第61話 新たなる目標
メイリスの訓練所。そこにライラがいた。
砂地に座り、手を翳す。
出来上がった小さな砂の玉が、壁に飛んで当たり弾けた。
ライラは何かを考えながら、砂の玉を飛ばし続ける。
「どうした?」
ディケンズがやって来て聞いた。
「ん?あ、いや。」
尚もライラは何かを思案しながら、玉を打ち出す。
「なぁ、ディケンズ。」
「何だ?」
「今のアタシに足りねぇものって何だと思う?」
ディケンズは少し考えて答えた。
「知性と品性だろうな。」
ライラの拳がディケンズの脛を捉える。
「痛ってぇ!」
「こっちは真面目に訊いてんだよ。」
「俺も真面目に答えたぞ。」と言いながら、ディケンズが脛を擦る。
「アデラシアの事か・・・」
ライラは沈黙で肯定した。
「そもそもお前は人間なんだ。あんな化けモンと比べても仕方ないだろ。」
「かもしれねぇけどよ・・・」
納得出来ないライラは尚も言った。
「外魔法は底が無いんだろ?ならアタシにだって。」
「まぁ、そうかもしれねぇが・・・どうすんだ?また心臓を喰らうのか?」
「しかねぇだろ。」
「当てはあるのか?」
「前にルーゼスの奴が言ってた。種として固有で使えるのはデザートドラゴンとパルドランダだ。」
「となるとパルドランダか。」
ライラは頷き、問い掛けた。
「戦ったことあるか?」
「いや。名前は知ってるが見たことはねぇ。」
「アタシもだ。」
「しかし、パルドランダとなると長旅になるな。」
パルドランダの生息地はギルニア砂漠の最北、国境の町ベールズの方であり、南西に位置するメイリスとはほぼ真逆である。
「イルミールの方から回ってみるか?」
「無茶言うな。砂岩丘を越えるつもりか?」
「冗談だよ。」
ギルニア砂漠の外周には町が点在し、北の「ベールズ」から、北西に「ヨーズリー」、西に「ガルート」、南に「王都ニグ」と「メイリス」、東に「イルミール」と今は無き廃村「ムロイス」がある。
イルミールとベールズを繋ぐ北東には砂岩丘と呼ばれる砂岩地帯が広がっており、そこはランクAの魔物、デザートドラゴンの根城である為、人々が移動する際は、必ず西側から迂回するようになっている。
「でも回り込むのは面倒だな。いっそ、ベールズまで突っ切っちまうか?」
「馬鹿言え。砂漠の中心部なんて、どんな魔物がいるか分かんねぇんだぞ、自殺行為だろ。」
「う~ん。迂回するしかねぇか・・・」
「なら、ガルートまで突っ切るか。」
ディケンズが提案した。
「ガルートまで?」
「ああ。大回りするよりは短縮出来るし、あの辺りなら前にも行っただろ。魔王の一件でムロイスも移動してるだろうしな。」
「なるほど・・・じゃあそうするか。」
ライラが立ち上がって聞いた。
「いつ出る?」
「まぁ、早くても構わんぞ。魔王軍との戦いを報償金があるからな、取り急ぎで依頼を受ける必要もねぇ。」
「んじゃ、明日か明後日にでも出るか。」
そうして二人は鍛練に戻った。
「ええっ!大きな魚だったのかい?」
ルネラが目をまん丸にして驚く。
「ん?ハモンドたちは見たんだろ?ルネラさんは見てないのか?」
カウンターで呑みながら、ライラがハモンドを見た。
「俺たちは憲兵と一緒に流れてきた魔物を倒してたからな。住人たちは町の奥の家に避難させてたんだよ。」
「ほんと、ビックリしたよぉ。突然揺れたかと思ったら、屋根が急にババババッ!ってね。」
「あれが砂だったとはなぁ。俺はてっきり魔物が降りてきたのかと思ったぜ。」後ろで鍋を振りながらドイルが言う。「ルネラなんて頭抱えて怯えたな。」
