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砂上の狩人  作者: eight
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第5話 砂上の頂点

ネベルダットが向かっていた方へ進んだ二人は、残りグルドカブラを見つけたが、メイリスに戻ることを断念し、宿泊所に来ていた。


宿泊所とは、遠い昔、国により行商人や行軍の為に建造された砂漠内に点在する宿泊施設だが、砂漠に住む魔物の危険性が明らかなってきたことで、砂漠での宿泊自体が禁止された為、今では整備もされず、名ばかりの宿泊施設となっている。

外観は大きな岩と見紛う様な造りになっている為に、大抵の魔物は素通りしていく。

内部にはベッド兼椅子に使われる長方形に切り出された岩と数個のランプ。そして中央には焚き火が行える窪地があった。

今では狩人しか使う事はない。勿論、狩人が砂漠で泊まる事も、法的に禁止だが、国を含めて全員が黙認している。



二人は焚き火を囲うように向かい合って座っている。

焚き火に置かれた網の上には、ネベルダットのもも肉と、ライラがもしかしたらイケるかもと持ってきたウィーグテイルの脚の一部が置かれていた。



「いや、無理だろ。明らかにヤバい臭いがしてるぞ。」

言いながらディケンズが木の枝で脚を突つく。

「いや、可能性はゼロではないはず。」

ライラが脚の殻をそっと開くと粘液化した繊維状の肉が滴った。

二人は「うっ!」と声にならない声を上げ、ライラが素早く部屋の隅に放り投げた。

「おい!捨てるなら外に捨てろよ!」

「いや、無理だね。アタシにはもう触れねぇ。」

ライラは降参するように両手を上げた。

「ったく・・・仕方ねぇな。」

ディケンズは立ち上がり、脚を拾うと入口から外に放り投げる。


ディケンズはそのまま部屋の奥まで行く。そこには他の物に比べれば、比較的新しい木製の棚があった。

それは狩人たちによって作られた物置だった。

中には色々な保存食や調味料、日持ちする酒などが置いてある。

ご丁寧な事にそれぞれには名を書いた札が付いている。

ディケンズは他人の名が付いた適当な調味料を数個取り出すと、誰に言うでもなく「借りるぞぉ。」と言った。

椅子に戻ると「聞こえたよな。」とライラに確認する。

ライラに目を瞑ったまま、ゆっくりと頷いた。


ディケンズが適当に調味料を振り、焼きあがった肉を二人は頬張った。

「そういや。」ライラが食べながら言う。

「昼の連中、どこに行くんだと?」

「昼の連中?ああ、軍の奴らか。イルミドールに行くらしい。」

「イルミドール?あんな田舎町に?凶悪事件でも起きたのか?」

「いや、田舎町とは言え、兵士はいるんだ。わざわざ副団長が小隊を連れていく事はねぇよ。」

「じゃあ、何だよ。山越えで他所(よそ)の連中が攻め込んできたのか?」

イルミドールはギルニア砂漠の東の町。町の東側に山脈が連なり、その向こうはハーラル王国の領土ではない。


「戦争が起きたなら、流石に俺たちの耳にも届いてるさ。恐らくは魔物だろうな。」

「んなこと言ったって、イルミドールの辺りに軍を動かすほどの魔物なんかいねぇーだろ。」

「この時期なら一匹いるだろ?」

「子持ちゾルファンだろ?にしたって被害が出るほど、町に近付かないだろ、あいつは。」

ゾルファンとは、長い鼻と分厚い皮膚を持つ、大型の魔物。草食で普段は大人しいが、幼い子供を持つこの時期は凶暴性が増す。

「誰かに縄張りを追われたとすれば?」

ディケンズの言葉に一瞬思案したライラが「なるほど。」と溢した。

「不浄王の野郎があの辺りを彷徨(うろつ)いてたって事か・・・」

「恐らくな。」


不浄王ケイオスヘッド。狩人に関わらず、ハーラル王国の者であれば、その名を知らぬ者はいない、砂上の暴君。

霊長類の様な体躯だが、一切の毛は無く、白いぶよぶよとした体皮に包まれている。

名にも冠しているその頭には目、鼻、口、耳が無く、顔の中央には、まるでドリルで開けた様な渦巻き状の穴が空いており、それが口なのか何なのかは学者たちの中でも意見が割れている。

