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砂上の狩人  作者: eight
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第25話 望まれぬ休息

ライラは自室の窓から外を眺めていた。

少し砂埃を纏ったぬるい風が吹いている。まだ死臭は感じられない。


「・・・暇だ。」


ルクディロスを倒し、ギルドへ報告を上げた数日後、不浄王の接近により王都ニグ及びメイリスの住人に外出禁止令が出された。

それから一週間の時が過ぎた。

国の出している情報に寄れば、不浄王の縄張り移動は、早ければ一週間、遅いと一ヶ月と言われている。


保存食にしてある干し肉を齧りながら、酒場の前の広場を見下ろした。

そこにはエリーがいた。昼間の店は閉めている。夜も申し訳程度でしか開いていない。

王都への出稼ぎや賞金稼ぎで生計を立てる者が多いメイリスの住人にとって、外出禁止は致命傷である。

勿論、定期的に訪れる事であるため、住人達は備蓄をしているが、それでも財布の紐は硬くなる。

店を開いていても、客はほとんどやって来ないのだ。


エリーの目の前ではポッポリーが脚で器用に筆を持ち、紙に絵を描いている。

前掛けの中にあるポケットから様々の色のクレヨンを取り出し、四足歩行の生き物と何か良く分からない紫色の怪物を描いていた。

それをエリーは微笑ましく見ている。


不浄王がニグに接近した場合。ニグの観測隊によって確認が出来る為、ポッポリーは一時的にお役御免になる。

住人達と違い、唯一自由の遊び回れる時間となる。

「これはモウズなの!」

「あはは、上手に描けてるね。こっちは?」

「これはディッケンなの。」

「本当だ!似てるね。」


ライラの目からは似ているようには見えなかったが、ライラは特に何も言わず、死んだ目で再び遠くを見て、溜め息をついた。


「・・・暇だ。」



夜になり、酒場へ行く。

がらんどうとした室内ではディケンズ、ハモンド、店主のドイルを含めた数名がカウンターで酒盛りしていた。

客と言うわけではない。今日の成果を皆で楽しんでいるのだ。

「おう。ライラ。お前も食うか?」

気付いたディケンズが声を掛ける。

「余りそうなら貰うよ。」

「今日は大漁だったからな。充分余るぜ!」ドイルが嬉しそうに言った。

カウンターの上には焼いた魚がいくつも並んでいた。


暇な時間を潰すのと同時に食料も確保できる。不浄王の接近に合わせて釣りをする者は多い。

港のあるニグと違い、メイリスは町中が海に面することはない。外出は禁止であるが、海は砂漠の反対側である為、憲兵たちも内々で見逃している。と言うよりは憲兵の中にも釣りに参加している者もいる。


「明日も行くのか?」魚をつまみに酒を飲みながら、ライラが訊く。

「そうだな。他にやることもないし・・・」

「ライラも行くか?」ハモンドが尋ねる。

「いや、アタシはパスだ。じっと待つのは堪えられん。」

「まぁ、お前の性格ならそうだろな。」

「砂魔法の訓練でもしてみたらどうだ?」

今度はディケンズが提案する。

「砂魔法の?」

「前に言ってたろ?まぁ、訓練で強くなるもんかは分からんが・・・」

「あぁ、そんな話してたな。魔法研究所行く暇もなかったしな。暇だしやってみるか・・・」



翌日、ライラは訓練所に来ていた。

身体が鈍らないように訓練を行う狩人は多いが、外出禁止がいつ終わるか分からない以上、毎日来る者はいない。今日はたまたまライラ一人であった。

訓練所は普通の地面であるが、一部の場所だけ砂地になっている。本来は砂漠で砂に足を取られないように訓練する為のものだが、ほぼライラ専用の状態になっている。


ライラは手を翳して、魔力を込める。

すると拳大の砂の玉が形成される。更に集中すると玉は徐々に大きくなり、人の顔ほどのサイズになった。

壁の土嚢に向けて砂の玉を飛ばす。土嚢に当たってバサッと弾けた。


「う~ん。」

ライラは納得がいかず、もう数発放つ。しかし、どれも同じように弾けた。

必要なのは大きさではなく、強度だった。今のままでは、多少大きくても目潰しか陽動にしかならない。何とか攻撃に転用出来ないものかと考えあぐねる。


今度はデザイルを取り出す。デザイルの周りに砂を纏わりつかせ、円錐形の棘を作り出す。

同様に砂で作った数個の棘を作る。

数個の棘を同時に飛ばし、一つだけナイフが入っている。凍幻鳥の攻撃に着想を得て、考えたものだ。

だが、土嚢に当たったデザイルは刺さること無く地面に落ちた。

ライラの力では、同時に飛ばすとそこまでの速度は出なかった。その上、砂を纏わせているからほぼ勢いは殺されている。最早、普通にデザイルを投げた方が威力が出るまである。


