第60話 ギルニアを統べる者⑨
空中で両者がぶつかる。
ガルヴァールの切り裂きを回避したルーゼスが切り上げる。しかし、ガルヴァールもそれを回避した。
再び切り裂いたガルヴァールの攻撃を躱し、上空へと飛んだルーゼスが剣から光の刃を飛ばす。
ガルヴァールは闇の玉を連続で放つ。最初の闇の玉が光の刃を相殺し、起きた爆発の中から闇の玉が飛ぶ。
ルーゼスはそれを掻い潜るように飛び込むと、剣で切り掛かる。
ガルヴァールが爪で剣を受け止めた。
「やるな。」
ガルヴァールの言葉に、ルーゼスは何も返さなかった。
ガルヴァールが下から尻尾を突き刺す。
爪を弾き、下がって躱したルーゼスが風を纏い牙突を繰り出した。
それを下降して避けたガルヴァールは回り込むように背後に回ると、再度闇の玉を連続で放つ。
ルーゼスは下がりながら盾で防ぎ、ガルヴァールの周りを旋回するように飛びながら回避していく。
動きに制限の無い空中で、飛行能力の高い二人は戦いは互いに躱し合いになった。
その壮絶な戦いを、人々はただ見守るしか出来なかった。
「あれがルーゼス様の実力か・・・」
二人の戦いを見つめながらブロウが呟いた。
「戦ってるところを見るのは初めてだな。」
ディケンズが続いた。
「でもよ?その土地での土地神は最強なんだろ?それにしちゃあ拮抗してねぇか?」
少し体力の回復して座っているライラが言う。
「相手は不浄王たち相手に圧倒してた魔王だからな。流石の神様でも厳しいんだろ。」
「そんなもんか・・・」
「なんにせよ、ルーゼス様に勝って貰わねぇとな。」
「祈れ・・・」
ヘイリッドが兵たちに向けて言った。
「信仰はルーゼス様の力となる。我らが土地神を信じ、祈るのだ。」
兵たちは目を閉じ、祈りを捧げた。
ライラもまた二人の戦いを見ながら呟いた。
「・・・頼むぜ。ルーゼスさんよ。」
ガルヴァールの魔法の弾幕を避けながら飛ぶ。そして隙を見て、光の刃で反撃をする。
光の刃を躱し、ガルヴァールの魔法が止まった瞬間にルーゼスが直角に曲がり、突進する。それと同時にその身が光に包まれた。
ガルヴァールが再度魔法を放つも、その光は闇の玉を弾き、そのままルーゼスが切り抜いた。
咄嗟に避けたガルヴァールの尻尾を切断した。
「貴様・・・」
尻尾を切り落とされたガルヴァールであったが、一切の動揺は見られなかった。
身体から光が消えたルーゼスもまた、大したダメージでないことが分かっていたのか、無言のまま対峙した。
そうしてまた二人の攻防が始まる。
両者退かぬ、互角の戦いに見えたが、時間の経過と共にルーゼスが回避に有する時間が増えていった。
空中を縦横無尽に駆け巡りながら、ガルヴァールの攻撃を躱していくが、一切の反撃を出来ない時間が続く。
そして遂に、ガルヴァールの放った闇の玉がルーゼスの腕に当たり爆発すると光の盾が失われた。
「逃げるだけでは勝てんぞ。」
ガルヴァールが挑発する。
ルーゼスは剣を両手で持ち、剣先を下に向ける。
「・・・いつからだ?」
ルーゼスはそう言うと、その体勢のまま、ゆっくりと地面に降りた。
「・・・何がだ?」
「いつからこの地で私に勝てると勘違いしていた。」
ガルヴァールは鼻で笑った。
「この期に及んで虚勢を張るか。」
「虚勢・・・やはり愚者であったか。」
「ふざけるなぁ!土地神風情がっ!」
ガルヴァールが闇の玉を作り出す為に手を上げた。
ルーゼスは光の剣を地面に突き刺す。
次の瞬間、ガルヴァールを中心に大きな円を描くように巨体な6本の光の剣が現れた。
「これはっ!」
驚くガルヴァールを他所にルーゼスが呟く。
「グラーム・・・ルクセス・・・」
「させるかっ!」
ガルヴァールが闇の玉を放つも、ルーゼスの前で掻き消される。
「ゼント。」
ルーゼスが呪文を唱え終えた瞬間、6本の剣から光が伸びる。
ガルヴァールは回避しようとするも、一瞬で腕と足を拘束された。
「さもない程の結界だ。私がこれを仕込んでいた事を見抜けぬ時点で、お前さんは魔王の器では無い。」
「貴様・・・」
「終わらせよう。」
ルーゼスがそう言った瞬間、周囲に居た者たちが一瞬で消える。
「おぉ?」
困惑したライラが声を上げる。
そこは王都ニグを出て、すぐの場所だった。
人間たちは勿論、大型の魔物までも、その場に移動していた。
