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砂上の狩人  作者: eight
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第56話 ギルニアを統べる者⑤

ミゼットとグルドラが同時に走り出す。

先程よりもパワーが上がったグルドラが思い切り殴り付けるも、ミゼットは(くぐ)るように躱して腹に一打入れ、横へ跳んで距離を取った。

グルドラは近くにあった岩を掴むと、ミゼットが跳んだ方へ投げつける。

ミゼットは鎚を振り上げ、岩を粉砕した。


その向こうからグルドラが突進を仕掛け、咄嗟に鎚で防いだものの、ミゼットの身体は大きく飛ばされ、砂煙が上がる。


「力だけじゃない。速度も硬さもパワーアップしている。」

ミゼットの転がった先へ、ゆっくりと向かいながらグルドラが言う。


立ち上がったミゼットは、砂の混じった唾を吐いて、興味無さげに言った。

「いらん自己紹介だな。」


「虚勢を張るか!」

グルドラは突進し、その豪腕を振り回す。

しかしミゼットはそれを難なく躱していた。

「ノロマの速度が上がったところで、所詮はこの程度だ。」

ミゼットが隙を突き、腹に一撃入れようとした時、グルドラの皮膚が岩のように変化する。


「ん?」

ミゼットの一瞬の戸惑いの間に、グルドラの拳がミゼットを捉える。

ミゼットはそのまま地面に転がるように吹き飛ばされた。


「どうだ?形勢逆転か?」


「抜かせ。」


再び二人がぶつかる。上がった速さに慣れたミゼットが攻撃を受けることは無かったが、強度の増したグルドラの皮膚もまた、ミゼットの攻撃を拒んだ。


暫くの攻防が続いた後、二人は距離を取って見合う。

「ダメージが通ってない。確かに硬さは上がってるようだな。」

「貴様のスタミナはいずれ尽きる。ダメージを与えられない以上、もはや貴様に勝ち目は無い!」

グルドラは勝ち誇るように笑う。


ミゼットはそんなグルドラを見ながら、平然と答えた。

「いや、簡単な方法がある。」

「フッ!この期に及んで、まだ強がるのか?」

「今より強い攻撃をすればいい。」

そう言うとミゼットは鎚を落とした。

「どういう意味だ。」

「この鎚はな、ギルムド・バンディスと言う竜の爪を模して作られた鎚だ。だが、ただ模しただけで奴の素材が使われている訳じゃない。つまりはただの鉄の塊だ。お前にダメージを与えるにはもっと強い武器を使えば良い。それだけの話さ。」

