第41話 シーサイド・ブロウ①
豊漁祭。
ハーラル王国には年に二度、大きな祭がある。
大地の恵みと王国の大半を占める砂漠に感謝をする「豊穣祭」
生命の源である水とそれを運んでくる海に感謝をする「豊漁祭」
とはいえ、ギルニア砂漠の東部には山脈が連なり、西側は海があるものの、その殆んどは断崖絶壁になっている為、基本的には南側、それも唯一の港を有する王都での祭が主である。
この日ばかりは、普段一般人の出入りが少ない港にも多くの住人が集まり、皆が祭りを楽しんでいる。
その港の東側に広がる浜辺。この日の為に大工たちが建てた長い舞台に様々な人が並んでいる。
そして皆一様に釣竿を海へ垂らしていた。
豊漁祭の一大イベント「釣りコンテスト」
二日に渡り、大きさ・量を競う。一位になった者は一年間、豊漁に恵まれるとされている。
豊漁と聞けば、漁師だけものと思われるが、各々が自分なりの豊漁を勝手に解釈する為、漁師以外の者も参加している。
「ほら来たぁ!こいつで8匹目だぁ!」
ブロウがその豪腕で大きな魚を釣り上げる。
「おお!」
「流石はブロウだぜ。」
周りで狩人仲間が囃し立てる。
その隣で更に大きな歓声が上がった。
「来た!DDの奴、10匹だぞ!」
赤いウェーブの髪に緑のバンダナ、男顔負けの体格。ニグで一番大きな漁船の女船長。D・D・ハニス。
「ブロウ!悪いね。今年も私が優勝させてもらうよ!」
「冗談言うな。去年は俺が勝たせてやったんだよ。」
「よく言うさ。まぁ、明日には分からせてやるよ!」
「それはこっちの台詞だぁ!」
言いながらブロウが9匹目を釣り上げた。
「おお!」
「ブロウも負けてねぇな!」
舞台の後ろに作られた簡易な観客席で、皆がコンテストを盛り上げている。
観客席の端の方にライラが座っていた。隣ではルルがアイスミルクを飲み、反対側でエドゥリアがイカ焼きを頬張っている。
「ディケンズ!今何匹だぁ?」
ライラが声を上げた。
「知ってんだろ!」
舞台の端で釣るディケンズが不服気味に答えた。
足元のバケツの中には小さな魚が1匹だけ泳いでいる。
「因みに小せぇのはリリースだとよ~。」
「分かってるよ!」
「せめてアタシらの飯とルネラさんの土産分くらいは釣れよ。」
ブロウたちの方でまた歓声が上がる。
「ブロウは10匹目だと!」
「うるせぇよ。ったく!こっちは始めから優勝なんて狙ってねぇんだよ。」
その時、糸が引く。
「おっ!きたきたきたぁー!」
ディケンズが力一杯、竿を上げる。
力任せに上げたせいか、空に上がった際に針が外れて魚が上空へ飛ぶ。
「あ!」
そこへ飛んできたポッポリーが脚で魚を掴む。
「ディッケン!ありがとなのー!」
ポッポリーも今日はお役御免で、沖で魚を浜辺付近に追い込む係をしている。
「おい!ポッポリー!返せ!」
「こりゃあ、土産はブロウから貰った方が良さそうだな。」
ライラが呟いた時、隣で食べ終えたエドゥリアが言った。
「やっぱり今年もブロウさんとDDさんの一騎討ちみたいですね。」
「まぁ、懸けてる情熱も違うしな。ところでローゼルは来てないのか?」
「今日はエリーさんが来てるので、店でお茶会をしてます。」
「あぁ、そういやそんな事言ってたな。」
その夜、ギルド本部下のバーはいつもと違い、焼いた魚の匂いで充満していた。
コンテストに参加した狩人や工業区の人間が魚をあてに酒を呑み、釣果について語り合っていた。
「んで結局、DDが一番釣ったのか?」
ライラが魚を齧りながら言った。
「数だけが勝負じゃねぇよ。」ブロウが返す。
「一番大きいのも、DDだった。」ルルが呟いた。
「勝敗は明日も合わせてだ。まだ全然勝機はあるさ。」
ブロウが強がる。
「餌、変えた方が良い。」
「やっぱりルルもそう思うか?実は二択で迷ってたんだ。明日はもう一個の方を使ってみるか。」
「ほいで、誰かさんの釣果はどうだったんだ?」
ライラがディケンズの方を向きながら言う。
「こう言うもんは数の問題じゃねぇ、楽しんだもんの勝ちなんだよ。」
ディケンズが酒を煽りながら答えた。
「リリースしたの、除いたら2匹。」ルルが代わりに答えた。
「ぷぷっ!」
「おい!釣りをしねぇ、お前が笑うんじゃねぇよ。」
「まぁ、ルネラさんの土産分はブロウから確保したからアタシらで食べちまおうぜ。嫌な思い出は忘れてよ。」