次にライラは砂を玉ではなく、そのまま地面から盛り上がるように競り上げる。

膝くらいの高さの砂の山が出来た。更に力を込めるが、それ以上は高くならない。

「低いな・・・」

薄い壁状にすれば高さは出る。投擲系の攻撃であれば盾代わりにならなくもないが、突進などにはほぼ意味をなさない。しゃがめば身を隠すの遮蔽物にならなくもないが、今のままでは特に使い道はなかった。

ふと思いつき、ライラはその山に飛び乗ってみた。

しかし、乗った瞬間、普通に崩れてしまう。

「踏み台にも出来ねぇか。」


ライラは色々と試すが、どれも上手くいかなかった。

ライラは自分以外に砂魔法を使う者を知らない。魔物で使う奴を数匹見た程度だ。

教えを請う相手も参考する相手もいない。全て模索から始めなければならなかった。

「どーしたもんか。」誰に言うでもなく呟いた時、ひとつ思い付き、空を見上げた。


「お~い!見てっか?ちょっと聞きてぇことがあるんだが!」

ライラは空に叫んだが、特に何の反応もなかった。

「何だ、いねぇのか。使えない神様だな。」

次の瞬間、後ろから杖で頭を殴られる。

「痛っ!」

「私を何だと思っている。」

背後には土地神ルーゼスが立っていた。

「殴るこたぁねぇだろ。」頭を擦りながらライラが言う。

「それで。何の用だ?」

「砂魔法を強くする方法とか知らねぇか?」

「外魔法は鍛練だけでは、そこまで強くはならん。」

「分かってるよ。だから訊いてんだ。」

「一つは精神力を高めることだ。」

「精神力?」

「そうだ。技量や経験よりも対象物、つまりお前なら砂だな。砂を如何に自分の精神に取り込むかが重要になってくる。」

「砂を精神に取り込む?意味分かんねぇよ。」

「まぁ、感覚的なものだからな。言葉では難しい。」

「ほ~ん。でもそれって鍛練じゃねぇのか?」

「それも一つではあるが、日常的に砂を感じることが重要だな。まぁ、砂漠で戦い続ければ、多少は力をつけていくだろう。」

「なるほど。兎に角、今すぐパッと強くはなれねぇってことか・・・」

「もう一つは、同じ外魔法を使う者の心臓を喰らうことだ。」

「心臓?」ライラは顔をしかめる。

「そうだ。外魔法は生まれもった力、故にその力が最も強いのは心臓だ。それを喰らうことで、力を取り込むことが出来る。」

「心臓って生で喰うのか?」

「そうだ。」

「ウェ!マジかよ。」

「魔法自体、人間だけのものではない。野生の魔物たちが調理などするわけなかろう。人間の物差しで物事を考えるでない。」

「まぁ、そうだけどよ。生かぁ・・・因みにどの魔物が砂魔法を使うんだ?」

「種として固有で使える者もいるが、基本的には定まっておらん。個々で決まるものだ。人間とて全てが魔法を使える訳ではなかろう。」

「まぁそうか。」

「固有使える種であれば、デザートドラゴン、パルドランダ。地上にはいないが、マドュルーサ辺りだろうな。」

「デザートドラゴンはランクAだから論外だな。パルドランダはBだっけか。」

ライラは腕を組んで、厳しいなと呟いた。


「個々で決まるってことは、その辺のギルニアウルフとかが使える可能性もあるのか?」

「勿論あるが、知能の低い魔物であれば、自身が使えることを知らぬ者もいるだろうな。」

「端から見極めるの難しいって事か・・・」


ルーゼスが落ちているナイフを見た。

「それであれば、或いは共鳴するかもしれんな。」

「デザイルか?」

「ああ、お前が魔法を使っていない状態で反応を示せば、近くに使う者がいる可能性があるだろうな。」

「なるほど。」


「では私は行くぞ。」

「おう。暇してるとこ、済まねぇな。」

ルーゼスはライラの皮肉に特に反応することもなく、つむじ風と共に消えていった。


残されたライラはデザイルを見つめる。

「何かそれっぽい道具をエドゥリアに頼んでみるか・・・」



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