3.飼い主、喧嘩を止める
『オイコラ!』
『兄さんやめなよ』
『だって犯人はこいつだろ?』
『そうよ! 私の体をこんなことして――』
『兄さんは――』
『私は姉さんよ!』
何かが僕の目の前で話している。
ひょっとしてママが呼んでいるのだろうか。
『おい、唾を飛ばすなよ!』
『私だってこんな体になりたくなかったわよ』
『いや、兄さ……姉さんは元々雄の体だったよ?』
目を覚ますとそこには顔が三つある犬が言い合いをしていた。
僕はいつの間にか寝てしまったようだ。
まるでお話に出てくる地獄の門番〝ケルベロス〟のような見た目。
ただ、左右の犬が喧嘩して、真ん中の犬が喧嘩を止めていた。
「けんかはだめだよ?」
『兄さんも姉さんもうるさい!』
喧嘩を止めようとしたら、真ん中の犬が大きく首を横に振った。
その勢いで隣の犬に頭突きをしている。
『なぁ!? お前痛いだろ!』
『そうよ! 兄さんはバカだから良いものの私は――』
『お前も兄弟だからバカだろうが!』
兄弟喧嘩は良くないよ。
喧嘩をしても良いことはないからね。
『それなら末っ子も――』
『僕は兄さんと姉さんと違って、狩りも効率的だし、危険なことはしないよ。そもそもビックベアーに喧嘩を売りに行ったのは兄さんと姉さんでしょ?』
『だって、俺は強い奴と戦いたかったんだ!』
『あいつ私のこと玉あり女って言ったのよ!』
それでもその光景が羨ましく感じる。
まるで僕達の兄姉の喧嘩を見ているようだった。
昨日まであんなに仲が良かったのに、なんで僕のことを嫌いになったの……。
気づいた時には涙が溢れ出てきた。
「うええええん!」
僕は声をあげて泣いた。
泣き虫の僕はただ泣くことしかできない。
『おおおお、小僧が泣いちゃったじゃないか!』
『兄さんと姉さんがうるさいからだよ?』
『私は関係ないわよ! 私のモットーは――』
『傍若無人な悪魔』
『さすがわかっているわね』
目の前の犬達もずっと喧嘩をしているし、僕はどうしたら良いのだろう。
「おうちにかえりたいよおおお!」
『もううるさいから泣いちゃったよ!』
真ん中の犬が近寄って頬をスリスリしてくる。
優しくもふもふとした感触に涙は自然に止まっていく。
「ふかふか」
『大丈夫?』
僕のことを心配してくれたのだろう。
こくりと頷くと僕の顔をペロリと舐めた。
『こいつ食べちまうか?』
『せめて体を戻してもらってからにしましょう』
『兄さんも姉さんもうるさいよ!』
『はい』
怒られて左右の犬はしょんぼりとしていた。
同じ体なのに顔が三つもあると性格が違うのだろうか。
「けんかはだめだよ?」
『そうだよ! 兄さんと姉さんにはもっと言わないと聞かないんだからね!』
どこか僕と似ている真ん中の犬に、僕も顔をスリスリとする。
『ふふふ、くすぐったいよ』
「へへへ」
初めて会ったけど、なぜかそんな感じがしなかった。
どこかお友達になれそうな気がした。
僕には友達がいなかったからね。
いつも一人でいた僕が寂しがらないように、兄さんと姉さんが遊んでくれた。
それなのに……。
『おー、おいおいもう泣くなよ!』
『そうよ! 魔獣だってどうしたら良いのかわからないのよ?』
ん?
今、魔獣って聞こえたような気がしたけど勘違いだろうか。
魔獣って動物よりも凶暴で、人を襲うから気をつけなさいと聞いたことがある。
「まじゅうなの?」
『ああ、俺達魔獣三兄弟だ!』
体は一つだけど元々はウルフの三兄弟らしい。
そういえば、あの黒い手がグチャグチャペッタンと治していたな。
傷口に手を入れた時は、あまりの気持ち悪さにびっくりした。
「あっ、おててさん!」
周囲を探していると足元をツンツンとしていた。
僕のことを守ってくれる優しいお友達だ。
黒い手と呼ぶのも可哀想だと思い、〝おててさん〟と呼ぶことにした。
「おててさんはみんながまじゅうだってしってた?」
親指を立ててわかっていると合図をしていた。
魔獣だってわかったから治療ができたのだろうか。
『あのー、ひょっとして私達のくっつけたのも、その方ですか?』
「うん!」
僕の返事に姉さん犬は目を輝かせていた。
『すぐに体に戻してください! ついでに女犬の体に――』
おててさんは大きくバツ印をつくる。
体を戻さない理由があるのだろうか。
「もどせないの?」
おててさんは見えないように僕の顔を隠した。
『うわー、俺の体何も残ってないじゃん』
『私なんて金玉だけ残っているのよ』
『むしろ金玉だけ残されたんだね……』
遠くの方で犬達の声が聞こえてくる。
何か犬達に説明をしているのだろう。
話が終わったのか、おててさんはゆっくりと手を広げた。
「もういいの?」
おててさんは親指を上げている。
どうやらこれで話は終わったらしい。
「じゃあ、おうちにかえろうか!」
家に帰ろうとしたら、おててさんは僕の服を掴んで離そうとしなかった。
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