第54話 ギルニアを統べる者③
ライラは思わず、強く目を瞑った。
何かに喰らいつく音は聞こえたが、不思議と痛みは無い。
ライラがゆっくりと目を開ける。
肉食竜の身体に喰らいつく、別の大きな頭が見えた。
鋭い牙、そして側頭部にある特徴的な巻き角。
それはアルドギドスであった。
ライラが驚き、目を開いたが、アルドギドスは意に介することもなく、肉食竜を放り投げるとそちらに向け、火球を放って蹴散らした。
「お前さんに助けられるとは、皮肉だな。」
ライラはアルドギドスの脚を軽く小突く。
言葉を理解しているかは分からないが、アルドギドスは一瞬だけライラの方を見た。
「任せとけ。目隠しはアタシの得意分野だ。お前の最高の舞台を演出してやるよ。」
そう言ってライラは地面に手を翳す。魔力を込めると一気に砂が巻き上がり、砂塵が周囲を包んだ。
意図を理解したのか、アルドギドスは咆哮を上げると魔王軍に向け、火球を連続で放つ。
周囲でいくつも爆発が起こり、魔物たちが弾き飛ばされていった。
ブロウが大剣に水を纏わせ振り下ろす。
ヘイリッドと同様に水の衝撃波が駆け、魔物を弾き飛ばした。
「確かに団長ほどでないな。」
「だろ。これなら一匹ずつ切っていった方が早ぇんだよ。」
ディケンズは背後から襲ってきた魔物の攻撃を斧で防ぎ、振り返るように尻尾で薙ぎ払うと、倒れたところに止めを刺した。
「しかし、多いな。何とか一掃したいとこだが・・・」
「そいつは使わねぇのか?」
ブロウが肩に下げたソールオングルを見ながら言った。
「弾数が限られてるからな。まだ温存しといた方が良さそうだ。」
「行くのっ~!!」
その時、ポッポリーの可愛らしい声が響いた。
次の瞬間、二人の横を図太い雷撃が通り抜ける。
遠くにいた魔物の群れに直撃し、魔物たちを飛散させた。
二人が振り向くと、大きなサイの魔物ルクディロスの上にポッポリーが仁王立ちしていた。
ポッポリーは翼で別の方を指す。
「ルックン!今度はあっちなのっ!」
理解しているのかは分からないが、ルクディロスは低い声を上げると、そちらの方向へ突進していく。
「はは、ポッポリーの奴、手懐けてやがるな。」
「手懐けてる・・・のか?」
二人はその姿を呆然と見ていた。
魔物の爪による攻撃を躱したミゼットは、そのまま首を掴み、地面に叩き付ける。そして、すぐさま側面にいた魔物に飛び掛かり、竜の爪を模した大きな鎚を振り抜くと、魔物の上半身を消し飛ばした。
背後から雷撃が飛んでくるが、ミゼットは「ぬるいな。」と呟き、足元にある魔物の下半身を掴んで背後に投げて雷撃を防ぐ。
それと同時に高く跳び上がり、その鎚で雷撃を放った魔物を肉塊へと変えた。
「雑魚ばかり出てきやがる。」
何かに気付き、ミゼットは空を見た。
上空に浮かぶ魔法陣が再び赤い光を帯びる。
「ここからが本番か・・・」
魔法陣から光が伸び、光の柱から更なる魔物の群れが現れ始める。
先程よりも凶暴な風貌な魔物が多く見られた。
ヘイリッドの掛け声で兵たちは再び気合いを入れる。
魔物たちの奥から、最後に4体の人型の魔族が姿を見せた。
赤い髪に赤い体色を持つ魔族の女が見渡しながら言う。
「ここが人間どもの世界かい。なかなか良いとこじゃん。」
人間たちと戦う第一陣の魔物を見ながら、呆れたように言う。
「あぁあぁ、人間なんかに苦戦しちゃって。」
「とりあえず、あの雑魚ども殺ればいいの?」
隣にいる女が静かに言う。容姿はほぼ同じだか、髪と身体は青く、落ち着いた印象を受ける。
「ミルド、ルスラ。あまり人間を侮るな。」
二人の隣にいる全身を黒い甲冑に包んだ男が咎めた。
「人間とはいえ、我々が戦ったことの無い相手だ。舐めてかかれば、足元を掬われるぞ。」
「ゲイビルは相変わらず真面目だねぇ。」
ミルドが面倒くさそうに言った。
