第6話 ルーゼス
突然の風が部屋に積もった砂や埃を撒き散らし、二人は思わず目を閉じ、手で顔を庇った。
燻っていた焚き火が煽られ、再び火が着いた。
風が収まると、中心に一人の男が立っていた。
「私に対して『一匹』などと、相変わらず礼儀のなってない奴だな。」
「ル、ルーゼス様!」
ディケンズが頭を下げた。
土地神ルーゼス。
この砂漠と共に産まれた土着神。
他の神々に比べれば、力は弱いがギルニア砂漠にいる限りは絶大な力を誇る。
金色の装飾が施された白色の神官着を纏い、手袋をした手は人間の手をしているが、脚と顔は鷹のそれである。
「言ってそっちも盗み聞きしてたわけだろ?大した神様だぜ。」
ディケンズと対照的に横柄に返した。
「私の事を日常的に話す者など、この砂漠に数えれる程しかいないからな、嫌でも耳に入る。」
「まぁ、聞いてたなら話は早いや。教えてくれよ。この砂漠のヤベェ奴らを。」
「それは出来んな。」
「はぁ?なんでだよ。」
「私は神だ。私とお前たちの感覚では齟齬が生じる。」
「ソゴ?なんだそりゃ?」
「つまり、俺たちとルーゼス様では強さの基準が違うってことだ。」
ディケンズが説明した。
「そういう事かよ。構わねぇ、アンタの基準で教えてくれ。」
「そもそも、この砂漠の上位者たちとお前たちが戦うのは不可能だ。」
「なんでだよ?」
「そのほとんどは地中深くにいる。」
「地中?砂の中ならアタシだって潜れるぞ。」
「お前が潜れるのは、精々上層の中程までだ。この砂漠は三層で成り立っている。お前たちが見ている砂漠の下には古代の遺跡群で構成された中層、更に下にはほぼ生物の居ない深層がある。」
「ヤベェ奴らはその辺にいるって事か?」
「そう言うことだ。」
「流石に引き摺り出せねぇか。地上なら不浄王がトップか?」
「そうなるな。」
続けて、ディケンズが質問する。
「因みに不浄王は地下の奴らを含めると何番手なんです?」
「・・・四番目辺りだろう。」
二人は唖然とした。
「マジかよ。あのバケモンで四番か・・・」
「そいつはえげつねぇな。」
「ニグにある魔物研究所へ行け。」
「魔物研究所?モドンのジイさんのとこか?」
「ああ、あそこには民にとっての危険性を一覧にした表がある。」
「そりゃあ、そうかもしれねぇけど、アタシらみたいな一介の狩人に見せてくれるとは思えねぇよ。」
「それに関しては私の方から進言しておいてやろう。お前たちの手助けをするつもりはないが、数十年に一度、お前の様な馬鹿な考えをする者は現れる。暇潰しの余興としては丁度良い。」
ライラは鼻で笑った。
「アタシが歴史を変えてやるよ。」
「精々、足掻けば良い。」
「素直に応援出来ねぇのかね。この神様は。」
ディケンズが再度尋ねた。
「因みにこの砂漠で一番強いやつっての何て名前なんです?」
「ギルニアだ。」
「ギルニアって砂漠の名前じゃねぇか!」
ライラが驚きながら言う。
「そうだ。この砂漠その物が、奴の住処だからな。」
「どんな奴何だ?」
「砂漠の深層を泳ぐ、巨大な魚だ。」
「魚かよ。ドラゴンとかじゃねぇのか。」
「もし、俺たちが戦う事が出来たら、勝てると思いますか?」
「まず無理だろう。サイズが違いすぎる。お前たちの攻撃など、とるに足らんだろう。」
「どんぐらいデケェんだよ?」
「お前たちの住む、メイリスであれば丸呑みだろう。」
「なっ!」二人同時に声を上げる。
「町ひとつを丸呑み?」
「そいつは流石に勝ち筋が見えねぇな。」
「ではな。」
ルーゼスが言うと再びつむじ風が起こり、消えていった。
ルーゼスが消えた後、二人が向き合う。
「・・・だとよ。」ライラが言った。
「まぁ、ニグならすぐ行けるな。メイリスに戻って一息ついたら、見に行くか?」
ディケンズが提案した。
「それで構わねぇぜ。最近会ってないから、久々にルルたちにも会いたいしな。」
「俺もエドゥリアの店に用がある。」
「エドゥリアの店?またエリーの草でも買いにいくのか?」
「こいつの件だよ。」そう言って、ディケンズはソールオングルを手に取る。
「こいつの部品を特注で頼んであるんだ。」
「錬金術っての、そんなもんまで作れるのか。」
「まぁ、ドワーフたちの作った正規品じゃねぇから、付け焼き刃だがな。」
ソールオングルは、ディケンズがギルニアに来る前にいた場所でドワーフに作って貰った物だが、ギルニアにはドワーフはいない為、メンテナンスはディケンズ自身で行っている。
「んで、どんぐらい強くなるんだ?」
「強くなると言うよりは、応用が利くようになるな。」
ディケンズがソールオングルの側面を見せる。
「ここに目盛があるのが分かるか?これが残弾数だ。」
「何も点いてねーぞ。」
「ああ、だから今は弾切れだ。こうなると全弾補充しようと思うなら、一日は放置しとかないと駄目だ。まぁ、移動しながらでも多少は補充は出来るがな。」
ソールオングルは太陽光を蓄積させ、それを収束させる事で光弾を放つ。
「今は全部で10発撃てるんだがな、その部品があれば、弾に強弱を付ける事で残弾数を調整出来るんだ。」
「つまり、強ぇ弾を少数撃つか、弱ぇ弾を大量に撃つかってことか?」
「そう言うことだ。実際着けてみないと分からんが、エドゥリアの話では高出力の弾なら3~4発。低出力なら16発くらいは撃てるらしい。」
「弱い弾撃つ時なんかあるのか?」
「牽制だろうな、後は接近された時の目眩ましってとこか。」
「なるほどな。」
「本当に砂漠の頂点を目指すなら、お前もその剣って訳にはいかんだろ。」
「まぁ、確かに。」そう言いながらカットラスを見る。
「アタシもニグの工房で何かしら頼むか。」
「まぁ、とりあえずメイリスに戻ってからだな。」
そう言ってディケンズは寝仕度をする。
「面白くなって来やがった。」
ライラはそう言うと眠りついた。