遠くの空にルーゼスの出した光の剣と、それに拘束されるガルヴァールの姿が見える。
「何なんだ、いってぇ・・・」
困惑している者たちの前にルーゼスが姿を現す。
ルーゼスは皆に背を向け、ガルヴァールの方を見たまま言った。
「覚えておけ・・・これがギルニアの支配者。」
「まさかっ!」
以前、話を聞いていたライラとディケンズが同時に声を上げた。
突如、地面が大きく揺れ出す。
「じ、地震っ!」
各々が慌てる中、砂漠の砂が轟々と音を立て、大きく波打つ。
そして、ガルヴァールの真下、まるで地中で大きな爆発が起きたかのように砂が肥大していく。
膨らんだ地面が弾けた瞬間。それは姿を現した。
大きく口を開けた魚。町を一呑み出来るほどの大きさは、最早巨大という言葉では表せない。まるで動く島のようであった。
退化し失われた目、口の中で円を描くようにびっしりと生えている歯、口元から伸びる2本の髭、真っ白な皮膚を持つナマズ。
この地の生態系の頂点。ギルニア。
ギルニアは、比べれば埃ほどの大きさのガルヴァールを軽々と呑み込み、その身体を宙に浮かせた。
夜の静寂の中、月明かりに照らされたその姿は、人々にとって、非現実的な光景だった。
誰しもが、息をすることも忘れて、まるで時間が止まったかのように見つめていた。
そして、空中で向きを変えたギルニアが地面に潜った時、再び時が動き出した。
轟音と共に砂が高く吹き上がり、衝撃により地面は波のようにうねる。
そして、吹き上がった砂が、まるで雨の様に降り注いだ。
砂の雨が消え、砂漠は静寂を取り戻す。
ガルヴァールの命が尽きた証に、空に浮いていた魔法陣が消えたが、それに言及する者は誰もいなかった。
ヘイリッドが撤収が号を掛けるまでの間、人々はただ呆然と砂漠を見ていた。
勝利を告げるかのように、朝日だけがただ静かに登りはじめていた。
昼を迎え、王都では戦いの勝利と土地神への感謝の式典が執り行われた。
今回の件の経緯、脅威が去った事が大臣により説明され、王国軍は勿論、戦いに臨んだ狩人たちも、国王ダンクロアから労いの言葉を受けた。
式典が終了した後、町では祝賀会が開かれる。
今回の戦いに参加した、ミゼットを除く全ての者たちが一堂に会して食事をし、酒を飲む。
普段、仲が良いとは言い難い、王国軍と狩人たちも今回ばかりは昨夜の戦いを称えあった。
「助けてくれてありがとなのぉ!」
ポッポリーがルルに抱きつく。
「ちゃんと助けて上げられなかったけど。」
そう言うとルルは包帯を巻いている頭を避けて、ポッポリーの背中を撫でた。
「でもお陰でこんなに元気なの!」
そう言ってポッポリーが皆の上を飛び回る。
「おい!ポッポリー!料理の上を飛ぶな!砂が入るだろ!」
誰かが言い、笑いが起きた。
「しかし、あんな化けモンがいるとはな。」
ブロウが酒を片手に言う。昨夜見たギルニアの事だ。
「確かにな。」
ディケンズが答える。
「お前らは知ってたんだろ?」
「ああ。前にルーゼス様からメイリスを丸呑み出来るほどの魔物がいるってな。だが実際あそこまでとは思ってなかった。」
「まだまだ俺たち知らねぇ魔物がいるってことか。」
「そう言うことだな。」
言いながらディケンズが周囲を見渡す。
「ライラの奴、どこ行ったんだ?」
ブロウも周囲を見るが、ライラの姿はどこにもなかった。
「ライラのことだ。大方呑みすぎて浜辺で吐いてんだろ。」
「それもそうか・・・」
一人祝賀会を抜け出したライラは、町を出て昨夜のあの場所に来ていた。
いつもと変わらぬ砂漠を見つめながら、昨夜の事を思い出す。
不浄王、アデラシア、スーラ・ビシュラ。土地神ルーゼスの実力。
そして、この地の頂点。ギルニア。
彼らの圧倒的な強さ。否が応でも思い知らされる自分の非力さ。
その時、砂の羅針盤が大きく反応した。
気配を感じたライラが振り返る。
そこにはアデラシアが立っていた。
彼女は何も言わず、ライラを見つめる。
ライラもまた彼女を見つめた。
アデラシアは不敵な笑みを浮かべる。
それは見下すような、或いは嘲笑うかのような笑みだった。
「・・・てめぇ。」
ライラが呟いた瞬間。アデラシアの身体が砂に変わり、崩れていく。
一陣の風が吹き、砂と化したアデラシアを砂漠の彼方へと運ぶ。
ライラは砂上に消えゆくその姿を、ただ無言で見つめた。