「強い武器?そんな物がどこにある?」

二人の周りには、魔物や兵士の使っていた武器が幾つか落ちているが、どれも強力と言えるほどのものではなかった。


「始めから見えてるだろ?」

そう言うとミゼットは右手を上げて、握る締める。

「あぁ?」

ミゼットの腕が赤く染まっていく。

「少し本気を出してやるよ。」

グルドラが困惑した瞬間、ミゼットが目にも留まらぬ速度で接近し、腹を思い切り殴った。

「がはぁ!」

グルドラが目をむき出して怯み、岩のような皮膚にヒビが入る。

そのままミゼットは蹴り飛ばし、グルドラは地面を跳ねるように転がった。


「どうだ?多少はダメージが入ったか?」

「っ!・・・貴様、一体何をした?」

グルドラが立ち上がりながら言う。

「何もしてないさ。そもそも始めからレベルが違うだけだ。」

ミゼットは再び一打入れる。

グルドラは血を吐き、膝を付いた。

「もしかして、このあたしに本気で勝てるとでも思ってたのか?」

「くっ!舐めやがって!」

「自分より弱い奴を舐めるのは、世の常だろ。」

ミゼットがゆっくりと近づく。

「そろそろ終わらすか。」


地面に両手をついているグルドラが顔を上げ、懇願するように言った。

「待て!待ってくれ!アンタの力なら俺より上の地位を得れる。進言するから命だけは・・・命だけは助けてくれっ!」

頭を地面に擦り付ける。

「ふっ!命だけは助けてくれか・・・プライドだなんだと妄言は吐く奴らよりは評価出来るな。」

ミゼットの気が緩んだ瞬間、頭を下げていたグルドラがニヤりと笑う。


次の瞬間、砂の中で岩のような形に変えたその拳を、ミゼット目掛けて振り上げた。

「馬鹿めぇ!」

ガンッ!と鈍い音がする。


「なっ!」

振り上げた拳を、ミゼットは足の裏で受け止めていた。


「さぁ、馬鹿はどっちだろうな?」


ミゼットの拳がグルドラの胸を貫き、背中から飛び出す。

「ぐっ!」

目を見開き、口から血を流すグルドラにミゼットが顔を寄せる。

「そんな子供騙しに引っ掛かると思われること自体が心外だな。」

「う・・・あぁ・・・」

「お前みたいな奴の事を何て言うか知ってるか?」


ミゼットがグルドラから拳を引き抜く。

「・・・雑魚だ。」

そう言って、もう意識の無いグルドラの身体を蹴り倒した。






バアルとヘイリッドの全力の攻撃をゲイビルは2本の剣で捌いていく。

二人の斬撃の隙をついて、ゲイビルがバアルを蹴り飛ばす。

バアルは飛ばされながらも火球を放った。

ゲイビルは2本の剣でヘイリッドの剣を弾くと、そのまま火球を躱す。

その隙にヘイリッドが剣に雷を纏わせて振り下ろすが、ゲイビルは剣をクロスさせ、それを受け止めた。

ヘイリッドが全力を込めて押す。ゲイビルが少しだけ後退した。

「大した力だ。」

「軽く受け止められながら言われてもな。」

「ならば、貴公も我らがガルヴァール様の配下になるか?魔族の血を授かれば、力の壁は越えられる。」

「愚問よ。」

「だろうな。」


ゲイビルが剣を往なし、4連撃を放つ。

ヘイリッドはそれを躱して、剣に纏わせた雷の刃を繰り出した。

ゲイビルは吹き飛ばされるも咄嗟に受け身を取り、着地する。そこへバアルが横から切りかかる。

ゲイビルは連撃を軽く往なしていく。バアルは連撃の最中、接近状態で炎を放つ。

しかし、ゲイビルもすかさず剣に纏わせた闇を放ち、二人の間で爆発が起きた。


「ぐわぁっ!」

バアルは吹き飛ばされて転がる。

爆風の中からゲイビルが飛び出して追撃に掛かった。

「バアル!」

咄嗟にヘイリッドが身を挺してバアルを守る。

ゲイビルの剣が肩の鎧を砕き、血が吹き出した。

「がはぁ!」

すぐさま体勢を立て直したバアルが切りかかるも、ゲイビルは大きく後ろに跳び、距離を取る。


「団長殿!」

「だ、大丈夫だ。」

ヘイリッドはそう返したが、見るからに大丈夫な状態ではなかった。


「仲間を守り負傷する・・・それが人間の強さであり、弱さか。」

ゲイビルは再度、剣に闇の纏わせた。

バアルは両手で強く剣を握り、ゲイビルと対峙する。

「貴公の実力は認める。だが、一対一で私に勝てるとは思えんな。」

「くっ!」

それはバアル自身も思うところであった。

「人間との戦い・・・十分に楽しませてもらった。だが、我々には使命があるのでな。そろそろ終わらさせてもらう。」


ゲイビルが体勢を低く構えると、目にも止まらぬ速さで駆け抜ける。

バアルを通り抜けた瞬間、幾つもの刃が襲い、バアルの全身から血が吹き出す。

バアルは悲痛な叫びを上げ、その場に倒れた。


戦闘不能と見なしたゲイビルはゆっくりとヘイリッドに近づく。


ヘイリッドは片膝をつきながら、ゲイビルを見上げる。もう戦えるだけの力は残されていなかったが、それでも剣を支えに立ち上がり、何とか剣を構えた。

「流石だ。軍を率いるだけのことはある。」

「私が倒れる訳にはいかん・・・」

ゲイビルの斬撃が飛び、ヘイリッドは再び膝をついた。

「くっ・・・」

ゲイビルが剣を構えて言う。

「残念だが、戦いは気力だけでどうにかなるものではない。」

なおもヘイリッドは立ち上がりとしたが、最早それも難しかった。

「騎士よ。貴公は私の戦いの記憶に刻んでおく。安らかに眠れ。」

ゲイビルが剣を振り上げる。

ヘイリッドは死を覚悟し、その目を閉じた。


「ぐっ!」


ゲイビルの声だった。

ヘイリッドが目を開けると、黒い槍のようなものがゲイビルの腹部を背後から鎧ごと貫いていた。


ゲイビルがゆっくり振り向く。

そこには漆黒の身体を持つ獣がいた。その顔には黄色と青色のオッドアイが妖しく輝いている。


ヘイリッドは目を見張る。

「・・・ムロイス。」

ゲイビルが切り払いながら振り返る。

ムロイスは槍の形をしていた手を引き抜き、後方へ跳んで躱した。


腹部から血を流しながら、ゲイビルが剣に闇を纏わせる。

「この地にも『影の民』がいたとはな・・・」

ムロイスはその腕を槍から剣の形に変える。

「貴公も我々の配下にしてやろう。」


勝負は一瞬であった。

ゲイビルが駆け出し、闇の刃を飛ばしながら切りかかる。

ムロイスは闇の刃を躱して、斬撃を弾くとカウンターで払い切る。

跳んで下がったゲイビルが牙突を打ち込む。

手負いとは言え、本気を出したゲイビルの速度は凄まじく、ムロイスの肩に当たると右腕が千切れとんだ。

しかし、それと同時に左手を槍に変えて、ゲイビルの脇腹を貫いていた。

「ぐっ・・・」

ゲイビルが口から吹き出した血が、兜から流れ落ちる。

「・・・右腕を・・・捨てたか。」

ゲイビルはムロイスにもたれ掛かるように崩れ落ちた。


ムロイスは片腕を失った痛みに声を上げる事もなく、ただ空に光る月を見上げると、黒い影へと姿を変え、地面に消えていった。


傷だらけのヘイリッドは、ただその姿を見つめていた。

「た、助けられたか・・・」


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