第31話 雷触豹
左右に別れて走り出す二人。
ライラを標的にしたアプールが飛び掛かり、爪で切り裂く。
ライラはトードの死骸を蹴って大きく跳び、躱しながら砂の玉を作って顔に飛ばした。
それを掻い潜るように回避しながら、アプールが噛み付いたが、ライラは跳び箱を跳ぶようにアプールの頭に両手を乗せて回避する。
そのまま空中で剣を抜いたライラが、背中を切りつけようとするも、アプールの後頭部から伸びる触手が足を絡めとり、そのまま地面へと叩き付けた。
「がはぁ!」
衝撃を受けたライラは、咄嗟に剣で触手を切ろうとしたが、ディケンズの必要素材が触手で有る為、一瞬躊躇した。
その隙に触手が再びライラの身体を持ち上げる。
再度叩き付ける前に、飛んできた光弾が腹部で爆発し、アプールが吹き飛ぶ。
その拍子にライラの足から触手が外れた。
追撃で放った光弾をアプールは横っ飛びで回避する。
そこへ走り込んだライラが頭目掛けて切りかかった。
すんでのところでバックステップをしたアプールが、そのまま勢いをつけて噛みつきにかかる。
ライラは後ろ手で作っていた砂の玉を顔面に炸裂させる。
砂が顔に当たり、目潰しされたアプールは後ろに下がり、前脚で顔を払う。
ライラが追撃に走り出すが、アプールの2本の触手が光りだし、自身を守るように周囲に雷撃を放った。
突っ込んでいたライラは避け切れず、足に雷撃を喰らい転がった。
まだ、雷撃を放っているアプールに向け、ディケンズが光弾を放つ。
光弾はアプールを顔を捉え、爆発によってアプールは倒れた。
素早く立ち上がったライラが駆け、アプールを首目掛けて剣を突き立てた。
血が吹き出し、立ち上がろうともがいたアプールだったが、暫くすると、完全に沈黙した。
「大丈夫か?」
近づいてきたディケンズが言う。
「ああ。こういうスピード感のある戦いは嫌いじゃねぇな。」
雷撃を受けた太股を擦りながらライラが言う。
勿論、ダメージはあるが、それほどの脅威ではなかった。
「触手は1本で良いのか?」
「さぁな。とりあえず2本とも持っていく。」
「後は爪と牙あたりか?」
「焦げてないところなら、毛皮もいけるだろうな。」
「なるほど。」
二人は必要なものを剥ぎ取ると、ベルミナ草の採取の為に北へ向かった。
「ぬばぁ~っ!」
気の抜けた叫び声が響く。
「何だよ今の声。」
ライラの言葉にディケンズは、手に持つ植物を見せる。根に顔がある不気味な植物だった。
「マンドラゴラの叫び声だ。」
「そいつがそうなのか?」
「本来はもっと太いけどな。」
砂漠の中では緑が多い場所ではあるが、所詮は砂漠。肥沃な環境ではない故にマンドラゴラも貧相であった。
「本来のこいつは、自分で動いて、生える場所を探すらしい。まぁ、砂漠じゃ行けるところが限定されるんだろうな。」
「だからそんな細いのか?」
「ああ。他の場所じゃあ戦場跡によくいるらしい。」
「戦場跡?」
「一番の好物は血なんだと。」
「ほ~ん。見た目通りでイカれた生きもんだな。」
「良く育ったこいつの声を聞いた奴は最悪死ぬらしいぞ。」
「聞いただけで死ぬ?物騒ってレベルじゃねぇな。」
「ああ。こいつの頭を見てみろ。」
ディケンズは頭ではなく、胴体を握って見せた。
その頭は茶色く、布のようにヒラヒラしている。
「植物には見えねぇな。」
「そうだ。こいつらは戦場跡に埋まって、そこらの死体の血で成長する。そんで死体を漁りにきた奴らが間違えて引き抜くのさ。引き抜いた奴が叫び声で死んで、その血でまた育つって寸法だ。」
