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砂上の狩人  作者: eight
38/55

第38話 ネクストレベル

「確かに前よりは硬いみたいだな。」

盾を構えたルッソが言った。

「だろ?」

訓練所の一角で、ライラの作り出した砂の玉をルッソが盾で受けていた。

「だが、デカイ魔物相手に通用する硬さとは思えんな。」

「そこなんだよなぁ。」

強化された砂の玉の硬さは石に届かない程度であった。無論、以前に比べれば攻撃力は高いが、甲殻を持つ魔物に通用するかと言われれば、無理があった。


「他に何か出来るようになったのか?」

「まぁ、砂は動かしやすくなった気がするが、何って言われるとな。今、模索中だよ。」

「相手してやろうか?」

「いや、大丈夫だ。もう少し、一人で考えるよ。」


ルッソは鍛練に戻り、ライラも一人、砂場を見つめた。

戦闘中に咄嗟に思いつき、試すことはあるが、いざ新しい魔法を考えるとなると中々良いものが思い付かない。

今のところ、心臓を喰らうと言う苦行に見合う成果は得られていなかった。

暫く、あれこれ試していると、ディケンズがやってきて声を掛ける。


「どうだ?新生ライラ様は誕生したか?」

「いや、今のところ、昔ながらのライラ様だな。」

「そうか。まぁ、強くなった事は間違いねぇんだろうから、(じき)に何か見出だすだろ。」

「その『(じき)』を待ちたくねぇんだけどな。」


「魔法研究所に行ってきたらどうだ。あそこが一番手っ取り早いだろ?」

「あそこか・・・まぁ、あそこしかねぇか。」

ライラは少し渋りながら答えた。

「気乗りしないのか?」

「連中にとっちゃ、アタシは研究対象だからな。」

「あぁ、そう言うことか。」

「まぁ、でも仕方ねぇか。明日でも行ってみるよ。」


その後もライラは試行錯誤を続けた。



翌日、ライラはニグを訪れた。

王立魔法研究所は王宮ではなく、商業区の北、王宮の前にある。

その理由は、彼らの研究対象の多くが一般人だからだ。王宮の中の魔法を使える者だけでは、研究が進まぬ為、王都の住人たちにも協力を得る必要がある。しかし、一般人を簡単に王宮に出入りさせるわけにはいかないので、王宮外に建立されている。