「勝手に嫌な思い出にするんじゃねぇ。俺は十分楽しんでるんだよ。」
「しかし、DDの奴もいい歳だろ?あの歳で大したもんだな。」
ライラが感心しながら言う。
「ああ、海の事故で船長だった旦那を亡くしてから、船長として船員たちを引っ張ってきたからな。皆のお袋さんみてぇなもんだ。腕っぷしも中々らしいぞ。」
「そうなのか?」
「俺たちほどじゃないが、船乗りの連中も海の魔物とやり合う時があるからな。」
「ほ~ん。海の魔物か。アタシらは専門外だな。」
「ニグだとたまに浜辺に現れることがあるが、基本的には小物だな。」
「憲兵が、対処してる。」ルルが引き継いだ。
「一回くらい戦ってみてぇな。」
ライラが呟く。
「おいおい、只でさえ戦わなきゃあいけねぇ奴がたんまりいるのに、これ以上増やすんじゃねぇぞ。」
ディケンズが突っ込んだタイミングで酒場の扉が開き、一人の狩人が入ってきた。
「おいっ!港がやばいぞっ!」
港に向かったライラたちだったが、兵により封鎖されていた。そこにはDD率いる漁師たちも集まっていた。
「あれは私たちの城なんだ!自分たちで守らせな!」
道を塞ぐ憲兵にDDが吠える。
「我々で対処するから大人しくしてろ。」
「船を傷つけたら国に弁償させるからね!」
「DD!攻め込まれたって聞いたぞ?」
「ブロウかい?ああ。ここら一帯で海賊をしてるシーオークの連中さ。どうやら港がバレちまったようだ。」
「海賊?いくら海賊つったって、国に攻めいらないだろ?」
「こないだ、コテンパンにしてやったからね。その仕返しだろうね。狙いは私らの船さ。船を守りたいけど、コイツらが邪魔すんのさ。」
「港である以上、我々の管轄だ。」
「おい!あれを見ろ!」ライラが叫んだ。
皆がそちらを向くと、港の隣の浜辺に大きな魔物の影が見えた。
「なっ!魔物だと!」
「おいっ!浜にも兵を回せ!」
憲兵が慌てて声を上げ、急いで浜辺へ向かっていく。
「よっしゃ。今のうちに行こう。」
「でも、浜辺もやべぇんじゃねぇか?」
ブロウの言葉にライラが答えた。
「いや、あれは・・・」
浜辺に向かった兵たちの一人が魔物に先制攻撃を仕掛ける。
ザッ!と音ともに魔物が崩れおちる。
「ん?」
そこにあったのは巨大な魔物の形をした砂の塊だった。
「な、何だこれ・・・」
港の先、オークと騎士団が戦う場所へ向かいながらDDが言った。
「アンタがメイリスの女狩人だろ?助かったよ。」
「気にすんな。困った時は御互い様だ。さっさとケリをつけようぜ。」
「だね。」
騎士団の指揮をとっていた副団長のミゲイルが突然押し寄せたライラたちに驚く。
「なっ!何で漁師どもが!それに狩人の奴らも。」
「まぁ、硬い事言うんじゃねえよ。町を守りたいの皆一緒だろ?」
言いながらブロウがオークを切りつける。
斧でガードしたオークだったが、そのまま吹き飛ばされた。
青い体色を持つシーオークと配下のサハギン、騎士団と漁師と狩人が入り雑じる混戦となった。
暫くの攻防が続くも、数で勝る王国側が徐々に押していく。
「ちぃ!」
海賊の船長と思わしきシーオークが後退しながら指示を出す。
「あのババアの船だけは落とすぞ!」
海賊船の方を見て、合図を出す。
すると海賊船から火の付いたバリスタが発射された。
DDの船に着弾し、火の手が上がる。
「しまった!」
その動揺に乗じて海賊が押し返し始めた。
ミゲイルがサハギンの攻撃を盾で往なして蹴り飛ばし、そこへ横から来た別の攻撃を剣で受けた。
副団長だけなことはあり、冷静に攻撃に対処しているミゲイルが叫ぶ。
「ここは我々で抑える。お前たちは船の火を消せ!」
「アンタたち!行くよ!」DDが漁師たちを引き連れて船に向かった。
「お前たちも行け!」
「アタシらの専門は火消しじゃねぇのさ。」
ライラが答えた時、再び浜辺から声が上がった。
そちらを見ると浜辺にサハギンが連れてきた大きな魔物が現れていた。
「くそっ!本物が来やがった。」
「あれはお前らの専門だろ?」
「オークどもを入り込ませるなよ?」
「笑わせるな。」
ライラたちは海賊を騎士団に任せ、浜辺に向かった。
狩人たちが浜辺に向かう中、ディケンズが言った。
「ブロウ!お前は水が使えるんだ。船に回ってやれ。」
ブロウは燃えている船と浜辺を交互に見ると「任せたぞ。」と残し、船に向かっていった。




