第37話 ルル=シ・カ
ニグを出て、少し北西に進んだ場所。
その昔、工業区で出た大型の道具や加工クズなど、どう処理していいか分からぬ物を、砂に沈むだろうと捨てていった結果、至るところに人工物が転がっている。
現在は捨てる事を禁止されているが、それでも捨てる者がいるのか、真新しい物も散見される。
「ガラクタの墓場」と呼ばれるその場所に、ルルは訪れた。
そこには赤い髪の男が立っていた。目の下には涙の様な痣がある。それがクラウンの名の由来である。
右手にはナイフを持ち、左手には鎖が巻き付けてあり、その先端は鉤爪状になっていた。
クラウンは仰々しく両手を広げた。
「ようこそ!私の殺戮の舞台へ。今から貴様は死のフィナーレをむか・・・」
言い切る前にルルの拳が飛ぶ。
咄嗟に両手をクロスさせてガードしたクラウンが後方に飛ばされた。
「おい!まだ喋ってただろう!」
「喋りに来たわけじゃない。」
「フンッ!死に急ぐか!」
クラウンが駆け出し、ナイフで切り裂く。名のある殺し屋なだけはあり、その速さは本物だった。
ルルは即座に横に跳び、鉱石で出来た大きなガラクタに取り付くと、そのままそれを蹴った反動を利用して、クラウン目掛けて殴り掛かる。
クラウンは左手の鎖を横に投げてガラクタに引っ掛けると、引く力で素早く避け、それと同時にルルにナイフを投げつける。
飛んできたナイフをルルはガントレットで弾いた。
クラウンは笑う。
「素晴らしい。その素早さ、反応速度。それが獣人の力か。」
無視したルルは、罠の可能性を考えて、目だけで周囲を探る。
よく見れば、周囲のガラクタにはナイフが突き刺さっている物が幾つかあった。
ルルが来るまでに訓練していたとは考えにくい。ともすれば何か策があるのであろう。
今度はルルが仕掛けた。飛び込み殴り掛かる。
先程と同じように鎖を使ってクラウンが回避する。
ルルは風魔法で軌道を変え、すぐさま追撃に入る。
避けきれず殴り飛ばされたクラウンがガラクタに突っ込み、砂煙が舞う。
砂煙の中から3本のナイフが飛ぶが、予測していたルルは難なく跳んで避けた。
砂煙から遅れて飛んだ鎖の鉤爪がガラクタに刺さっていたナイフを引っ掛け、違う方向からルルの着地点に飛ばす。
避けきれず何とか身体をずらしたが、脇腹を掠めて、傷が入る。
「くっ!」
「流石だ。今の攻撃で致命傷を避けるとは。」
砂煙から現れたクラウンは楽しげに言った。
「・・・よく喋る。」
「次の攻撃はどうかな?」
再び、鎖を投げてナイフに引っ掛けた。
そして、右手に持つナイフをルルに向けて投げると同時に引っ掛けたナイフも飛ばした。
二方向からルルへナイフが飛ぶ。
ルルは横へ跳んで避けるが、二本のナイフがぶつかり、一本が軌道を変えてルルの避けた先に飛ぶ。
「・・・跳弾。」
ルルは風魔法で更に移動して、それを躱す。
そこへクラウンが切り掛かった。
ルルが身体を引いて躱した瞬間、肩に痛みを感じた。
後ろから飛んできたナイフが肩に刺さっている。
ルルが跳弾に意識を持っていかれた時、クラウンが切り掛かる前に鎖でナイフを飛ばしていたのだ。
ルルは蹴りを繰り出す。クラウンは後方に跳んで距離を取った。
ルルは肩からナイフを引き抜き、投げ捨てた。
「このままショーを続けるか?」
またもクラウンはふざけた物言いをした。
「仕方ない。こちらも本気を出す。」
「本気?ハッハッハ!それは素晴らしい。本気で戦って頂けるとは光栄だ。」
クラウンは取り出した三本の投げナイフと鎖を使い、四方からルルを狙った。
しかし、ルルは動かなかった。
ナイフがルルに当たる瞬間、ルルの身体の包むように風の球体が現れ、ナイフを弾き飛ばした。
それは一瞬だけ自身を守る風魔法だった。魔物の突進などには効かないが、ナイフ程度なら、タイミング良く使えば無効化出来る。
