第29話 砂の羅針盤
「うおっ!震えた!それに光ってるぞ!」
ディケンズは懐中時計のような物を握りながら驚く。
「な?すげぇだろ。」
ライラが砂の玉を作りながら言った。
「そんで、その時計の針みたいなのが向いてる方にいるって寸法らしいぞ。」
デザーク結晶に浮かぶ針がライラの方を示す。
訓練所に来ていた二人はエドゥリアの作った探知機を試していた。
「しかし、錬金術ってのはとんでもねぇな。」
ディケンズがライラに探知機を投げる。
「間違いねぇ。」
受け取ったライラが服の金具に引っ掛けて、胸にしまう。
「こうやって着けてれば、振動で気付くって訳だ。しかも有難いことに着用者の魔法には反応しねぇんだとよ。」
「便利なもんだな。」
「砂の羅針盤って言うんだとさ。」
「砂の羅針盤?随分と洒落た名前だな。」
「自分で発明したもんは、好きにつけれるらしい。」
「エドゥリアのセンスって事か。」
「ああ。」
「そんで?お前の言ってた鎖みたいなのは出来たのか?」
「いや、まだだ。やっぱり、普通の鎖じゃ無理らしくてな、特殊な鎖を作るために素材を頼まれたよ。」
「何がいるんだ?」
「アプールレオパードの触手だ。」
「取りに行くか?」
「依頼があるならいいが、わざわざ取りに行く程でもないな。」
「んじゃ、後でエリーのとこに行ってみるか。」
「まぁ、そう都合良くはいかねぇよな。」
依頼書を見たライラが呟く。
「どうぞ!こないだのグラシスニードです。」
本日のハーブティを受け取ったディケンズは香りを嗅ぎ、一口飲んだ。
「旨いな。」
「そぉ~なんですよ!美味しいですよね。これ。」
エリーザは嬉しそうに自分用の物を用意し始める。
「アプールレオパードってっと、イルミドールの西の辺りか?」
オアシスほどでは無いが、草花の多い場所である。
「そこらが縄張りだな。」
「そうなるとべルミナ草の種の納品ってやつくらいか。」
「良いんじゃないか?アプールレオパードが本命なら、依頼自体は軽いもんがいいだろ。」
「だな。」
依頼書を見終えたライラがハーブティーを一口飲む。
その姿をエリーザがジッと見つめた。
「な、何だよ?」
「・・・」
「感想待ちだろ。」ディケンズが言った。
「エリー、お前な。店側が客に味の感想を強要するもんじゃねぇよ。」
「だって気になるじゃないですか。」
「だからって、そんな風に見られたら、不味くても不味いって言いづらいだろ。」
「美味しくないんですか?」エリーザは悲しそうな顔で尋ねる。
「いや、普通に旨いけど。」
「ですよねぇ~!」一転、笑顔になり、自分のハーブティーを飲み始める。
「ったく。」
「あの辺りに行くなら、マンドラゴラも採るか。」ディケンズが話を戻す。
「そんな依頼あったか?」
「いや、エドゥリアが欲しがってたんだ。いつも世話になってるからな、ついでだ。」
「なるほど。んじゃ準備してさっさと行くか。」
二人は一度部屋に戻り、メイリスを出た。
メイリスを出て、北へ進んでいく。
採掘場が近い事もあり、この周辺は小さめの岩が幾つも見られる岩石地帯になっている。このまま進めば、アプールレオパードの縄張りがある緑のある地帯があり、更に進めば、砂漠北東の町イルミドールに辿り着く。
「お!」
ライラが何かを見つけた。
「精が出るねぇ。」
ライラの視線の先では、ルッソとハモンドがガベットシェルテというペンギンのような魔物の群れと戦っていた。
体長は100cm程で、体型はペンギンに近いが、羽毛ではなく甲殻になっており、前肢に鉤爪のような物がついている。大きさから危険度は低いが、群れを採掘場に近づけさせない為の依頼であろう。
砂から飛び出した一体の攻撃をルッソが盾で往なして転倒させ、剣で止めを刺す。
