第51話 蒼雷と閃光
「うおっ!」
岩石地帯へ向かって、走る二人に目掛けて雷撃が飛ぶ。
ライラは頭から滑り込むように伏せて躱した。アプールも走りながら放っている為、命中率はそれほど高くはない。
ライラの頭上を抜けた雷撃が前方の岩を破壊した。
「一発貰ったら終わりだな。」
すぐに立ち上がり、再び走る。
二手に別れて標的を分散しながら、二人は何とか岩が多い場所まで辿り着いた。
ライラが砂を巻き上げて視界を遮り、それぞれが岩に隠れる。
アプールは焦ることなく、ゆっくりと歩きながらそのたてがみに電気を溜めている。
岩影から二人は目配せすると、ライラが先に飛び出し、別の岩影に走る。
アプールが雷撃を放つと同時に砂に飛び込む。
遅れて出たディケンズがアプールへ光弾を撃ち込む。
着弾した雷撃が爆発し、砂に潜っていたライラは爆風に飛ばされ、岩に激突しながらも影に隠れた。
ディケンズの放った光弾は、アプールの脚を掠めるも大きなダメージにはならなかった。
「爆風がデカ過ぎて、潜っても逃げれねぇか。」
ライラは岩にぶつけた肩を擦りながら悪態を付いた。
今度はディケンズの隠れている岩に向けて、雷撃を放つ。
ディケンズはソールオングルから鎖を放ち、別の岩へと突き刺すと、鎖を引く力を利用して素早く移動する。
ディケンズのいた岩が雷撃に当たり砕け散った。
「くそっ!岩の裏でも直撃されると不味いな。」
言いながら素早く鎖を再装填する。
再び、電気を溜め始めた時、岩の裏から潜って移動していたライラが飛び出して切り掛かる。
アプールは雷撃を放つも、まだ電気を溜めきれてなかった為、そこまで威力は出ず、ライラは喰らいながらも切りつけた。
アプールの脚から血が吹き出すと同時にライラも雷撃で吹き飛ぶ。
受け身を取ったライラは電気を溜め出したアプールを見て、砂中へ飛び込んでアプールの背後に回る。
脚を狙い切り掛かるも、跳んで躱された。しかし、傷を負っている影響か、アプールも反撃までに転じなかった。
ライラは何度も砂に潜り、電気を溜めさせないように小刻みに攻撃を繰り返す。
その攻防を見ながら、ディケンズはソールオングルを確認した。
「あと精々4発か・・・」
そう言ってライラに気をとられているアプールに標準を定めた。
放たれた光弾がアプールの脇腹に当たり、爆発と共に吹き飛ばした。
「ナイス!」
ライラが追撃の為に走り出す。
起き上がったアプールが憤怒の咆哮を上げると、身体が一際帯電し、たてがみが青く輝くと、今までにない程の電気が溜まる。
「やべぇ!」
それを見たライラは足を止め、すぐさま砂の中へ逃げ込んだ。
アプールは高く跳躍し、空中から真下に向けて強力な雷撃を放つ。
「ライラ!逃げろ!!」ディケンズが叫ぶ。
大気を揺らしながら最早雷撃とは呼べぬほどに太い雷が地面に突き刺さった。
周辺に雷が迸り、一帯の地面を抉られ、砂が巻き上げられる。
その中にライラの身体もあった。
力なく吹き飛ばされたライラは地面に落ちる。
「ライラ!大丈夫か!?」
ディケンズの呼び掛けに答えることも無く、ライラはその場に倒れたままだった。
「くそ!」
ライラの元へ行こうとしたディケンズだったが、アプールの標的は既にディケンズに向いていた。
飛んできた雷撃を何とか躱し、岩陰に隠れる。先程の一撃で電気を失っているのか、威力は弱まっていた。
「溜められる前に何とかしねぇとな・・・」
雷撃の気配を感じたディケンズは岩の裏で身体を伏せた。
雷撃が突き抜け、岩の上半分を抉っていった。
アプールはディケンズもライラと同じように砂の中を移動したのかと、周囲の伺いながら電気を溜めている。
ディケンズは背中に痺れを感じながらも、匍匐状態で岩陰から顔を出し、アプールの位置を確認した。
「一か八か・・・やるしかねぇか。」
アプールのたてがみを無力化する。その方法にひとつ考えがあったが、接近しなければ出来なかった。
ディケンズはライラやルルの様に素早く動くタイプではない。近づけば近づくほど、雷撃を避けるのは難しくなる。
