第24話 砂漠に轟く剛砲 ルクディロス
ミゼットはモウズを降りると、近くの高い遺跡の残骸の上に乗って、二人の戦いを観戦するかのように胡座をかいた。隣には彼女の得物である竜の爪を模した大きな鎚が置かれている。
「ホントにいるのか?」
二人は注意深く進んだ。
「あそこだ。」
ディケンズが指差す先にルクディロスはいた。
遺跡で使われる岩には特殊な力があるのか、砂漠でありながら随所に苔が繁っている。
ルクディロスはその苔をゆっくりと毟り食べていた。
サイを一回り大きくしたような風貌。その灰色の甲殻は鎧のように分厚く硬い。
鼻先の角は太く、そこが雷撃を放つ砲身である。
鈍重そうに見えるがそれなりに早く、その重さと硬い身体から繰り出される体当たりには注意が必要だ。
「先手必勝だ。」
ディケンズがソールオングルを構えて頭を狙う。
「卑怯だな。」
「うるせぇ。」
放たれた光弾の発射音で、気付いたルクディロスは避けられないと踏んで、こちらに背を向ける。
左の臀部に当たり爆発が起きるも、その頑丈な甲殻に傷は入らなかった。
「くそっ!予想はしてたが、最大出力でも歯が立たんか。」
既に駆け出していたライラが剣をデザイルごと、足元に放り投げる。
「早速試すか!」
敢えて注意を引くように、ルクディロスの周りを走りながら、デザイルに向け、魔力を込める。
ライラに狙いをつけようしているルクディロスの足元を剣が滑るように進むが、足元の毛が切れているようには見えなかった。
「ありゃ?やっぱダメか。」
ライラがデザイルを手元に引き寄せようとするよりも早く、ルクディロスの突進が来た。
「おわっとっ!」
ライラが横に大きく跳ぶと、横を巨体が突き抜けていく。
ルクディロスがゆっくりと振り向き、再び狙いをつける。
走り出そうとした瞬間、ディケンズの放った光弾が頭に当たり爆発する。
「ナイス!」
しかし、煙の中からそのままルクディロスが飛び出してきた。
ライラは咄嗟に遺跡の残骸に飛び付き、蹴ってその場から大きく逃げる。
ルクディロスの突進は遺跡の残骸を砕き飛ばした。
「頭は柔らかいんじゃねぇのか!」
ライラはディケンズに抗議するように叫ぶ。
「最大出力じゃあ弾が小さくなる!的確に狙えねぇから出力を下げたんだ!」
「弱い威力じゃ頭でもダメってことかよ。」
再度突進を躱したライラは、ディケンズに叫ぶ。
「出力を戻せ!真正面に誘導する!」
「分かった!」
ライラはディケンズが構えるの確認すると、ルクディロスが直線になるように誘導し、ディケンズに向かい走り出す。
本来なら合図を出すべきだが、ルクディロスの速さから、その余裕は無く、ライラはディケンズを信じて任意のタイミングで砂の中へと潜る。
それを確認すると同時にディケンズが光弾を放った。
ルクディロスの頭目掛けて真正面から光弾が飛んでいくが、ルクディロスは突進しながら角で転がっていた瓦礫を飛ばして光弾に当てた。
「まずい!」
ディケンズはすぐに態勢を整え、横に跳ぶが、爆風の中から現れたルクディロスの身体が掠め、弾き飛ばされる。
「ぐはぁ!」
砂からライラが出る。
「ディケンズ!大丈夫か?」
「ああ、何とかな。」
立ち上がったディケンズは残骸の裏に身を隠した。
咄嗟にソールオングルを投げ捨てたので、腰から斧を抜く。
ライラもまた、別の残骸の裏に隠れた。
二人の様子を見ていたミゼットは、楽しそうに笑い呟いた。
「フッ!大丈夫か?まだアイツは雷撃も出してねぇぞ。」
二人を見失ったルクディロスが踏ん張る。
バチバチと音を立て、角が黄色く光りだした。
ルクディロスの射程に入る位置にある遺跡の残骸は5つ。内2つには二人が隠れている。
轟音と共に角の先から電気を纏った閃光が放たれ、二人の間にあった遺跡の残骸が粉々に吹き飛んだ。
「マジかよ。」
驚く二人を尻目に、再度、力を溜めだす。
「連発出来んのか!」
「蓄積された分はいけるんだろ!」
「こっちに引き付けるから接近しろ!」
ライラはディケンズに叫ぶと、敢えて残骸から顔を出し、視認させる。
狙いをライラが隠れる残骸に向けさせた時点で砂の中へと逃げる。
地上で閃光が走り、砂の中でも衝撃を感じた。
同時にディケンズが駆け出し、頭を一撃を放つも、頭をずらして角の受け止める。
そのまま力で押し切られ、態勢を崩したディケンズに向け、近距離で雷撃を放とうとする。
砂から飛び出したライラが砂の玉を投げつける。
顔に当たり目潰しになったことで、軌道がずれ、ディケンズの真横を雷撃が走っていった。
ディケンズは素早く距離を取ったが、雷撃の抜けた右腕に若干の痺れを感じる。
