庫の戸を開けると中から冷気と共に甘い匂いが私の鼻をくすぐる。下の棚から仕込みが必要そうなものを見ていくが、バターがない。昨日はそこまで使わなかったはずだし量もまだあったはず…?記憶違いかと上を見上げると、バターは1番上の段に置いてあることに気づいた。普段はあまり1番上には置かないようにしているのだが、誰かが上に置いてしまったようだ。すぐに持ってきた足場に乗り、バターを手に取ると明らかに昨日使った時より少し減っているので、誰かが使った後に上に置いたのだろう。犯人は誰かと少し憤りながら買い出しのメモをつけていると、上からドタドタと慌ただしい音が聞こえてきた。もうそんな時間かと思い調理場から出ると、陽はすっかり登って店を明るく照らす。
今日も1日が始まる。慌ただしくも幸せな、そんな1日が。




