56.飼い主、ポッカポカ ※一部マービン視点
元々泊まる宿屋から少し奥に行ったところに宿屋はあった。
「寒くないかな? 毛布とかも用意して……魔獣さんがいるから大丈夫そうね。何かあったらすぐに声をかけてね」
店員の妹も気さくでとても優しそうな人で安心した。
寒くないかと心配していたが、ケルベロスゥが一緒だから大丈夫だと思ったのだろう。
ケルベロスゥはもふもふしてポカポカするからね。
ちなみに部屋はマービンと一緒になっている。
「相変わらず狭いな」
『パパさんが大きいからだ』
『僕達三匹分だもん』
『淑女に体型のこと言うなんてダメね』
ベッドには僕、ケルベロスゥ、マービンで寝たらどうしても狭くなってしまう。
ほぼケルベロスゥがベッドを占領しちゃうからね。
それでも僕はみんなで寝られて幸せだ。
怖い夢を見なくて済むもんね。
布団が温まってくると、だんだん眠たくなってきた。
「パパ、ケルベロスゥおやすみ」
僕は挨拶をしたら、そのまま目を閉じる。
すぐに眠りについた。
♢
「どうにかココロも一安心だな」
『あのオークに会った時は、一瞬ヒヤッとしたぞ』
「まさかここがココロの知っている町だったとはな」
『それであのブタをどうする?』
『タマを噛み切ってこようか?』
相変わらずケルベロスゥは物騒なことを言っているな。
ただ、いつもより怒っているのは俺にも伝わってくる。
俺もあの男に対して苛立ちを感じている。
ただ、ココロの目の前で何かして、嫌われるのは俺も嫌だからな。
「そういえば、俺の髪色って変わったのか?」
『茶色が黒に近い茶色になったかな?』
『おででさんが治療した時から変わったわね』
おででさんの治療後から、なぜかココロと本当の親子と間違われることが増えた。
一緒にいることが多かったが、そこまで容姿は似ていないはず。
それなのに似ていると言われて疑問に思っていた。
「さっき言われてやっと気づいたな」
ここの店主に暗くて似ている髪色と言われて、俺もやっと知ったのだ。
そういえば、シュバルツも治療を終えてから黒くなったな。
俺の頭によくスリスリしていたのは、一緒の髪色を喜んでいたのだろう。
『そういえば俺達も元々灰色だったぞ?』
『ここまで黒色じゃなかったもんね』
『私は細く見えるから好きよ? 怪我をするたびに黒くなっていくわね』
スゥの言葉に俺とベロは目を合わせた。
きっと考えたことが一緒なんだろう。
ケルベロスゥって性格は全く違うが、ココロをご主人様として大事にしているのは変わらない。
その中でベロは健気で真面目だけど、一番ココロのことを大事に思っている。
ただ、その分ココロを守るためには、過激なこともできるやつだ。
さっきも神父を一番に噛みつこうとしていたからな。
「おででさんはいるか?」
『おででさんー!』
俺とベロはおででさんを呼ぶと、ひょこっと顔……いや、手を出した。
ココロが呼ばないと出てこないと思ったが、そうではないらしい。
「俺達のお願いって聞いてもらえるか?」
『やっぱりココロじゃないとだめ?』
おででさんは少し悩む素振りをすると、親指を立てた。
あれは問題ないってことだろう。
『お前達何をする気だ?』
『顔が怪しいわね』
ケルとスゥはまだ気づいていないのだろう。
あの神父に嫌がらせをするにはどうすれば良いのかを。
「あの神父をグチャグチャペッタンできないかな?」
『あのブタをグチャグチャペッタンできない?』
俺とベロの声が重なった。
やっぱりこいつも中々悪いやつだな。
お互いに目を合わせてニヤリと笑う。
再びおででさんは何か考えごとをしている。
正直手だけで感情がわかることに驚きだ。
でも本当に俺達でもわかるほど、おててさんとおででさんは豊かな表現をしてくれる。
『グチャグチャペッタンするには、怪我をしていないとダメだよな?』
『だから私がタマを噛み切って――』
『姉さん、僕達男しかいないから、その話やめてほしいな』
確かにタマを噛み切られることを想像すると、股がスーッとしてくるからな。
おででさんは何か思いついたのか、手を出したと思ったら剣を指さしていた。
「剣を貸して欲しいのか?」
どうやらそれで合っているらしい。
おててさんはビッグベアーを運んだから、おででさんも剣を掴むことができるのだろう。
ただ、それだとあいつがいるところには侵入できないはずだ。
剣が邪魔になってしまうからな。
『パパさんにやった寝かしつけるやつはどうだ?』
「なんだそれは?」
ケルから物騒な言葉が出てきた。
俺はいつのまにか寝かしつけられていたのかな?
『グチャグチャペッタンする時に、起きるといけないからおででさんが何かしたの』
その何かが怖いけどバレずにできたら問題はない。
「とりあえずできたら頼むよ」
おででさんは手を振っていると、すぐに床の中に消えて行った。
本当にどういう構造をしているのだろうか。
「じゃあ、俺達も寝ようか」
『そうだね……。って兄さんと姉さん寝ているよ?』
「ははは、走り疲れているもんな」
いつの間にかケルとスゥは寝ていた。
明日もまた王都に向けて移動だ。
ココロも隣で寝息を立てて寝ている。
この寝顔を見ると俺の疲れも取れてくるな。
俺も目を瞑り眠りについた。
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