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砂上の狩人  作者: eight
23/54

第23話 ヨーズリーの悪魔

三日後。準備を整えた二人は砂漠の北西へ向かった。

砂漠を横断するのは危険な為、ニグを抜けて砂漠の外周の街道を進んでいった。


そうして訪れた北西の町「ヨーズリー」

北に位置する国境の町「ベールズ」を越えて、王都に向かおうとすると二番目に訪れることになる町である。

然程大きな町ではないが、ギルニアの中では緑が多い。そして最大の特徴は、どこの町にもいるはずの憲兵の姿がない事だ。

町に入った二人を見た一人の男が、酒場に入っていく。

暫くすると一人の女が現れた。

「あたしのシマに足を踏み入れた奴がいるって言うから来てみたら、砂女とトカゲ野郎か。」

「ミゼット。ちょっと邪魔させてもらうぞ。」


ミゼット・グラニス。

ヨーズリーの狩人で、町の狩人たちを力で捩じ伏せて、憲兵すら追い出し、事実上、町を統治した。

町の住人への残虐行為などは見られない為、国としても警戒はしつつ、現状維持の姿勢をとっている。

肩まで届かぬほどのウェーブの赤髪に、眉の上の額辺りから上に向け、2本の角が生えており、その片方は折れている。

その見た目通り、人間ではなく、魔界出身の魔族であり、元々南の大陸にある小国で神職を偽り、要人暗殺を行っていたと言われている。

その名残なのか、白い布を纏った上半身と赤いスカートのような巫女装束と呼ばれる服を着ている。



「何の用だ?」

「近場で狩りの予定があんだよ。」

「あぁ?ここらの依頼がメイリスに行くわけないだろうが。」

「実は正式な依頼じゃないんだ。」

そう言うとディケンズは経緯を説明した。


「こいつは面白ぇ!」ミゼットは笑う。

「砂漠の頂点とは、清々しい程のバカだな。死んだらお前らの財産はあたしが貰ってやるよ。」

「いってお前もルクディロスを倒したんだろ?」

「当たり前だ。お前ら雑魚と一緒にするな。」

「あぁ?何だと!」ライラが吠える。

「やるか?」

「やってやろうじゃねぇか!」

挑発に乗り、喰って掛かるライラをディケンズが止める。

「おい。ライラ!」

「ほら、来いよ。」

ミゼットが顔を突きだし、自分の頬を指差しながら挑発した。

ディケンズの制止を解き、ライラが右ストレートを繰り出す。

もろに入ったが、ミゼットは微動足りせずにニヤリと笑うとライラの首を掴み、投げ飛ばした。

「がはぁ!」

「魔物も逃げ出すほどのへなちょこパンチだな。」

「何だとてめぇ!」

立ち上がり、再び走り出すライラをディケンズが遮る。

「止めとけ。目的が違うだろ。」

ミゼットの方にも子分の狩人が近寄る。

「ミゼット様、こないだの件もあるんで、余り騒ぎを起こしては・・・」


「まぁ、仕方ない。遊びは今度にするか。酒場と宿屋は好きに使えばいい。勿論、金は払えよ。」

そう言ってミゼットは酒場に戻っていく。

「待ちやがれ!」

興奮するライラをディケンズと子分の一人が宥めて、何とかその場を収めた。



その夜、宿屋で二人は明日の準備を進める。

安宿ではあるが、必要な物は揃っており、適当に食事を済ませた。

ディケンズはソールオングルの整備を行い、ライラはデザイルと剣を紐で結びながら愚痴る。

「ミゼットの野郎!舐めやがって。」

「あの女は元々ああいう性格だろ。一々相手にしてたらキリがねぇぞ。」

「分かってるけどよ・・・」

「と言うかお前、さっきから何してんだ?」

ディケンズは訝しげにライラに尋ねた。

「何って、結んでんだよ。モドンのジイさんが言ってたろ、ルクディロスは足に生えてる毛で静電気を作るって。だからこいつを足元で滑らせて、毛を切っちまおうって事だ。」

「そんなに上手く行くもんか?」

