第30話 流転を纏いし砂銃 サルテンドトード
「見られてるか?」
「多分な。」
岩に隠れながら、二人は会話する。
攻撃が来ない事を考えると音には敏感ではないようだった。
「まずは弾を吐き出して貰わねぇとな。」
言ってライラが砂の玉を作り、遠くへ飛ばす。
次の瞬間、砂からヌボっと頭を出したカエルは、その頬を大きく膨らませ、口をすぼめると砂の礫を銃弾のように連射し、ライラの投げた玉を破壊する。
サルテンドトード。通称鉄砲ガエル。
普段は砂中に身を潜め、その大きな口と前肢で流砂を作り出し、獲物を丸呑みにする。
その際に一緒に呑み込んだ砂を自身の特殊な唾液と合わせて硬い礫に変えて撃ち出す。
意図的に人間を襲うことは少ないものの、過去に行商人の一行を全員呑み込んだ事から危険度はBになっている。
ライラは口を閉じたタイミングを見て、トードに近い岩の陰に向け、走り出す。
ライラを追うように、再度、礫が発射される。
ライラは体勢を低く保ちながらこれを躱し、岩の遮蔽へ身を滑り込ませた。
「撃ち尽くしたか!?」
「分からん!」
ライラの隠れている岩に礫が当たる。
「くそ!まだか。」
一点に連続して礫が当たることで、岩が少しずつひび割れだした。
「まずいな。」
ライラに意識が向いてるうちにディケンズが光弾を放つ。
しかし、即座に反応して振り向いたトードが発射する礫が当たり、爆発が起きる。
爆風の中、今度はディケンズの隠れる岩へ礫が注がれる。
「ちいっ!反応速度が早い。」
連射が途切れたのを確認すると、ライラは走り出し、トードの顔に切りかかる。
トードは砂の中から全身をせり出させ、衝撃でライラを飛ばした。
「うおっ!」
受け身を取ったライラが再度、刃を向ける。
脇腹に傷が入るが、トードはそのまま真上に跳躍する。
「ライラ!逃げろ!」
ライラは上を見ながら、がむしゃらに走り、大きく跳んだ。
爆音と共にトードが着地し、周囲に衝撃と砂煙が舞う。
砂煙が晴れるとトードの姿は無かった。
「潜りやがったか・・・」
「岩の上に乗れ!」
再び、流砂が来ることを踏んで、二人は少し大きめの岩の上に乗った。
「こっちが光弾を撃ってから相殺してきやがった。」
「空気の振動を感じ取ってやがるのか?」
「それもあるが、あのギョロ目だろうな。視野角が広いんだ。」
「目潰しは効かねぇ、直接デザイルで狙うか。」
「いや、まずは口の中を狙う。」
言うとディケンズは、ソールオングルを構えて、流砂を起こすのを待った。
地面が少し揺れる。
「来るぞ!」ライラが叫ぶ。
しかし、流砂ではなく、代わりに二人の乗っていた岩がグラりと揺れる。
「しまった!」
地面の下から大きく押された岩が跳ね、二人は投げ出される。
そしてすぐに、二人が落ちた先で流砂が現れた。
二人は必死に抜け出そうと走るが、流れる砂に足を取られて、思うようにいかなかった。
「ライラ!潜れるか!」
「無理だ!これじゃあ潜っても流される!」
ディケンズは渦の中心に向けて、ソールオングルを構えようとするも、流れる砂にバランスが保てなかった。
「くそ!駄目だ。」
円を描くようにジリジリと中心の口へと近づいていく。
「何かねぇのか、何か!」
「何かって何だよ!」
二人は身に付けてる物を手当たり次第探す。
諦めたライラが剣を握りしめる。
「いっそのこと、捨て身で突っ込むか。」
「ダメージを与えても、呑まれたら終わりだぞ。」
言いながら、袋を探ったディケンズの手に何か硬い物が当たる。
それは透明な液体の入った小瓶だった。
一瞬、怪訝な顔をしたが、思い出したディケンズは蓋を外し、トードの口に投げつけた。
「どうとでもなりやがれっ!」
トードの口に液体がかかった瞬間、液体が発火し、口に炎が広がる。
呻き声を上げ、悶えたトードは砂の中へ消えていく。
流砂は消え、辺りは沈黙に包まれた。
「何とか助かったな・・・一体何投げたんだ?」