接近する為に様子を見ながら、機会を伺った。
幸いなことに、一度雷撃を当てた岩にはもういないと考えたのか、ディケンズの隠れている岩に対して、アプールは注意を払っていない。
ディケンズはアプールと周囲の岩の位置を確認しながら、ソールオングルの出力を最小に下げる。
「なるようになりやがれ。」
ディケンズは飛び出すとアプールの向こう側にある岩に向けて、鎖を射出する。
アンカーが岩に突き刺さり、気付いたアプールが雷撃を構えた。
鎖を引く力を利用し、アプールに向けて一直線に引っ張られていく。
アプールが雷撃を放つと同時に、ディケンズは尻尾で地面を弾き、軌道ズラした。それでも雷撃が左腕を掠めて悲痛な声を上げる。
急接近し、警戒したアプールが横っ飛びをしようとした瞬間、ディケンズが引き金を引いた。
眩い閃光が瞬く。アプールは目眩ましを喰らいたじろぎ、それと同時に自分たちから発せられたものではない閃光に気絶した蝶たちが、バタバタと落ちていく。
ディケンズはソールオングルから手を放し、斧を抜いて切り掛かる。
視界が遮られたアプールが暴れるように爪を振り、ディケンズの腕を切りつける。
ディケンズは呻きながらも斧を首目掛けて振り下ろした。
首に巻かれた触手に阻まれ、切れた触手がボトッと落ちた。
アプールは後ろに跳んで距離を取り、目を見開いて飛び掛かった。
ディケンズは尻尾を地面に刺して支えにすると、飛び掛かりを受け止める。そのまま左手で顔を殴り付けた。
「ぐっ!」
力を入れた事で、爪でつけられた傷が血を吹き出す。
怯んだアプールを肩で押し返し、額に向けて斧を振り下ろした。
鈍い音と共に、アプールの脳天が割れる。そのままアプールは倒れた。
ディケンズをまた、息を切らしながらその場に崩れる。
「はぁ・・・はぁ・・・何とかなったか・・・」
大の字に倒れ、空を見上げる。辺りは夜の静けさを取り戻していた。
満月に照らされ、意識を取り戻した蝶たちがゆっくりと空を舞っていく。
「・・・流石に堪えたな。」
ディケンズは小さく呟いた。
「・・・」
ライラがゆっくり目を開けた。
目に映る空は、薄らと明らみ始めている。
視界の隅にディケンズが現れる。その左腕には包帯が巻かれていた。
「大丈夫か?」
「アタシは一体・・・」
「奴の渾身の一撃を受けて、そのままお寝んねだ。」
「奴は・・・」
「奴もお寝んねさ。まぁ、奴の方は起きる事の無いお寝んねだかな。」
「そうか・・・」
ライラは起き上がろうとしたが、全身に痛みを覚え、再び倒れた。
「無理するなよ。」
「ざまぁねぇな。」
ライラは自虐的に言った。
「仕方ねぇさ。それほどの威力だったんだ。砂の中じゃなきゃあ、今頃お陀仏だ。」
「どうやって勝ったんだ?」
「さぁな。正直無我夢中だった。」
「一人でやったのか?」
「お前と二人でやったんだよ。」
「・・・」
「勘違いするなよ。二人で消耗させてたから勝てたんだ。俺一人で勝ったわけじゃない。」
「そうかもしれねぇけどよ。」
ライラは悔しそうに拳を握りしめる。
「これから先、もっとヤバい奴らとも戦うんだ。気を失おうと、大怪我しようと、最後まで生きてりゃあ、勝ちだ。」
無言で空を見つめるライラを余所に、ディケンズが荷物をモウズに乗せる。
「もう暫く休め。朝になりゃあ、もうここに用はねぇ。花も取ったし、さっさと帰るぞ。」
「生きてりゃあ勝ちか・・・」
ライラは呟き、何かを掴むように空へ手を伸ばした。
二人はモウズでメイリスへと向かっていた。
二人とも疲労が溜まっているのか、口数は少なかった。
採掘場付近までやってきた。ここまで来れば魔物に襲われることはまずない。
朝早くから採掘に精を出す者もいるが、鉱夫たちは採掘そっちのけで、ざわつきながら北の空を見ていた。
視線に釣られてディケンズがそちらを見た。
「お、おいっ!ライラ!」
「何だよ?」
ライラも答えながらそちらを見る。
「な・・・」
そこにあったのは、砂漠上空に浮かぶ巨大な魔法陣だった。