「そんな化けもんをエドゥリアは何に使うんだ?」
「さぁな。でも錬金術では結構使うらしいぞ。そっちは採れたのか?」
「依頼数には十分だ。後はハモンドの花か。」
ライラが探そうとするが、ディケンズがそれを止めた。
「恐らく咲いてないだろう。」
ディケンズは辺りを見渡している。
「何でだ?」
ライラも辺りを見渡す。
「蝶がいねぇ。」
「蝶?」
「反鏡蝶だ。花が咲く頃は反鏡蝶が集まると聞いたことがある。」
砂漠には珍しい草花が多い地帯ではあるが、その割りに虫の類いはあまり見当たらなかった。
「確かにいねぇな。咲いてねぇってことか・・・仕方ねぇ、ハモンドには悪いが帰るとするか。」
「だな。」
モウズに乗り、メイリスへ戻る二人。
どこまでも続く砂地を見ながら、ライラが呟いた。
「しかし、代わり映えのしねぇ景色だな。」
「そんな事ないだろ、目に写る全ては、移ろい行くものだ。」
「また小難しい言い回しをして。そーゆーの好きだな、お前は。」
「そもそも砂漠は他の土地より変化がデカい所だろ。」
「どこがだよ。どこ見ても砂と岩しかねぇよ。」
「昼夜の話だ。」
「あぁ。」ライラは何かに納得する。
夜の砂漠は姿を変える。月明かりに照らされた一面の白い砂と静寂。そして何より寒暖の差が激しい。
元々、砂は熱が抜けやすい性質である。灼熱の太陽に晒され続ける日中は熱くなるが、夜になれば熱は抜け、場所によっては極寒と呼べる程に気温が下がる。
「そろそろ夜戦も考えねぇといけねぇな。」ライラが呟いた。
砂漠には夜にしか活動しない魔物や凶暴性が増す魔物も多くいる。
砂漠の頂点を目指す上では避けては通れない道である。
「寒さ対策は必要だな・・・」
「エドゥリアの店なら使えそうなもんがあるかもな。」
「一度相談してみるか。」
「そうだな。」
そうして二人は帰路に着いた。
王都ニグの商業区。
昼時の為か、建ち並ぶ店の前には多くの人々が買い物に勤しんでいる。
そんな雑踏の中、一人の男が果物を見ている。
赤い長髪。右目の下から顎に掛けて、まるで涙が流れたかのような一筋の傷が入っている。
通称クラウン。コズムンド・デル・エルサスの殺し屋である。
クラウンは果物を一つ買い、店を出て少し進むと、開けた場所の壁にもたれ掛かり、果物の表面をズボンで軽く擦るとそのまま齧りついた。
ポケットから出した紙を見ながら、果物を食べる。
紙には標的であるルルとブロウの情報が書いてあった。
クラウンは主にナイフを使い、素早い動きで仕留めるタイプである。
相性で言えば、ブロウの方が良いであろう。
しかし、興味はルルの方にある。
クラウンは獣人を標的にしたことは無かった。ラビリタス。黒兎動乱と言う古い事件で、一部の者たちから危険視される種族。果たしてどれ程の実力か。
クラウンはニヤリと笑い、芯だけになった果物を投げ捨てた。
腕を組んで、流れ過ぎて行く人々を見てると、人の群れの中に頭一つ抜ける長い耳を見つけた。
クラウンは殺気を隠して、ただの住民を装いながらルルを凝視した。
獣人である以上、物珍しく見ていても怪しまれることは無い。
長く線の細い身体。体重は軽そうだ。脚力は人間よりは高いだろう。
資料には風の魔法を使うと書かれていた。
クラウンは服の中に幾つか仕込んであるナイフを一つを触りながら、ルルとの戦いをシミュレーションする。
視界からルルが完全に消えたのを確認すると壁から離れ、ゆっくりと後をつけ始めた。




