第63話 闇夜を屠る熱砂 レッドテイル
放たれた光弾がレッドテイルの獲物を持つ鋏に直撃する。
爆発は起きるもその甲殻は白熱化するだけで傷は入らなかった。
「ちぃ!耐性持ちか。」
ディケンズは即座に斧に持ち替えた。
ソールオングルは太陽光を蓄積させて光弾を放つ。当然それは熱エネルギーである。
同じく熱を扱うレッドテイルの甲殻には火に対する耐性があった。
レッドテイルは獲物を投げつけ、牽制すると同時に側面に回ったライラに標準を合わせた。
突っ込んできたライラに向けて、右鋏を振り下ろす。
横に跳んで避けたライラはそのまま顔を狙って切り掛かる。
音を立てて刃が止まる。攻撃はその硬い甲殻に阻まれた。
「やっぱ、そうか。んじゃあ。」
横振りで来た鋏をバク宙して躱すと、砂に手を入れ、砂の爪を放った。
レッドテイルが右鋏にで防ぐも衝撃を受け、軽く怯んだ。しかし、すかさず左鋏をライラに向けて突き出す。
ライラは追撃を止め、バックステップでそれを躱した。
レッドテイルがそのまま鋏を開いた。
「ん?」
ライラの視線の先、開いた鋏の奥でオレンジ色の光が広がる。
ハッとしたライラが横に走って逃げる。
「おいおい!ハサミってのはそういう使い方するもんじゃねぇだろ!」
それを追うように動かした鋏の中から、尻尾と同じ液体が発射された。
大きく跳んで避けたライラの背後に着弾し、大きな炎を上げた。
「熱っちぃ!」
ライラは足を擦りながらも急いでその場から離れる。
「大丈夫か!」
「大丈夫じゃねぇよ!どういう身体してんだバカタレが!」
「俺に言うなっ!」
背後を取っていたディケンズにも尻尾の先から火炎液が飛ぶ。
不意を突かれ、咄嗟の避けるが背負ったソールオングルに掛かり、火が着いた。
「や、やべぇ!」
素早く投げ捨てると、レッドテイルに斧を投げつけて追撃を防ぎ、砂を蹴り掛け消火にあたる。
甲殻に当たり、弾かれて落ちる斧を、走り込んで来たライラが取り、尻尾の甲殻の隙間に叩き込む。
切断こそ出来なかったものの、紫の体液が吹き出し、大きく怯ました。
追撃を仕掛けようとしたが、レッドテイルは砂に潜り退避した。
ライラはデザイルを投げ捨て、手を翳しながらディケンズに近づく。
「ディケンズ!大丈夫か?」
「ああ。何とかな。」
火を消したディケンズがソールオングルを拾い上げる。
「壊れたか?」
「いや、問題ない。それより奴?」
「砂の中に逃げやがった。」
「じゃあ動くとまずいか?」
「いや、撹乱してるところだ。」
ライラは砂の表面でデザイルを素早く動かし続け、レッドテイルの標的を定めさせないようにしていた。
「なるほど。」
言いながらディケンズが辺りを見渡す。
「俺の斧は何処いった?」
「砂の中に逃げやがった。」
「はぁ?」
「尻尾に付いたままだ。」
「何でだよ。」
「しょうがねぇだろ?引く抜く暇なんか無かったんだよ。」
「どうやって戦うんだよ?」
「この太ぇ腕があんだろ。」
言いながら腕をバシッと叩く。
「無茶言うな。ミゼットじゃねぇんだぞ。」
「何とかなるさ。」
「なるわけ無いだろ。って言うかお前、デザイル動いてねぇぞ。」
「あ・・・」
ディケンズの腕を叩いた時に魔法は切れていた。
二人の間から尻尾が飛び出し、火炎液を火山のように噴射した。
咄嗟に二人は下がったが、火炎液は二人を飛び越え放物線を描くように着弾して炎を上げる。
円を描くように広がった炎により、閉じ込められる形になった。
そこへレッドテイルが這い出てくる。
「済まんっ!」そう言ってライラは砂の中へ逃げた。
「おいっ!汚ぇぞ!」
叫ぶディケンズの方をレッドテイルが向く。
ディケンズはソールオングルを構えながら、一歩下がり、尻尾の中腹にまだ斧が刺さっている事を確認した。
「ちきしょう。」
鋏の一振りを横に躱しながら、斧に向けて鎖を放った。
斧に当たって弾かれた鎖は軌道を変え、尻尾に巻き付く。
それと同時にレッドテイルが鋏から火炎液を放つ。
鎖を引く力で跳んで躱したディケンズはそのまま尻尾に接近し、斧を引き抜く。