「お前さんだって『もう終わりだぁ~!』って叫んでたじゃないか。」
慌てて否定するドイルに笑いが起きた。
「しかし、みんな無事で良かったよ。」
「違ぇねぇ。」
「そういや、またちょっと遠出するから、部屋の掃除だけ頼むよ。」ライラがルネラに言う。
「遠出?掃除は構わないけど、今度はどこに行くんだい?」
「ああ、ちょっとベールズの方までな。」
「ベールズ!それは遠いねぇ。」
「標的は何なんだ?」
「パルドランダだ。」ハモンドの問い掛けにディケンズが答える。「見たことあるか?」
「いや、流石にねぇよ。でもなんか気味が悪い奴って聞いたけどな。」
「そうなのか?」
「そうなのかってお前らも見たことないのか?」
「ああ。」
「見たこともない奴を狩ろうなんて、相変わらず胆が座ってんな。」
「ベールズに行くなら、何かお土産を宜しくね。」
ルネラが言った。
「土産って、買ってくるは構わねぇが、同じ国の中なんだから大して珍しいもんも無いだろ。」
「いや、それがそうでも無いんだよ。」
ルネラの言葉をハモンドが引き継ぐ。
「行商の中にはギルニアの暑い環境を嫌って、ニグの方まで来ずにベールズで取引して帰る奴も多いらしい。」
「ほ~ん。」
「地続きのところじゃ、わざわざ船を使ってニグと交易するメリットも無いか。」
ディケンズが呟く。
「だからベールズでしか手に入らない物もあるそうだよ。」
「なるほどなぁ。んじゃ、出る前にエリーの奴にも聞いとくか。」
翌朝。
「ハーブをお願いします。」
エリーザは満面の笑みで言った。
「まぁ、そうだよな。」
本日のハーブティと焼いたパンを食べながら、ライラが返す。
「他のもんは良いのか?ここらじゃ手に入らないもんもあるらしいぞ。」
ディケンズが聞く。
「大丈夫です。あっ、でも素敵なティーカップがあったら欲しいです。けど、割れちゃうかな・・・」
「そんくらいなら何とかするさ。」
「『素敵な』っての難しいけどな。」
「自分で言いたかねぇけど、アタシらに美的センスがあると思えねぇしな。」
「大丈夫ですよ。ハーラルで見掛けない柄なら良いアクセントになりますから。」
そう言うとエリーザは紙にスラスラと何かを書いていく。
「そうか。じゃあ適当に見繕って来るよ。正直もっと色々頼まれるかと思ったぜ。」
エリーザが「はい!」とライラに紙を渡す。
「あ?」
その紙にはハーブの名前が何十と書き連なれていた。
「は?」
「お願いします!」
再びエリーザが満面の笑みで言う。
「あ、ああ。有ったらな。」
ライラに苦笑いを浮かべる。
横から覗きこんだディケンズは顔をしかめて、ライラに小声で言った。
「とんでもねぇ量だぞ。」
「二三個見繕って、無かったで押しきるしかねぇ。」
二人の思惑を知らず、エリーザが楽しそうに話す。
「ベールズにはハーブの専門店があるんですよっ!」
「せ、専門店?」
「はいっ!」
「仕方ねぇ、袋を一個増やすか。」
「だな・・・」
「んじゃ、行きますか。」
メイリスの入口でライラがモウズに跨がり、頭を撫でる。
「今回も頼むぜ、相棒。」
モウズは「ブモォ」と鳴いて答えた。
「予定通りガルートまで突っ切るか?」
ディケンズが問い掛ける。
「ああ。何か問題でもあるか?」
「いや、土産を頼まれたからな。ニグの連中にも聞いた方がいいかと思ってな。」
「ああ・・・でもルルたちなら行こうと思えば、いつでも行けるし、エドゥリアは独自の交易ルートがあるだろ。」
「それもそうか。」
「んじゃ、改めて行きますか。」
そうして二人はメイリスを出た。