その時、ライラと目が合った。
「人の依頼を横取りするんじゃねぇぞ!」
「しねぇよ。ただの見物さ。気にすんな。」
隣で別の一体を斧で始末したハモンドが言った。
「見物とは、随分と暇そうだな。」
「俺達の目的はもうちょい北だからな。今はまだ暇さ。」
砂の上を腹這いで滑るガベットシェルテを引き付け、小さな岩ギリギリで跳んで躱すと、そのまま激突し怯んだところを斧で止めを刺した。
慣れているのか、ライラたちと話しながらも淡々と群れを制圧していく。
残り数体になるとガベットシェルテたちは後退し、一体の鳴き声を皮切りに撤退していく。
「これでとりあえずは大丈夫そうだな。」
額の汗を拭いながらハモンドが一息つく。
ルッソが剥ぎ取りだしたところで、ライラとディケンズがやって来る。
「ちょっと肉貰っていいか?」
「ああ、肉くらいならいいぞ。全部は持って帰れないし。」ルッソが鉤爪を剥ぎながら言う。
許可を得たライラは昼飯用の肉を剥ぎ取っていく。
「お前らはどこ行くんだ?」
ハモンドが尋ねる。
「アプールレオパードを狩りにな。」
「アプールレオパード?そんな依頼、今朝は無かった気がするが。」
「依頼としてはベルミナ草だな。アプールはついでだ。」
「そう言うことか・・・あの辺りまで行くならネームパトラが咲いてたら取ってきてくれねぇか?」
「肉の礼に取ってくるくらい構わねぇが、花なんか何に使うんだ?」
綺麗な花ではあるが、特に用途はなく、依頼も無かった。
「なに、もうすぐカミさんの誕生日だからな。」
ハモンドがちょっと照れ臭そうに言った。
「なるほど。マメな男だねぇ。」
「よろしく頼む。」
「ほいよ。」
肉を剥ぎながら、暫く会話をしてルッソたちと別れようとした時、ガベットシェルテの鳴き声が聴こえてきた。
「あ?」
全員がそちらを見る。
そこには先程逃げていったガベットシェルテが、再びこちらに向かってくる姿があった。
「もう戻って来たのか?」
「いくら何でも早すぎるだろ。」
「どういうこった?」
ガベットシェルテたちは慌てるように砂の上を滑ってくる。
次の瞬間、地面が揺れる。
砂がズルズルと流れだし、大きな流砂が形成されていく。
「危ねぇ!離れろ!」
足を取られたハモンドの腕をルッソが掴み、引き上げる。
「済まねぇ。」
四人は素早く避難し、流砂から距離を置く。
渦巻く砂の中へガベットシェルテが回りながら吸い込まれていく。
渦の中心には歯の無い口が大きく開いていた。
「鉄砲ガエルか!」ライラはモウズを離れさせ、剣を抜く。
同じくソールオングルを準備するディケンズを見て、ハモンドが訊く。
「お前ら、戦うのか?」
「ああ、奴も一応ランクBだからな。俺たち二人でやるから、お前らは逃げな。」
「気を付けろよ。」
「ああ、他のランクBに比べりゃあ楽な方だ。だろ?」
ディケンズがライラに話を振った。
「硬い甲殻を持ってねぇだけでも、気が楽だな。」
「そういう事だ。後は任せな。」
「じゃあ、済まねぇが、俺たちは行くぜ。」
ルッソとハモンドが去った後、二人は流砂が収まるのを待っていた。
ガベットシェルテが砂と共に口の中へ吸い込まれていく。
それを見ていたライラが言った?
「あれ、今撃ち込んだら良いんじゃねぇか?」
「確かに。やってみるか。」
そう言ってディケンズは流砂の中心目掛けて、光弾を放った。
次の瞬間、大気の振動を感じ取ったのか、口が閉じられ砂の中に消える。
砂に着弾し、爆発と共に砂が巻き上がった。
「惜しかったな。」
「ああ、完全にバレたから、本格的に来るぞ。」
「まずは隠れるか。」
それぞれが岩に身を隠した時、砂の上にワニのように眼だけがせり上がった。