しかし、巻き付いた鎖は取れず、ディケンズは尻尾に密着したままブンブンと振り回された。
砂から出てきたライラがその光景を見る。
「遊んでる場合かっ!」
「遊んでるように見えるかっ!馬鹿!」
「戦ってるようには見えねぇけどな。」
尻尾の先がオレンジ色に光ったのを見て、ディケンズはソールオングルを諦め、手を離し、そのまま振り飛ばされた。
「ぐはぁ!」
発射された火炎液が降り注ぎ、その一つがディケンズに落下していく。
「ディケンズ!」
ライラは咄嗟に砂を飛ばし、ディケンズに落ちる火炎液を弾いた。
目の前まで来ていた火炎液が顔の真横に着弾し、ディケンズは燃え出す前に急いで転がり離れた。
レッドテイルがライラに向け、再び鋏を構える。
火炎液が放たれると同時にライラは砂の踏み台を作り出し、上に跳んで躱すと、鋏の上に着地する。
鋏の付け根を目掛け、剣を突き立てようとしたが、もう一方の鋏に殴り飛ばされる。
レッドテイルが追撃で尻尾から火炎液を放ったが、ライラは砂の壁を作り出してそれを防ぐと、そのまま魔力を込めて、壁を作っている砂を水流の様に飛ばす。
鋏で受けたレッドテイルであったが、勢いの強さに気付き、逃げるように砂へ消えた。
「逃したか?」
駆けつけたディケンズが言う。
「ああ、また砂に逃げやがった。」
「奴の火炎液だかな・・・」
間近で火炎液の発火を見たディケンズは何かに気付いた。
「恐らく砂だ。」
「砂?」
「ああ。見た感じ、体内に取り込んだ砂に、自身の分泌物を混ぜ込んでる感じだな。」
「つまり、アタシの魔法で操れるって事か?」
「ただの砂と同じようにはいかないかもしれんがな。」
「やってみる。」
地面から突き出た尻尾に二人は跳んで下がる。
火炎液が噴き上がったその時、ライラは手を翳し魔力を込めた。
すると火炎液が空中で止まる。
「おっ!」
這い出てきたレッドテイルに向けて、火炎液の塊をぶつける。
甲殻に当たり、燃え上がった。衝撃こそあれど、耐性がある為、炎で怯むことは無い。
火炎液を無効化することは出来るが、攻撃に転用することは難しかった。
「ありゃ、むしろ燃えたせいで手が出しにくくなっちまったな。」
炎を上げながら暴れるレッドテイルの攻撃を避けながらライラが呟く。
「いや、手はあるさ。」
ディケンズが言う。
「耐性があるのはあくまで甲殻だ。体内にぶち込めれば、致命傷になるはずだ。」
「体内に?ってどうすんだよ。傷口にでも擦り込むのか?」
「考えがある。」
そう言うとディケンズはライラに作戦を話した。
「そう簡単にいくかねぇ。」
「いかなきゃあ、そん時はそん時だ。」
「まぁ、やってみるさ。」
そうしては二人は攻撃を躱しながら、レッドテイルが再び地面に潜るを待った。
「ほい、来た。」
暫くし、地面に潜るレッドテイルを見てライラが言った。
「行くぞ。」ディケンズは言うと尻尾で地面を軽く叩き、レッドテイルを誘導する。
「おうよ。」
ライラは少し離れ、手を翳す。
地面が膨らみ、尻尾の先が見えた瞬間、ライラが周囲の砂を飛ばし、レッドテイルを浮き彫りにさせる。
ディケンズは、尻尾に巻き付いてぶら下がったままのソールオングルを掴み、素早く鎖を外した。
驚いたレッドテイルが直ぐさま火炎液を発射するも、ライラがそれを空中で全て止めた。
そのままディケンズはレッドテイルの背中に銃口を付けると零距離で光弾を放つ。
爆発が起きて、ディケンズが吹き飛ぶ。ライラは少し距離を置き、粉塵が晴れるを待った。
レッドテイルの甲殻はヒビ割れて、紫の体液を流しながら、その場にダウンしていた。
ライラはデザイルを掲げる。空中で止めていた火炎液が集まり、デザイルの刃先に纏わるとオレンジ色の刀身のようになった。
駆け出したライラはレッドテイルに飛び乗ると、ヒビ割れた甲殻にその剣を突き刺し、雄叫びを上げながら頭まで切り裂いた。
切り裂くと同時に傷口から炎が上がる。
レッドテイルは悶え苦しむように暴れ、その身を焦がしていく。
夜の暗闇を照らす炎と共に、レッドテイルの命もまた、消えていった。




