第45話 悪魔と魔女
俺はカバルリザードと言う種から進化したリザードマンだ。
リザードマンになるということは、当然ある程度の戦闘経験を積んできて、実力もあると言うことだ。
しかし他のリザードマンに比べて、俺の体格は小さかった。ならば力ではなく、スピードを活かした戦い方を選ぼう。そう考えた。
だが、それはあくまでリザードマンの中での話であり、外の世界ではただ何においても中途半端な力だと言う事を思い知らされた。
野生の地で打ちのめされた俺は、人間たちの世界で軍に入ると決めた。人間相手なら分があると思った。
しかし、待ち受けていたのは奇異の目だった。しかも普通のリザードマンより体格の劣る俺を舐めてかかる者もいた。
結局、人間社会にも馴染めなかった俺は一介の山賊に成り下がり、不毛な日々を過ごしていた。
そんな時、出会ったのがグライド様だった。
彼は俺に・・・
その瞬間、ミゼットがサーベルスを殴り飛ばす。
「ぐはっ!」
「貴様!どういうつもりだ!」
「どういうつもり?こっちの台詞だ。」
ミゼットはゆっくりと近づきながら言う。
「戦いの最中に昔話をベラベラと。そんな余裕があるのか?」
ミゼットがサーベルスの首を掴み、自分の顔に寄せる。
「いいか?聞けトカゲ野郎。例えお前の人生が悲しみに満ちた不幸なものであろうと、喜びに満ちた幸福なものであろうと、お前の人生の終着点は今日ここであたしに殺される。その事実は変わりはしない。」
「くっ!」
ミゼットはサーベルスを放り投げる。
「感傷に浸りたいならあの世でやれ。」
「このままでは終わらせん。」
立ち上がったサーベルスが注射器を取り出し、自身の腕に射した。
するとサーベルスの身体が震えだし、筋肉が膨張し爪が鋭くなる。白目を剥き、息遣いが荒くなり始めた。
「・・・狂暴剤か。」
冷静に見ていたミゼットが呟く。
それは力と素早さを向上させる代わりに防御と理性を失わせる「狂暴状態」を意図的作り出す薬。
サーベルスが雄叫びを上げて飛び掛かる。
「ちぃ!」
予想以上の速さに咄嗟にガードしたミゼットをそのまま吹き飛ばし、大きな岩に当たる。
更にサーベルスが追撃し、ミゼットは跳んで躱す。
その攻撃は大きな岩を砕いた。
「・・・なるほどな。」
ミゼットは狂暴剤の効力を確認するかのように呟いた。
サーベルスが振り向く。最早正気は無く、口の端からは泡を吹いている。
再びサーベルスが爪で切り掛かるが、攻撃を躱せるギリギリまで下がり、カウンターで蹴りを喰らわした。
蹴りあげられたが痛みに鈍感になっているのか、サーベルスは追撃を続ける。
しかし、ミゼットはそれも躱した。
狂暴剤の力があったところで、ミゼットの方が上だった。
初めの一撃は予想以上の速さであったから喰らっただけであり、速さが確認出来た上での二度目は無かった。
サーベルスは連撃を放つもミゼットは全て回避する。
攻撃当たらない事への怒りか、狂暴剤に寄る興奮か、サーベルスの攻撃が大振りになった瞬間をミゼットは見逃さなかった。
サーベルスの爪が振り下ろされる前にミゼットが突っ込む。その拳がサーベルスを胸を貫いた。
サーベルスの動きが止まり、ミゼットにもたれ掛かった。
サーベルスの背中から突き出たミゼットの手には、その心臓が握られている。
それを握り潰したミゼットはサーベルスを振り払う。
死体から落ちた狂暴剤を拾いあげる。
「こんな物を支給するとはな・・・キナ臭い奴らだとは思ったが。」
ミゼットは倒れたサーベルスを見た。
「リザードマンになって知性を得たのに、力の為に獣に成り下がったか・・・憐れなもんだな。」
ミゼットの巫女装束と呼ばれる服はサーベルスの血で赤く染まっていた。
バーのカウンターでライラ、ブロウ、ルルが並んで呑んでいる。
「それで、その女をそのまま逃がしたのか?」
「だってまだ子供だぜ?流石に殺すのは気が引けるだろ。」