中に入ったライラは受付嬢に「よぉ!」と声を掛けて、奥へ入っていく。

雇われで、恐らくライラが誰かも分かっていない様子の受付嬢はきょとんとした顔で会釈を返した。


「仮にも王立の施設がこんな素通りでいいのかねぇ。ミゲイルの言ってた警備って奴はどこに行ったもんか。」

ライラはここにはいない副団長への嫌味を飛ばし、進んでいく。

周りにいる研究員たちは自分の研究に没頭しているのか、誰もライラを気に止めることはなかった。



暫く進むと一人の男が声を掛けてきた。

「おっ!砂魔法の方からここに来るなんて珍しいね。」

「人を魔法の名前で呼ぶんじゃねぇよ。」

エリック・ボルデン。王立魔法研究所の主任研究員の一人。黒髪の短髪の整った顔立ちをした28歳の男で、細いフレームの眼鏡が知的さを際立たせていた。


「それで。何の用だい?」

「あぁ、実はな・・・」

ライラは砂魔法を使う魔物の心臓を喰らったことを説明した。


「何?喰ったのか?人間でそれをする奴がいるとは思わなかったよ。その説は研究者の中でも懐疑的な者もいるからね。」

「でもルーゼスの奴がそう言ってたぜ?」

「神様のお墨付きか。これは研究が捗りそうだな。」

エリックは一人の研究員を呼んだ。

「ロレッタ!」

何かの書物を読み耽っていた女が顔を上げ、こちらに向かってきた。


「おっ、砂魔法。」

「お前もか。」

ロレッタ・スベルテン。エリックと同じ主任研究員で長い紫色の髪と赤い眼鏡を掛けている。

「同じ外魔法を持つ者の心核を摂取したらしいよ。」

ロレッタは細い眉を少し上げて驚き、ライラは凝視した。


「な、何だよ?」

「いや。前から化けもんみたいな娘だと思っていたけど、本当に化けもんだったとはな。」

「おい!ふざけんな。」

「はは、冗談だよ。それで?どうなんだい?」

「まぁ、魔力は上がった気はするが、そもそも砂魔法にどんなもんがあるかよく分からねぇんだよ。だからあんたらに訊きに来たんだ。」


それを聞いた二人は目を見合わせた。

エリックが言う。

「実のところ、僕たちもあまり詳しくなくてね。」

「はぁ?毎日研究してんじゃねぇのか?」

「外魔法はなぁ。」ロレッタが嘆く。

「予算が降りなくてね。」エリックが答えた。

「予算?」

「そうなんだ。神と悪魔に依って作られた魔法の根源である真魔法。宗教も絡む、これらの魔法はそれなり研究される。そして六属性からなる周魔法。これが一番盛んに研究される。」

「そうなのか?」

「人間が使うことが最も多い魔法だからね。それは即ち、戦場で最も使用される魔法。」

「敵にするにも、味方にするにも研究は必須なのよ。」

「なるほどな。」

「それに比べて外魔法は、研究対象が少ない上に、種類が多すぎる。国として、研究予算を充てるには旨味がないんだよ。」

「まぁ、私達としては、まだまだ未知の部分が多い魔法だから、一番研究したいんだけどねぇ。」

「外魔法ってどんくらい種類があるんだ?」

「例外を除けば、ざっと30くらいじゃないかな。」

エリックは同意を求めるようにロレッタを見た。

ロレッタは少し考えて、頷いた。



「例外ってのは何なんだ?」

「禁呪さ。」

「禁呪?」

「公的な呼び名は無いけどね。我々は勝手にそう呼んでいる。」

「枠組みとしては外魔法扱いだけど、一歩間違えれば世界を崩壊させかねない3つの外魔法だよ。」

「随分物騒だな。」


「無、時、星。この3つの属性魔法を使う者は研究どころか、即座に抹消しろと言われているね。」

「勿論、今まで見掛けたことなんか無いし、もし敵対したら抹消されるのはこっちだろうがな。」


「ほ~ん、世の中にはやべぇ奴がいるんだな・・・兎に角、情報がねぇなら、ここに来たのは無駄足だったってことか。」

「いや。」

そう言うとロレッタは本棚に手を翳す。

「当然、全く研究してない訳じゃないさ。」

本棚の中の一冊の本がゆらゆらと浮かび、ロレッタの手に収まる・・・





「そんで、教えてもらったのがそれか。」

ディケンズが言う。

「ああ。砂の爪だとよ。」

ライラはもう一度、砂の中に手を入れる。

手を振り上げると爪痕のような三本の砂で出来た刃が地面を這って飛んでいく。

奥へ置かれていた土嚢がドコッ!っと音と共に衝撃によりへこんだ。

「あんまり威力はねぇんだな。」

「遠くなるほど、弱まるらしい。」

発生時が一番大きく、距離が出るほど小さくなっていた。

「んじゃ、接近専門か?」

「まぁ、近~中距離ってとこかな。ただ名前に反して斬撃ではないけどな。」

爪の形をしてはいるものの、砂である事には変わりない為、切ると言うよりは殴るに近かった。

「良いんじゃないか?甲殻の硬い奴らに対してなら、下手な斬撃より打撃の方が有効打だろ?」

「まぁ、状況によって剣と使い分けっととこだな。」




「それで。どうする?」

「どうするって何だよ。」

「俺たちも経験を積んだし、武器も強くなった。そろそろ行きたいんじゃないのか?」

「そういうことか・・・」ライラはほぼ消えている左腕の噛み跡を擦った。

「そろそろ借りを返しに行くか。」


そうして二人はアルドギドスへの再戦を決めた。


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