「ブ、ブリーズシールド!」
クラウンは目を見開き驚いた。しかし、大袈裟なその驚き方には嘘臭さが感じられる。
「ならば、直接やるまでだ!」
クラウンが飛び込み切りかかる。ルルは軽々と躱してクラウンの顔にカウンターを打ち込んだ。
顔を殴られ、吹っ飛んだクラウンだったが、起き上がる時にはニヤリと笑っていた。
対称的にルルは手で顔を押さえている。
近くには日射しから目を守るバイザーが落ちていた。
「こちらもプロなんでね。弱点は事前に調べてあるさ。」
クラウンは初めから切るつもりは無かった。カウンターが入る事を見越して、接触の瞬間に鉤爪をバイザーに引っ掛け、吹き飛ばされる勢いに乗じて、バイザーを引き剥がしていたのだ。
ルルが手を外し、薄く目を開く。
直接、太陽を見なければ問題ないかと思ったが、ここはガラクタの墓場。鉱石や鉄性のガラクタに日光が反射していた。
これが、この場所を選んだ理由・・・
ルルは目を閉じ、耳に意識を集中させた。目に頼らずとも勝機はある。
「残念だが、それも調査済みだよ。」
クラウンは小さな火薬玉を取り出し、ガラクタに投げた。
火薬玉は爆発音とともに破裂し、周囲のガラクタに音が反響する。
ルルが少し顔をしかめた。それを見たクラウンは数本のナイフを取り出し、鉤爪も使って多方向からナイフを飛ばす。
ルルは音を頼りに辛うじてそれを躱した。
「やるな。だが時間の問題だ。」
クラウンは攻撃を繰り返す。
ルルは避け続けるも、反撃に転じるだけ余裕は無かった。
「ははははっ!踊れ!私の舞台で!」
次第に体力も魔力も落ちてきた頃、避けきれなかったルルの太ももにナイフが掠め、ルルは膝をついた。
「どうやらここまでのようだな。喜べ、獣人を殺すのは初めてだ。今日は記念すべき日だ。」
ルルは呟く。
「勿体無いけど、仕方がない。」
「なに?」
ルルはパイルフレイムをガントレットに装着した。
地面に拳を叩きつけるとパイルフレイムが起動し、大きな爆発が起きて周囲が砂煙に包まれる。
「爆発?奴は風使いじゃないのか!どこへ行った!」
ルルは爆風を利用して、上空に跳んでいた。
ルルが目を開ける。
太陽に背を向けている為、直射日光はない。ガラクタの反射光も砂煙で遮られていた。
「視界を隠したところで無駄だ!所詮は時間稼ぎでしかない!砂煙が晴れれば終わりだ!最早、貴様の死のフィナーレは決まっている!」
クラウンは、内心動揺しているの悟られぬようにわざと仰々しく言うと、もう一度火薬玉を投げた。
砂煙の中、再び爆発音が響く。空から見下ろしているルルには当然効果はない。
ルルはその前の発言の時点で、クラウンの位置を完全に把握していた。
「よく喋るから・・・」
ルルは最後のパイルフレイムを装着する。
自身の後ろに風の壁を発生させると、それを蹴ってクラウンに向け高速落下する。
風圧でクラウンの周りの砂煙が晴れた。
見上げたクラウンは驚きながらも、即座に横へ跳んて避けた。
ルルは地面スレスレで風魔法を使い軌道を変え、避けたクラウンの腹に一撃を喰らわす。
「ぐふぅ!」
目を見開き呻いたクラウンに向け、ルルが言った。
「これが貴方の、死のフィナーレ。」
次の瞬間、パイルフレイムが起動し爆発が起きる。
撒き上がった砂煙が晴れた時、そこにはクラウンだったものが転がっていた。
薄目を開けたルルは死体を探る。
見つけた一枚の紙には、ルルを含む殺害対象の名の一覧があった。
紙を畳んでしまったルルは、周囲を探し、お目当ての物を見つけた。
引き剥がされたバイザーだった。バイザーそのものは無事であったが、装着する為の留め具の部分は壊れてしまっていた。
ルルは軽い溜め息をつく。
「調整したばっかりだったのに・・・」
ルルは呟くと、その場を後にした。




