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砂上の狩人  作者: eight
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第64話 破弦の民

「ウィーグテイルの甲殻で籠手が出来たんだからこいつのでも出来るよな・・・」

そう言いながらライラはレッドテイルの甲殻を一枚剥いだ。

焼けてはいたが、耐性がある表面は綺麗なままであった為、内側のコゲだけナイフで削ぎ落として袋へしまった。


ライラがふと見ると、ディケンズが鋏と尻尾の先を切り落とし、まじまじと見ていた。

「どうした?」

「いや、構造的にソールオングルの強化に使えねぇかと思ってな。」

「なるほど、そう言うことか・・・んで見てわかるのか?」

「いや、正直分からんな。とりあえず持ち帰って、モドンのジイさんとエドゥリアに相談してみるさ。」

「おいおい。両方持って帰るのか?」

驚きながら訊いてきたライラに対して、ディケンズは訝しげに答えた。

「ああ。そのつもりだが、何か問題あるのか?」


「アタシらの目的地はベールズだぜ。向こうでも素材が手に入るかもしれねぇし、あんまり大量に仕入れとくとモウズがへばるぞ。」

「ああ、そう言うことか。それなら考えがあるから大丈夫だ。」

「考え?」

「ガルートに寄るなら、ダリルに預かって貰おうと思ってな。」

「ああ。」ライラは納得した。

ガルートはブロウの故郷であり、ダリルはブロウの父親である。二人も何度も交流があり、親しき間柄であった。

「どうせ、帰りも寄ることになるだろうしな。あそこなら安心して預けられる。」

「なら、もうちょい頂いとくか。」

そうして二人は素材を剥ぎ取り、その場を後にした。





「この調子なら、昼過ぎくらいにはガルートに着くか?」

夜も折り返しを迎えたあたりでライラが問う。

「何も起こりゃなきゃあ、或いはな。」

「だいぶ静かだし、大丈夫だろ。」

ライラが呟いた時、何かを見つけた二人はモウズを止めた。

「・・・何だあれ?」

「人・・・だよな?」

二人の視線の先、岩の上に一人の男が座って月を見上げている。ローブを纏い、フードを下ろしている為、その容姿ははっきりとは分からなかった。


「こんな時間にこんなところで一人で居るのか?」

ライラがモウズを降りる。

「気を付けろよ。」

ディケンズの言葉に手で答えて、片手を剣に掛けながら、ゆっくりと近づいていく。


「おい!オッサン。」

近接攻撃ならギリギリ射程に入らない距離まで近づいたライラが声を掛ける。

男は何も答えず、ただ満月を見つめている。その目は虚ろであった。


「おい。何やってんだ?」

「・・・その輝き・・・散りゆく美しさ・・・」

「はぁ?」

「・・・あの日と同じように・・・」

「何言ってんだ?」

「もう一度・・・もう一度あの輝きを・・・」


男が立ち上がる。ライラは素早く距離を取って剣を抜いた。

「何なんだ?」ディケンズが言う。

「全然分かんねぇ。」


男が手を翳すと青白い刀身の剣が現れる。

「ん?」

「つーか何か透けてねぇか?あの男。」

ディケンズの言う通り、男の全身はうっすらと透けていた。


男はまたブツブツと呟くと、満月に向けて剣を振るう。

剣先から放たれた青白い光の刃が飛ぶが、当然、月に届くことなく消えていく。

「何故だ・・・」と呟きながら男は何度も剣を振るう。


二人はその姿を呆然と見つめていた。

「・・・とりあえず、普通の人間じゃあねぇよな?」

「ああ。こっちに敵意も無い・・・というか気づいてさえいない感じだな。」




「あれは破弦の民だ。」

「うおっ!」

突然の背後からの声に二人が驚く。

そこにいたのはルーゼスだった。

「ルーゼス様!」

「急に出てくんなよ。」

