59.飼い主、変態が怖い
突然、揺れていると思ったらケルベロスゥの背中に乗っていた。
「なにかあったの?」
『ココロ! 村が燃えていたぞ!』
『あっちに魔物が向かってる』
『今のうちに逃げるわよ?』
「へっ……」
ケルベロスゥの言葉に僕は戸惑う。
「とりあえずここにいたら魔物が寄ってくるかもしれない。まずは離れるぞ」
「うん」
マービンはシュバルツに荷物をくくりつけて跨った。
僕も体を起こすと森の奥から煙が上がっているのが見えた。
本当に魔物に襲われているようだ。
「あそこにだれかすんでるのかな?」
「きっと住んでいる人はいる。煙を上げることで助けを求めることはできるからな」
「ならあんしんだね」
僕はそう呟くが誰も返事をすることがなかった。
静まり返る空気に僕はジーッとマービンを見つめる。
「いや、町から村まで行くには時間がかかる。近くにいる冒険者達が助けにはいけるが、馬車を放置することはできないからな」
言っていることを飲み込むのに僕は時間がかかった。
町から村までは遠いから助けに来れない。
近くにいる冒険者も馬車を放置できない。
ってことは……。
「だれもたすけにこないってこと?」
僕の言葉にマービンは静かに頷いた。
どこか辛そうな顔をしているのは、マービンも村の人達を助けてあげたいのだろう。
『これは仕方がないことだ!』
『僕達もココロを守らないといけないからね!』
『そうよ。私達はココロが一番大事なの』
ケルベロスゥは僕が一番大事だと言ってくれた。
でもあそこの村に住んでいる人達にも大事なものはいくつかある。
みんな大事なのは変わらないよ。
「にげるのをてつだうことはできないの?」
魔物と戦うのは難しいだろう。
ここにはケルベロスゥとマービン、そしてシュバルツしかいない。
僕ができることはおててさんとおででさんにお願いするぐらいだ。
「ココロを危険な目に遭わせるわけには――」
「だいじょうぶ! パパはきしなんでしょ!」
「へっ!?」
僕はマービンが騎士だったのを知っている。
この間夢でみんなを守っていたからね。
それに本当は村に行きたいって顔が言っていた。
「ぼくにはケルベロスゥがいるよ!」
僕は優しく撫でると嬉しそうにスリスリしてくれた。
『ココロって俺より頑固だぞ?』
『昔からそうだもんね』
『飼い主に似るって言うぐらいだから、ココロも……ね?』
ケルベロスゥは僕を昔から頑固だと言っていた。
あれ?
僕とケルベロスゥって出会ってからそんなに月日は経っていないはず。
前に知らない人の夢も見たけど、あれも何か関係しているのかな?
「ああ、すまないな。すぐに戻ってくるからここで待っててくれ」
「うん!」
僕は心配させないように元気に返事をした。
マービンは魔物に襲われている村に向かって、シュバルツを走らせた。
「しばらくはきゅうけいだね」
『二人っきりだな』
『兄さん? 僕達人間じゃないよ?』
『そもそも私達三匹扱いよ?』
確かにケルベロスゥって三匹で一体だもんね。
マービンのことが心配だけど、僕はケルベロスゥにスリスリして落ち着かせる。
落ち着かないのは僕の方だね。
きっと帰ってくるよね?
それが伝わっているのか、ケルベロスゥはさっきよりも僕にスリスリしてきた。
――カサカサ!
森の中から音が聞こえて僕達は警戒する。
『隠れるんだ!』
『ココロはここにいてね』
『私がタマを食いちぎってくるわよ』
森の中から音が聞こえるってことは魔物に違いない。
「あー、ココロくんどこに行ったのよ」
「馬の操縦って中々難しいよな」
森の中から出てきたのは、この間の町であった変態だった。
僕達と目があって周囲は静かになる。
遠くで何かがゴソゴソ言っている音が響いていた。
きっと村で戦っている音なのかな。
初めに声を上げたのは僕達ではなく、変態だった!
「きゃー! ココロくんよ! こんなところで会うなんて毎日思っていたからに違いないわよね」
「ああ、俺にももふもふさせてくれ」
変態達は少しずつ近づいてくる。
これって危ないやつだよね?
まだ一緒にマービンと村に行った方が良かったよね?
それはケルベロスゥも気づいたのだろう。
『ココロ逃げるぞ!』
『パパさんのところにいくよ!』
『あいつらの方が魔物よりあぶないわ!』
ケルベロスゥは僕を咥えてすぐに背中に跨った。
「にげろおおおー!」
『『『ワオオオオオン!』』』
僕達は変態から逃げるためにマービンを追いかけた。
変態は怖いよおおおお!
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