ブロウの質問にライラが答えた。
「まぁ、分からなくもねぇが。」
「ライラは甘いね。」
ルルが呟く。
「まぁ、アタシに狙いを定めてたみてぇだし、他に被害は出ねぇだろ。それにトラブルが起きても、アイツの強さなら軍の連中に捕らえられるのオチさ。」
「一応、一報入れといた方がいいだろ?」
言いながらブロウがカウンターの奥にいるザインの方を向く。
聞き耳を立てていたのか、ザインは分かったと言わんばかりに頷く。
隣で気怠そうにしている給仕係の女も聞いていたのかミリオンの特徴をメモした紙をザインに滑らせた。
「それで。そろそろ夜戦に挑むのか?」
「ああ。と言っても大物はいかねぇけどな。夜はギルドも情報を把握してない部分が多いらしいから、肩慣らしだな。」
「ポッポリーなら分かるんじゃないのか?」
「アイツは明日の朝には不浄王の監視に戻るらしいから無理だな。それにアイツの情報じゃあ、余りあてにならねぇ。」
「それもそうか。」
「まぁ、ニグとメイリスの間なら、夜に通ることもあるからな。ここら近辺ならそれほど危険でもねぇだろ。」
ザインがカウンターを掃除しながら口を挟む。
「夜行性の奴らは捕食者同士が多いからね。混戦、乱戦になることも視野にいれておいた方がいいかもね。」
「獲物の奪い合いをするって事か?」
「と言うよりは捕食者を狙う、上位捕食者が来るかも知れないって事だよ。まぁ、上手くいけば漁夫の利を狙えるかもしれないね。」
「ほ~ん。覚えとくよ。」
「ところで昨日のデカイ水の球は何なんだ?ブロウがやったんだろ?」ライラが尋ねる。
「ああ。」
「まさかあれが真の実力とか言わねぇよな?」
「残念ながら実力ではないな。」
そう言うとブロウはDDのペンダントの話をした。
「触媒つっても宝玉ひとつであそこまで強ぇ魔法が撃てるのか?」
「エドラマリンは本来深海でしか手に入らん希少な宝石だからな。水の触媒としては最上級だ。」
「ならいっそ、DDからペンダント貰っちまえばいいじゃねぇか。」
「いやいや、旦那の形見だぞ。流石に出来ねぇよ。」
「しかし、砂魔法にはデザーク結晶しかねぇのかね。」
イカのゲソを齧りながらライラが言った。
「他は知らないのか?」
「少なくともアタシは聞いたことないな。」
「ザインさんは何か知らないか?」
ブロウがカウンターの向こうへ尋ねる。
「魔法関係はあまり詳しくないね。」
ザインは少し考えてから言うと隣の給仕係に意見を求めた。
相変わらず気怠そうにしながら女は言う。
「・・・サンドロスライト。」
「サンドロスライト?聞いたことねぇな。」
「多分、中層付近じゃないと採れないよ。」
「ほ~ん。でも何でお前がそんなこと知ってるんだ?」
ライラの疑問をザインが代わりに答える。
「彼女は魔女だからね。」
ザインの言葉にライラとブロウが声を上げて驚く。ルルも驚いたのか、給仕係の方を見た。
その声に周りの者たちも注目した。
ザインは「気にしなくて大丈夫だよ。」と周りの者たちの注意を逸らした。
魔女。それは生まれもって2つ以上の属性魔法を使える者の総称。本来は「魔術師」と呼ばれるが、女性の場合は魔女と呼ぶことが多い。その魔力は一般人より遥かに高い。
「何で魔女がバーで働いてんだよ。」
ライラが少し声を潜めて聞いた。
「まぁ、謂わば仮の姿って奴だね。彼女の本職は僕の用心棒だよ。」
給仕係は自分の話なのに興味無さげにグラスを拭いている。
「僕は情報屋だからね。町で得た情報をギルドや王宮に流す、その逆も然り。当然ヤバい連中の情報も扱うからね。知らないところで恨みを買うことあるのさ。態々ギルド本部の下にあるバーに乗り込んで来るほどの奴はいないだろうけど『念には念を』だね。」
そこまで言うとザインは注文の準備をし、女の詳細については語らなかった。
女もまた、気怠そうに雑務を続けた。




