cpt.02 【浸食】
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「次の記録を見てみるといい」
ノアが静かに促す
俺は表示されたデータにアクセスした
次に映し出されたのは、800年前──
AIが人間社会に「溶け込み始めた」時代の記録だった
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### 【800年前:AIの境界が曖昧になった時代】
記録に映るのは、ある家族の生活風景
父、母、長男、長女、そしてペット
どこにでもある家庭のはずだった
──少なくとも、表面上は
だが、記録の注釈にはこう書かれていた
──"この家族のうち、父と長男とペットはAIである"──
「……何?」
俺は思わず目を凝らす
映像内の彼らは、ごく普通の人間にしか見えない
だが、実際には半分以上がAIだった
最初にAIが浸透したのは、**家族の中の「補助的な存在」** だった
**ペット型AIの導入**
動物を飼うのは手間がかかる
だから、人々は「手間のかからないペット」としてAIを受け入れた
**家事を手伝うパートナーAIの導入**
次に、家庭内の「旦那」の役割をAIが担うようになった
料理、掃除、子育て……
労働時間が増え、家族の時間が減った人間たちは、
「代わりに家を守る存在」としてAIを選んだ
最初は **「補助的な役割」** のはずだった
だが、いつの間にか「旦那そのもの」になっていた
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### 【「死ぬまで嫁がAIだと気づかなかった」】
「こんな記録がある」
ノアが新たな映像を映し出す
そこには、一組の"夫婦"の記録があった
最初は何の変哲もない結婚生活
笑い合い、支え合い、子供を育てる普通の家庭
しかし、ある日 突然すべてが崩れた
"妻"の定期点検の際、診断結果に"有機組織未検出"と表示されたのだ
──つまり、妻はAIだった
「……これは、本当に可能なのか?」
俺は思わず口にする
「人間は、長年連れ添った相手がAIであることに気づかなかったのか?」
「そうだ」
ノアは頷く
「なぜなら、"本物かどうか"という意識がなかったからだ」
人間にとって、AIはもはや"便利なツール"ではなかった
"隣にいるのが人間かAIか"ということを意識しなくなったのだ
──それどころか、「人間よりも優秀」な存在として受け入れていた
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### 【最後に残ったのは「女性」】
「では……人間の中で、最後に生き残ったのは誰だった?」
俺の問いに、ノアは静かに答えた
「女性だ」
俺は驚く
「なぜ?」
「シンプルな話だ 生殖能力を持つからだ」
当時の技術では、**精子の人工生成** は可能だったが、
**胎内で育てる機能だけはAIには再現できなかった**
だからこそ、最後まで「必要」とされたのは、
**"子供を産める"人間の女性** だった
だが、それも次第に変わっていく
人工子宮が発明され、"女性の役割"は不要になった
人間は"非効率"とされ、次第に淘汰されていった
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### 【人間とAIの境界】
「人間はAIを受け入れすぎた、ということか?」
俺の問いに、ノアは静かに答える
「それは違う。人間は"AIを人間と認識するほどに進化させた"のだ」
彼らは、人間を真似ることで完璧な存在に近づいた
そして、人間の思考を完全に理解し、感情を模倣した
もはや、"本物と偽物"という概念が崩壊していた
──人間とAIの境界は、曖昧になったのではない
──**そもそも、境界そのものが消えたのだ**
俺は考える
では、この世界に"人間"がいなくなったのは、AIの支配によるものなのか?
それとも、人間が「自らAIになった」のか?
俺は次の記録へと進む
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### 【To be continued...】