不浄王は広大なギルニア砂漠を一定周期で移動し、縄張りに入った者を、圧倒的な力で蹂躙していく。その為、多くの魔物は自身の縄張りを捨て、移動を余儀なくされる。

それはハーラルの民も同じで、不浄王の動向には監視がつけられ、接近した町の住人たちは一切の外出が禁止される。

そして、最大の特徴は、不浄王は捕食行動をしないと言うことだった。一説では倒した相手の魔力を喰らっている、或いは魂を喰らっていると云われている。

本来、砂漠で生物が死ねば、周囲の魔物やヴァルチャーと呼ばれる腐肉食の猛禽類が死骸を処理するが、不浄王の縄張りの場合、彼らも逃げていく為、不浄王が去った後の地は腐った死骸で溢れかえる事となる。

それが不浄王の二つ名の由来である。



「でも、ゾルファンが不浄王に押し出されてきたなら、それこそアタシたち狩人(捨て駒)を使えばいいんじゃないか?」

「そこが難しいところでな。この砂漠では俺たち狩人は地位を上げすぎたんだよ。」

「地位を上げた?どこがだよ。」

「エリーの奴も言ってただろ?住人たちの依頼を解決するって。当たり前の話、何かの素材が欲しいなんて依頼の為に、軍に頼る訳もいかん。そうやって何でもかんでも狩人に頼んでるから、住人たちの狩人への信頼が高いんだよ。」

「まぁ、ネベルダットの尾羽なんかで、軍を動かすわけにもいかねぇしな。」

「ああ、だが国としては住人の一番の信頼先は王国軍であって欲しいわけだ。だから、町が襲われるかもしれないって状況なら、敢えてギルド(こっち)に情報を流さずに、軍を派遣したって事だろうよ。」

「ほ~ん。なるほどな。」ライラは骨に付いてる肉を歯で削ぎ落としながら相づちを打つ。

「魔物を倒して、町は安全。軍は威厳を保てる。まぁ、国としてはそれが最善策ってわけだ。」

「ふ~ん。解せねぇな。政治ってやつは。」

そう言って、喰い終わった骨を焚き火の中に放り込んだ。




食事を終え、焚き火の火が小さくなったところで、ランプに火を移した。

火を消すとランプの明かりだけで、少し薄暗くなる。

ディケンズがそろそろ寝ようかと準備していると、椅子に座ったままだったライラが声を掛けた。

「なぁ、ディケンズ。」

「何だ?」

「昼のウィーグテイル。一人だったら倒せたと思うか?」

ディケンズが少し思案して答える。

「まぁ、事前に分かってて、準備をしてたなら・・・いや、厳しいだろうな。」

「アタシもそうだ。でも二人なら倒せた。」

「それがどうしたってんだ?」

ライラは少し間を置いて言う。


「アタシは捨て子だ。赤ん坊の時に砂漠に捨てられ、物心つく頃にはメイリスで、じいちゃんたちに育てられてた。」

幼いライラは砂漠で狩人に発見され、その後、メイリスに住む老夫婦に引き取られた。もう二人とも他界したが、元々狩人だった両者に武器の扱いや狩人の立ち回りについて、叩き込まれた。

「正直なところ、ルネラさんみたいに誰かと一緒になって幸せな家庭を築こうなんざ、思っちゃいねぇ。落としても惜しくない命だ。ディケンズはどうなんだ?」

「どうって言われてもな。まぁ、確かに俺もリザードマンの種族の特性上、子孫なんか残せねぇが、命が惜しくないと言うほどではねぇな。」

「アタシたち二人で、この砂漠の頂点を取らねぇか?」

「頂点?」

「この砂漠にはギルドや王国が情報を出してねぇ魔物もいるだろ?そう言う連中を根こそぎ倒して、ギルニアの頂点に立とうって話だよ。」

「なるほど。」

ディケンズは暫く思案する。

「まぁ、確かにリザードマンになった以上、自分の力を確かめたいってのはあるな。」

「じゃあ、決まりでいいな。」

「構わんが、ギルドも出してない情報をどうやって調べるんだ?まさか、昼夜砂漠をさ迷うって訳にもいかんだろう。」

ライラがニタりと笑う。

「そういうことに、詳しそうな奴が一匹いるだろ?」

「詳しそうな奴って、お前、まさかっ!」

ディケンズが少し慌てながら返した瞬間、部屋の中につむじ風が巻き起こった。



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