「くそ!」
「どうした?」
「この身体じゃ、接近戦は厳しい。ソールオングルで応戦する。」
「分かった!アタシが張り付くから、死角から狙え!走られるとまた電気を貯めちまう。」
「やってみる。こいつを使え!」
そう言ってディケンズは斧を投げた。
「両手なら使えるだろ、お前の剣より威力が出るはずだ。」
ライラは斧を受けとる。普段ディケンズは片手で扱うが、ライラには厳しい重さだった。ただ、ルクディロスの甲殻の硬さを考えれば、それが最善策である。
「やってみるか。速度が落ちるのが気に入らねぇが。」
ライラはルクディロスの背後に回り、振り向く前に両手で一撃を放つ。
分厚い甲殻に弾かれるも小さな傷が入った。だが、表面にある小さな傷が一つ増えただけに過ぎなかった。
「くそ!両手だぞ!」
自分の非力に悪態を付きながらも、もう一撃入れようと振りかぶる。
次の瞬間、ルクディロスが後脚を後ろに大きく蹴りあげた。咄嗟に斧を防ぐが、そのまま後方に吹き飛ぶ。
ルクディロスが脚を地面に着くと、少し振動し、砂が埋没するのが見えた。その重量から繰り出される一撃をまともに貰えば、只では済まないのは明白だ。
その重さを見たライラは何かを思い付いた。
「ディケンズ!ケツを狙え!」
そう言ってディケンズと挟み撃ちになるように回り込む。
ルクディロスはライラの方を向き、突進を構えて脚を踏み鳴らした。
次の瞬間、臀部で爆発が起きる。
見た目ではそれほど分からないが、怯んだ反応からそれなりのダメージが伺える。
ほぼ同時にライラは駆け出し、ルクディロスの額目掛けて斧を振り下ろす。
今度は確かな傷が入り、血が吹き出した。
ルクディロスは雄叫び上げ、頭を振り上げ、角でライラを吹っ飛ばし、ライラは高い遺跡の残骸に叩き付けられた。
だが、ライラはすぐさま立ち上がり、残骸の上に登る。
ルクディロスは振り返り、ディケンズに狙いをつけると突進を繰り出す。
ディケンズは横に大きく跳び、転がるようにこれを躱す。
追撃に出るかと思いきや、ルクディロスはライラに標的を変え、残骸に向かい突進する。
「そうだ!来やがれデカブツ!」
ライラは挑発するが、ルクディロスは途中で突進を止めると角をライラの方へ向ける。
角が黄色く光り出した。
「ちょ!バカ!突進しろよ!」ライラは慌てて、ルクディロスに向け、高く跳んだ。
「おい!何でそっちに跳ぶんだ!」ディケンズが叫ぶ。
雷撃でライラのいた場所が破壊される。
ルクディロスは再度電気を貯め、跳んでくるライラに角を向ける。
「避けられん!斧で防げ!」ディケンズが再度叫んだ。
残骸の上から見ていたミゼットは、ルクディロスの足元にある物を見つけて呟いた。
「なるほど、ただの馬鹿じゃないようだな。」
ライラは空中で角が光り始めたのを確認すると、魔力を込めた。
ルクディロスの足元に移動させていたデザイルと結んであった直剣が、前脚の周りを旋回するように動く。
それは辺りの砂を動かし、まるで流砂のように脆くした。
ルクディロスの重さに耐えきれず、前脚が砂に沈んだことにより、頭が下にずれて軌道が変わり、雷撃がライラの真下を通過していく。
「喰らいやがれぇ!!」
落下の力と自身の体重をかけて、ルクディロスの頭目掛け、斧を振り下ろす。
鈍い音と共に斧が頭に突き刺さり、ルクディロスの動きが止まる。
脳天を直撃されたルクディロスは、そのままゆっくりと横に倒れて沈黙した。
「大丈夫か?」近づいてきたディケンズが尋ねた。
「ああ。ちょい足が痺れてるけどな。」
ディケンズはふぅーと息を付く。
「終わったな。」
「ああ、終わったな。」
「随分と面白いもんを見させて貰った。」
降りてきたミゼットが言う。
「今、感慨深いところなんだから邪魔すんなよ。」
「その気はない。入った邪魔はあたしが始末してやる。お前達は剝ぎ取っとけ。」
そう言う目線の先には、近くに隠れていたのか、数頭の狼が見えた。
「そいつは助かる。」
ミゼットは跳躍すると狼の群れの真ん中に跳びこみ、その鎚を思い切り地面に叩き付ける。
衝撃で周りの地面がぶわっと浮き上がり、狼たちが宙に浮く。
ミゼットは素早く動き、一頭の首を掴むと地面に叩き付け、他の狼も同様に投げ飛ばし、全ての狼を一か所にまとめると、高く跳躍し、そこへ鎚を思い切り叩きこむ。
さっきまで群れであった狼は一瞬で一個の大きな肉塊へと変わった。
「相変わらずのバケモンだな・・・」
ディケンズが剥ぎ取りながら溢した。
「気に入らねぇが、実力は認めざるえねぇな。」
二人はルクディロスの素材をいくつか剥ぎ取り、ミゼットに別れを告げると帰路に着いた。




