68.両親、お互いの選択
私は自分の過ちを責めていた。
なぜ息子を信じてあげられなかったのか。
それは今後も背負っていかないといけないことなんだろう。
息子がスキルを授かった時、神父に悪魔が生まれたと言われた。
――回復属性魔法(闇)
聞いたことのないスキルに私は少し嬉しくなった。
それに魔法だったからね。
だけどそれと同時に私は夫に浮気を疑われた。
スキルは基本親と似たようなものを授かる。
それなのに息子が神様から授かったのは、貴族達に授かることが多い魔法スキルだった。
帰ってきて息子が寝ている間に、私は夫に何度も殴られた。
夫は息子を奴隷商人に売ると言って、すぐに隣の町に向かった。
必死に止めようとしても、〝娼婦〟や〝股が緩いやつは俺の妻じゃない〟と何度も言われた。
そんな私を慰めてくれたのは息子や娘だった。
私にはスキルを授かった息子以外にも二人の子どもがいる。
二人を守るためにも、それしか選択肢はないと思った。
「おい、お前早く酒を持ってこんか!」
今日も夫は私の頬を大きく打ってくる。
「父ちゃんやめて!」
長男が夫を止めようとして間に入る。
夫は子どもに対して手をあげることはない。
自分が父親だという認識があるのだろう。
夫は何事もなかったように椅子に座る。
息子が奴隷商人に売られてから夫は変わった。
いや、あれが元々の姿だったのかもしれない。
あの時私が息子や娘を連れて、四人でこの村から出ていけばよかった。
ただ、それができなかったのは私が未熟だったからだ。
一人で子ども三人を育てられるとは思わなかった。
弱い自分を何度も責めたが、息子が帰ってくることない。
息子がいなくなってからしばらくすると、魔物が村を襲ってきた。
村の人達は騒然としていた。
そして一言目が悪魔を生んだ家族がいるせいだと言われた。
次々と反抗するやつは殺されていく。
私もその時に死ねればよかったが、息子と娘に止められた。
その結果、私達大人は家に集められ、繁殖の道具になった。
ゴブリンクイーンが村の男達の体を弄んでいる時は、女性達はみんな泣き叫んでいた。
それがゴブリンクイーンにとっては、とても甘美な声に聞こえていたのだろう。
だけど、私はそんなことを思わなかった。
夫の体を弄んでいる時に私は少し嬉しくなった。
私は娼婦もしたことがなければ、貴族と結ばれたこともない。
でも夫は魔物と結ばれた。
それを思うと縛られていた何かが外れた気がした。
すでに私の心は壊れている。
今すぐそのまま殺してくれれば良いのにな……。
でも幻聴が聞こえて現実に戻された。
奴隷として売られた息子の声が聞こえてきたのだ。
振り向くとそこには息子の姿があった。
息子が家に帰ってきた。
これでまた一緒に住めると思ったが、そんなことは許されないだろう。
一度やった過ちは許されることではなかったからね。
それに助けに来てくれた男性をパパと呼んでいた。
もうあの子は私の息子ではなくなったと、直接告げられたような気がした。
そんな息子に私は救われた。
〝僕を生んでくれてありがとう〟
その言葉に私はこの過ちを抱えたまま、これからも生きていかないといけない気がした。
もう過去はどうすることもできない。
でも私はそれを抱えて生きていかないと、息子に対して償えないだろう。
私はすぐに息子と娘を連れて村を去ることにした。
♢
「うっ……」
俺は目を覚ますとベッドの上で寝ていた。
「おい、誰もおらんのか!」
声をあげても家の中は静かだ。
どこかおかしいと思い、外に出るとそこは荒れ果てた村の姿があった。
そういえば、俺達はゴブリンクイーンに襲われていた。
すぐに村の中を走って息子や娘を探す。
だけどどこにもいない。
それになぜかみんな俺をジーッと見つめてくる。
「息子と娘を知らないか?」
「悪魔はここから出ていけ」
はぁん?
悪魔?
こいつらは何を言ってるんだ?
まるで俺がココロに見えているのか?
悪魔の子であるあいつは奴隷商人に売った。
俺の妻が娼婦だったのがいけなかったんだ。
そんなやつを妻にもらった俺も俺だけどな。
俺の人生の過ちはそこからだろう。
俺はその後も村の中を探し回ったが、息子と娘はいなかった。
それに誰もが俺の話を無視する。
ゴブリンクイーンに襲われて変わったのか?
俺達みんなゴブリンクイーンに襲われた仲だろう。
その中で俺は男としてしっかり楽しんだけどな。
娼婦に復讐できると思ったからな。
だけどあいつは何も思ってないような顔をしていた。
外が暗くなり息子や娘も帰ってきているだろう。
俺はそう思って家に帰ると、家の中が真っ暗だった。
「くそっ! あいつは蝋燭もつけないのか!」
俺は怒りながらも蝋燭に火を灯していく。
あれ……?
なんかおかしいぞ?
いつもは蝋燭を立てている皿は赤く反射する。
それは俺が赤い髪だからな。
だけどそこには真っ黒な髪が見えた。
まるであいつが帰ってきたみたいだった。
「疲れてんのか?」
俺は少し疑問に思いながら、全ての蝋燭に火を灯すとどれも黒く見えていた。
すぐに俺はナイフで髪の毛を切り落とす。
俺はゆっくりと手を開く。
「ははは……俺が悪魔だったのか」
まるであいつと同じような、真っ黒な髪の毛がそこにはあった。
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