第57話 ギルニアを統べる者⑥
「おらぁ!」
ディケンズが斧を叩きつける。
それを横に回避したルスラが回し蹴りを叩き込む。
「ぐっ!」
ディケンズが飛ばされるが、同時にブロウが水の玉を放つ。
ルスラが手を翳すと、徐々に水の玉は凍っていき、ルスラに到達する前に氷の塊へと変わる。
ルスラが更に魔力を込めると塊は飛散し、幾つもの氷の粒となってブロウへ飛んでいく。
「おいっ!俺の魔法だぞ!」
咄嗟に大剣で受けるも、幾つかの氷が当たり怯んだ。
追撃に走ったルスラに向け、ディケンズが体当たりするように尻尾を振り払う。
ルスラはぶっ飛び転がるも、飄々と立ち上がる。
それには対して二人は、多くの傷を負っていた。
「ブロウ。大丈夫か?」
駆け寄ったディケンズが訊く。
「ああ、何とかな。だがどうする?お前のソールオングルも俺の魔法も通用しねぇ。」
「おまけに素早さは向こうが上だ。打つ手がないな。」
「何とか隙を作れればな。」
「隙か・・・」
「作戦会議は終わった?」
ルスラがゆっくりと近づきながら言う。
「おう。嬢ちゃんを倒す算段は出来たぜ。」
ブロウは嘯いた。
「そう、上手くいくといいね。」
ルスラが駆け出す。ブロウは迎え撃つように大剣を振り抜いた。
ルスラはそれを跳んで躱す。そこへディケンズが光弾を放った。
しかし、ルスラの前に氷の壁が現れて光弾を防ぐ。ルスラはそのまま氷の壁をディケンズに向けて蹴り飛ばした。
「おいおいっ!」
ディケンズは逃げ切れず、氷の壁に押し潰された。
その上に乗ったルスラに向け、背後からブロウが切りかかる。
ルスラは宙返りしてブロウの背後に回り、両足でブロウを蹴るとディケンズが下敷きになっている氷の上に倒した。
「ぐはぁ!」
「今のが作戦?」
ルスラが馬鹿にしたように言う。
「くそっ!舐めてやがる。」
立ち上がり、ディケンズを救いだしたブロウが毒づく。
「水流を打てるか?」
ディケンズが背中を押さえながら、ブロウにだけ聞こえるように小さく言った。
「やってみる。」
「受けてみろ!じゃりガキ!」
敢えて注意を引くように叫びながらブロウが手を翳す。
ディケンズは横に回り込んだ。
「なに?次の作戦?」
ブロウの手から渦巻くような水流が放たれる。
「同じことだよ。」
ルスラが手を翳すと、水流はルスラの前で凍りだし、ブロウの元まで徐々に凍っていく。
ディケンズはその凍った水流に鎖を打ち込むと、鎖を引く力でルスラの前まで急接近し、最小出力でソールオングルを撃つ。
「きゃ!」
閃光が広がり、目眩ましをされたルスラが怯んで下がった。
「ブロウ!今だっ!」
ディケンズは叫びながら横に回り、斧で切り払う。
「おうっ!」
ブロウは凍った水流を踏み台に跳ぶと、大剣を大きく振り下ろした。
ガシィッ!っと音が鳴り、二人の攻撃が止まる。
そこにはルスラを包むように、ひし形の氷が形成されていた。
「なっ!」
氷の中でルスラがニヤリと笑うと氷が飛散し、二人を吹き飛ばした。
「今の作戦は良かったよ。」
ルスラは余裕そうに二人の行動を論評した。
「調子乗りやがって。」ブロウが再度毒づく。
「熱を持たない鎖への反応は遅かったな・・・」
ディケンズは小さく呟き、一人思案した。
「さぁ、次はどうするの?」
完全に舐めてかかっているルスラは楽しそうに言った。
「あのガキ!」
憤るブロウに対して、ディケンズは冷静に言った。
「作戦会議だ。いいか?」
「ふふ。良いよ。」
「どうすんだ?」
「俺が合図したら四方に小さい水の玉を飛ばしてくれ。」
「そんなんで良いのか?」
「ああ、位置を把握したい。後は何とかする。」
「終わった?」
「ああ。これでお前さんともお別れだ。」
「それは楽しみね。」
ディケンズは両者の中間辺りの地面に向け、光弾を打ち込む。
着弾した弾は、砂を巻き上げて周囲の視界を閉ざした。
「目眩ましの次は、目隠し?」
「ブロウ!」ディケンズが叫ぶ。
「任せろ!」
ブロウが剣に地面に刺し、両手を広げると周囲に幾つもの小さな水の玉が現れ、四方へと一斉に飛ばした。
一方へ飛ぶ水の玉が凍っていくのを見たディケンズがソールオングルを構える。
「そこかっ!」
位置を把握して狙いを定めると、最大出力に変えて光弾を放った。
発射音と共に光弾が飛ぶ。
「無駄よ。」
視界が無いなかでも氷の壁が形成され、光弾を防いだ。