「ネベルダットの火炎液だ、前に狩った時に拝借したのがあったろ。」
「あのパチもんの黄金鳥の時か?」
「いや、毒草の時のだ。」
「あぁ・・・よくもそんな前のが割れずに残ってたな。」
「全くだ、ツイてたよ。」
「んで、奴さんくたばったか?」
「いや、ダメージは与えたはずだが、流石に死んではねぇだろうな。」
二人は再度岩に乗る。今度は大きめの岩に別々に乗った。
周囲を警戒していると、前方の砂がボコっと沈んだ。
次の瞬間、砂が盛り上がり弾けると、現れたトードの巨体が宙に跳ぶ。
その跳躍力は凄まじく、砂の中から跳んだはずが、6~7m上空に達している。
トードは頬を大きく膨らませ、空中から礫を連射する。上からの砲撃に対して、遮蔽物は意味を為さなかった。
「悪りぃ!ディケンズ!」
ライラが砂に飛び込む。
「あっ!おい!ズルいぞ!」
叫びながらディケンズが走り出した。
蛇行しながら回避していたが、何発かの礫を喰らった。
「ぐっ!」
ディケンズは痛みに耐えながらも走り続けた。
数秒間、宙で停滞していたトードが下降し始めた時、ライラが砂から出る。そこには先程、遮蔽物にしていた小さな岩があった。
礫が当たっていた箇所に穴が空いていた。
ライラはそこへデザイルを突き刺し、上を見た。
トードは真上に来ている。
ライラは意識を集中させ、まるで何かを鷲掴みにするように両手を曲げ、渾身の力で魔力を込める。
するとデザイルを中心に岩の周りに砂が集まりだした。
ライラはトードの落下のタイミングに合わせて、振り上げる様に手を翳す。
「喰らいやがれぇ!」
デザイルと砂に引かれるように小さな岩ごと動きだし、巨大なハンマーの如く、岩が振り上げられた。
落下するトードの顔面を捉え、衝撃でトードの顔が歪んで、落下と共にその場にダウンする。
「はぁ、はぁ、ディケンズ。今だ!」
魔力を使い、疲れ果てたライラが息を切らしながら、叫んだ。
痛みと疲れで座り込みながら、ディケンズがソールオングルを構える。
「礫の借りは返させてもらうぞ。」
発射された最大出力の光弾はトードの眉間を貫き、爆発と共に頭を弾け飛ばした。
肉片が周囲に飛び散る。ライラの近くに大きなギョロ目が落ちた。
「うぇ、気持ち悪りぃな。」
言いながらも、動く気力は無く、ライラはその場に大の字に寝転んだ。
ディケンズもまた、ソールオングルを投げ出し、寝転んだ。
「大丈夫かぁ?」
「何とかな。」
二人は空を見上げたまま、会話を続ける。
「アプールはどうするよ?」
「戻ってまた来るのは流石に面倒だ、このまま行こう。アプールがいなくても、依頼だけこなさないとな。 」
「了解。」
「だが、ちょっと休憩だ。」
「だな。」
空にはヴァルチャーが集まりだしている。
「こいつの剥ぎ取りはいいか・・・」
「肉も御免だな。」
売れるような部位は爆発で駄目になっていた。
暫く休んだ後、ライラが身体を起こす。
「そろそろ行くか。」
ディケンズが起き上がろうとした時、獣の威嚇音が聞こえた。
二人は動きを止め、音のなる方を確認する。
トードの死骸に群がるヴァルチャーを追い払うように一頭の獣が飛び掛かっていた。
アプールレオパードだった。
砂色の体毛を持つ、豹の様な出で立ち。鋭い爪と牙の他に、最大の特徴である後頭部から伸びる2本の黄色い触手がある。
二人は素早く岩の陰に隠れた。
「向こうから来てくれるのは有り難いが、連戦は厳しいな。」
「もうちょっと休ませて欲しかったな。」
ヴァルチャーを追い払ったアプールがトードに喰らい付き、肉を貪る。
「そいつは後何発撃てる?」
「高出力なら2~3発、普通のなら5~6発ってとこだな。」
確認する時にソールオングルが岩に当たり、音が鳴った。
それに反応し、アプールが顔を上げた。
「おっと。」
「もうどうにもならねぇな。」
二人は岩から飛び出し、アプールと対峙する。
アプールは咥えた肉を吐き捨て、咆哮を上げた。