「俺は暴れられさえすればいい。」
一番端にいた人間を一回り大きくした魔族が言って走り出した。筋骨隆々のその肉体は灰色で、岩のような質感だった。
「待て、ザルドラ!」
ゲイビルの制止を無視して、ザルドラは王国軍へと向かっていった。
「ちっ!」
ゲイビルが舌打ちを聞いたミルドが背伸びしながら言う。
「ワタシたちも好きにやらせてもらうよ。」
「我々の目的を忘れるなよ。」
「分かってるよ。どのみち人間なんか候補外でしょ。」
ライラが殺気を感じて後ろに跳ぶ。
ライラのいた場所へ赤い肌を持つ女が拳を叩き付けた。
女はライラを見るとニヤリと笑う。
「へぇ~やるじゃん。」
「なんだてめえ・・・」
「さぁ?なんだろうね。」
そこへ横から跳んできたルルが回し蹴りを放つ。
ミルドはバク転してそれを躱した。
そこへ目掛けてライラが砂の爪を飛ばすも、横へ跳び回避する。
「ふ~ん。獣人に外魔法使いか・・・」
言いながら両腕を広げ、拳を握る。
「こいつは楽しめそうだ。」
言うと同時に拳が炎に包まれた。
ミゼットは今しがた頭を潰した魔物の死体を、横に投げつけた。
彼女に向け、走ってきていたザルドラが右手で払うように弾き飛ばす。
そのままラリアットを繰り出すも、ミゼットは軽々と躱した。
「随分とむさ苦しいが来たな。」
「・・・ハリファルドか。」
それはミゼットの種族の名だった。
「その名は久々に聞いたな。」
「魔族が人間と群れてるとはな・・・憐れなもんだぜ。」
「あたしはあたしの好きに生きてるだけだ。魔王にしがみついてエサを貰ってるだけ奴に憐れまれる筋合いはないね。」
「生意気な野郎だ。」
「奇遇だな。あたしも今、そう思ったところさ。」
「テメェ!」
ザルドラが再び、ミゼットへと飛び掛かった。
「ん?」
ヘイリッドが高い魔力を感じ、そちらを見ると前方に黒い甲冑の騎士がいた。
察したヘイリッドが声を上げる。
「ミゲイル!」
ミゲイルもまた、すぐに察して兵たちに指示を飛ばす。
「二手に別れて、右舷左舷の敵を迎撃しろ!」
兵たちは指示に従い、左右へ展開していく。
魔王側も示しあわせたように誰も近づかなかった。
「貴公が大将か。」
「如何にも。」
「お手合わせ願おう。」
ゲイビルが剣を構える。
「望むところ。」
ヘイリッドが剣を構えると同時に横からバアルがやって来て、剣を構えた。
「バアル。」
「団長殿、助太刀します。」
「二対一で良いのか?お前たち人間には騎士道精神があると聞くが。」
ゲイビルの言葉にヘイリッドが返す。
「私の使命は国を守り、民を守ること。それを前にすれば、我が矜持など、取るに足らぬこと。」
「なるほど。実力者であることは間違いなさそうだな。」
ゲイビルの剣が闇を纏う。
ヘイリッドとバアルも、それぞれ雷と炎を纏わせた。
「来るぞ。」
「なんだなんだ。」ブロウが言った。
「どうした?」
「王国軍の連中が大挙して来るぞ。」
「ああ?あっちは大丈夫ってことか?」
ディケンズとブロウがそちらを見る。
「ありゃあ、ヘイリッドとバアルだな。ヤバそうな騎士も居やがる。」
「大物が来たから、兵たちを逃がしたってことか。」
「だろうな。」
「まぁ、こっちに兵が来るなら、俺たちももうちょい前に出るか。」
「そうするか。」
二人が前に進もうとした時、数本の氷柱が飛んできた。
ディケンズは横に跳んで躱し、ブロウは大剣の腹で受ける。
目の前には青い髪に青い肌をした女が立っていた。
「私が貴方たちの相手をしてあげる。」
「唐突だな。断る権利は無いのか?」
「冗談を言ってられる相手でもなさそうだぞ。」
言ってディケンズが斧を抜く。
「女相手に二人係りか・・・紳士的じゃねぇな。」
ブロウも大剣を構えた。
「元から紳士じゃねぇだろ。」
ルスラの腕から氷が形成され、剣のようになる。
「それじゃあ、始めるよ。」