「どうかな。」
ディケンズの呟きと共に再び発射音が響いた。
視界が晴れるとそこには氷の壁を張ったルスラがいた。
しかし、彼女の口からは血が流れている。
ディケンズの二発目は光弾ではなく鎖だった。
最大出力の光弾によって、溶けて薄くなった氷を貫通した鎖は、ルスラの腹部を貫いていた。
「そんな・・・」
ルスラが目を見開き、自身の身体を見て呟いた時、ディケンズが叫ぶ。
「ブロウ!」
同時に鎖を引くと、氷の壁を蹴散らしながらルスラの身体が引き寄せられる。
「こいつで終わりだっ!」
ブロウが叫びながら、ルスラ目掛けて渾身の力で大剣を振り抜く。
ルスラの身体は上下で二つに別れ、その場に転がった。
「ふぅ。やべぇ奴だったな。」
ブロウが息を切らしながら言う。
「ああ。」
「こんなレベルがまだうじゃうじゃ出てくるとこねぇよな?」
「・・・どうだろうな。」
二人は上空に浮かぶ魔法陣を見つめた。
「威勢が良いねぇ。」
ライラの斬撃を回避しながらミルドが煽る。
「一発くらい当たりやがれ!」
憤るライラの攻撃を躱して反撃で蹴りを放つと手に持つ剣は弾き飛ばした。
「あっ!」
「ワタシは肉弾戦が好きでね。」
そう言うとストレートを打ち込む。
ライラは身体が反らして避け、カウンターを放つ。
ミルドはそれを払いのけ、ライラを蹴り飛ばした。
追撃に出たミルドの目の前にルルが現れ、殴り付ける。
ミルドは手でガードするとカウンターを入れる。
下がって避けたルルは風魔法を使い、高速で殴り掛かる。
身体を開いて躱したミルドがその腕を掴み、そのまま後方へ投げ飛ばす。
空中で身体を翻したルルは再度風魔法を使うとミルドに突っ込んだ。
ミルドは後ろに飛びながら、自身のいた場所に炎を放ち、ルルが怯んだところを蹴り飛ばした。
「あまいあまい。」
呟いたミルドの背後で砂が盛り上がる。
瞬時に察知したミルドが回し蹴りを繰り出す。砂が弾けとんだが、そこにライラの姿は無かった。
「あぁ?」
背後の地面から飛び出したライラが思い切り殴り付け、ミルドを転げ飛ばした。
「へへっ!やっと喰らいやがったな。」
「人間にしちゃ、楽しませてくれんじゃん。」
「まだまだ、これからだぜ。」
「一発当てたくらいで調子に乗るねぇ。」
「アタシは調子に乗るくらいが丁度良いんだよ。」
ライラが駆け出し殴り付ける。
横に避けたミルドは、頭を狙って殴り返したが、ライラの足元の砂が沈みこみ、身体がズレて外れた。
ライラは腹目掛けてフックを打ち込むが、ミルドはそれを膝で受け、そのまま弾き返す。
バランスを崩したライラの腹に向け、アッパーを叩き込んだ。
「かはぁっ!」
その威力にライラの身体が宙に浮く。
「その調子から引きずり下ろしてやるよ!」
ミルドは手に火を纏わせて、怯んだライラの顔にストレートを放った。
もろに喰らったライラは大きく吹き飛ばされた。
ミルドが振り返る。そこにはルルがいた。
「次はお前さんだ。ウサギ野郎。」
ルルが突っ込む。それを見越してミルドが目の前に火を放つ。
ルルが下がると同時にミルドも下がり、手を魔力を込める。
するとミルドの周囲に小さな火の粒が幾つも現れた。
それは魔法ではなく、ミルドの種族が使う「クリムゾンバレット」と呼ばれる技。
「避けられるかい?」
手を翳すと火の粒が弾丸のように連射される。
ルルは回り込むように左回りに走って躱していく。しかし一発が左腕に当たり、それは弾丸のように貫通して血が吹き出す。
「っ!」
衝撃でルルがバランスを崩して転倒し、そこへ集中砲火を浴びせようとした時、ライラによって砂が巻き上げられ、ミルドの視界を隠した。
「ちぃ!」
ミルドはルルの位置にあたりをつけて、火の粒を飛ばした。
瞬時に宙に跳んでいたルルは火の粒の位置からミルドの場所は特定し、急降下しながら殴り付ける。
ミルドが吹っ飛んだ先で待ち構えていたライラが回し蹴りを放ち、更に吹き飛ばした。
「クソどもめ。」
立ち上がり唾を吐き捨てたミルドが悪態を付く。
「もう少し遊んでやろうかと思ったが、終わらせてやる。」
ミルドが力を入れると、その赤い体色がどんどんと白熱化していく。
「なんかヤバそうだな・・」
ライラたちは身構えた。
「死ぬ覚悟出来てるか?」
ミルドは両手に炎を纏わせると、大きく飛躍した。