「さぁな。まぁ、物は試しだよ。」

「そいつを滑らせて、お前の得物はどうするんだよ?」

「始めに試してみて、ダメなら普通に戦うさ。」




翌日、モウズに乗って町を出る二人だったが、二人の隣にはもう一頭のモウズがいた。

「おい。何でアイツがいるんだよ。」

そこにはミゼットが乗っている。

「見学だとよ。」

「心配するな。手出しはしない。ただの暇潰しだ。」

「邪魔すんなよ。」

ライラの言葉を鼻で笑う。

「死に掛けたら、助けてやらんでもないぞ。」

「ふざけんな。」

「おいおい。止めろって。ミゼットもあんまり挑発するなら、付いて来るなよ。」

「ここらは、あたしのシマだ。好きにさせてもらう。それに町周辺の警戒はあたしの仕事さ。」

「律儀にそんな事してるのか?」

「町では好き勝手やってるからな。あたしだってそのくらいの義理は果たすさ。」

「へぇ、意外だな。」



暫く進むと大きな岩が幾つも見えてくる。自然の物ではない。朽ちかけてはいるが、長方形に綺麗に切り出されている。所々に装飾や古代文字のような物も見えた。明らかな人工物である。

「遺跡跡か・・・」ディケンズが呟く。

「地上の物じゃない。砂漠の地下、中層には遺跡群が広がってるそうだ。恐らくその残骸だろうな。」

「そういやルーゼスの奴がそんな事言ってたな。」ミゼットの言葉にライラが納得した。

「中層の遺跡を治めてる奴は、あたしと同じ人型の魔族らしい。ケイオスヘッドより強いんだとよ。」

「人型でか?」

「ああ。」

「とんでもねぇのもいるもんだな。」

「恐らく、地の利を得てるんだろう。ライラ(そいつ)と同じ砂魔法の使い手だろうな。」

「こんなもんがあったって、そんな強くなる思えねぇけどな。」

言いながらライラが砂の玉を作り出す。

「外魔法ってのは底が無いんだよ。極めて地の利を活かせば、他の魔法を凌駕する。まぁ、お前には無理だろうがな。」

「一言余計なんだよ。」

「外魔法も修練すれば、強くなるもんなのか?」ディケンズが尋ねた。

「さぁな。外魔法に詳しい奴なんざ、ほとんどいない。魔法研究所の奴らにでも訊けばいいんじゃないか?」

「気が向いたら、行ってみるか・・・」ライラは呟き、砂の玉を放り投げた。



「そう言えば、ロコメダの奴らの話を聞いたか?」

「あのイカれた連中か。」

「マディオンまで活動区域を広げてるらしいぞ。」

「いや。こないだ町に来たさ。」

「ヨーズリーにか?」

「ああ。」

「で、どうなったんだ?」

「話し合う理由なんてないさ。六人のうち、一人残して殺したさ。」

「殺した!?」

「おいおい。」

「こっちに来てから、人を狩ることはほどんど無かったからな。良い気晴らしになったよ。」

「気晴らしってお前・・・」

「残りの一人に『喧嘩売る気ならもっと大人数連れて来い』って伝えて逃がしたさ。」

「面倒なことになるぞ。」

「あたしは悪魔だ。狩りの対象になってもおかしくない立場だからな。人外の恐ろしさを身に染みて分からせりゃあ、奴らの価値観も変わるだろ?ああ言う連中は自分が安全な立場にいるから善人面してるだけだ。」そう言ってミゼットは鼻で笑う。

「本当に大人数引き連れてきたら、どうするんだ?」

「そりゃあ蹴散らすだけだろ。ギルニアには職業狩人が多いんだ。早かれ遅かれぶつかる。」

「それはそうかも知れねぇが・・・」

「心配ならメイリスの奴らにも言っとけ。ああ言う連中は度を超すと何するか分からんからな。」




ミゼットが鼻を動かし、モウズを止めた。

「・・・いるな。」ミゼットが呟く。

「本当か?」

「ああ、匂いがする。ここからは二人で行け。あたしはこの辺から見てるさ。」


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