「今日は満月だからな、奴らが出てきたのであろう。」

「どういう意味です?」


「遥か昔、この世界には月が二つあったことを知っているか?」

「月が二つ?」


「そうだ。もう一つの月は『(げん)』と呼ばれていた。」

そう言うとルーゼスは月とは別の方向の空を指差した。

「そしてある時、一人の魔術師がその星を破壊した。」

「星を破壊?人間がか?」ライラが驚き、問い掛ける。

「そうだ。破弦と呼ばれている。」


「・・・星魔法。」ディケンズが呟く。

「なるほど。例の禁呪ってやつか。」

「禁呪?」ライラの言葉をルーゼスが聞き返した。

「魔法研究所の連中が言ってたぜ。星、時、無、この三つの魔法は禁呪で、使う奴は研究どころか見つけたら殺せってな。」

「なるほど・・・禁呪とな。」

ルーゼスは何かに納得するように頷いた。


「そんで?あのオッサンがその魔術師なのか?」

「いや、そうではない。あの者は星の死に居合わせた者だ。」

「星の死に居合わせた者・・・」

「星はこの世で最も大きな生命の一つだ。その命が尽きるとき、爆発と共に無類の輝きを放ち、比類なき魔力と生命力を放出する。その瞬間を直に目にした者は、その美しさに魅せられ、膨大な生命力により不滅を得る。」


「不滅を得る?不老不死ってやつか。」

「いや、そうではない。あの者は正確には既に死んでいる。その生命力の高さが、死して尚消滅することを拒み、魔力が高まる満月の夜にだけ、その姿を具現化させている。」

ルーゼスは満月を見上げる。

「そして弦が破壊された時の美しさに心を奪われた者は、再びその美しさに触れる為、月を破壊しようとする。」


男の手から剣が消える。男は倒れ込むように両手をつき「何故に・・・」と呟くと、月を見上げた。


「無論、存在しない者の攻撃が月に届く事は無い。届いたところで月を壊せるわけも無いがな。」

「では彼は永久にそれを繰り返すのですか?」

「あの者だけではない。当時、その場に居合わせた者は等しく、その神秘さに魅了された。それが破弦の民。」


「星を壊した奴はどうなったんだ?」

「知らんな。星魔法の力の強さに死んだと聞いてはいる。」

「自分の放った魔法でか?」

「普通なら考え難いが、星を破壊出来るほどの魔力ならば、無くも無いだろう。どちらにせよ、遥か昔の話だ。人間であった以上、もう生きてはいないだろう。」


ライラは月を見て、手を伸ばす。

「星を・・・壊すか。」

掌の中に満月が隠れ、掴むように手を握った。

「とんでもねぇ奴がいるんだな。」



「一つ訊いてもいいです?」

ディケンズが問い掛ける。

「何だ。」

「時魔法は何となく分かるんですが、無ってのは一体何なんですか?」

「無とはあらゆる事象を無に還す力。根源の力の一つだ。」


「つまり、どういう事なんです?」

「つまり・・・全ての物を消滅させると言うことだ。」

「そんな魔法、どうやって対処するんだよ。」

ライラが口を挟む。

「対処法は無いだろうな。」

「無いだろうなって、アンタら神様が作った魔法なんだろ?」

言われたルーゼスは少し考えて、そうして暫くした後「いや・・・」と呟いた。


「ん?何だよ?」

「お前たちにどこまで話すべきか考えたが、やはり話さぬ方が良いであろう。」

「相変わらずケチくせぇな。」

「知る必要の無いことだ。ただし、お前たちの言う、禁呪と呼ばれる3種の魔法は、神々が産まれるより前に出来た魔法だ。」


「ちょ、ちょっと待てよ!神様が産まれて、この世界を作ったんだろ?それより前に出来たって事は・・・つまり・・・だから、えーっと。」

「知ったところで意味の無いことだ。」


そう言うとルーゼスはつむじ風と共に姿を消した。



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