第23話 ヨーズリーの悪魔
三日後。準備を整えた二人は砂漠の北西へ向かった。
砂漠を横断するのは危険な為、ニグを抜けて砂漠の外周の街道を進んでいった。
そうして訪れた北西の町「ヨーズリー」
北に位置する国境の町「ベールズ」を越えて、王都に向かおうとすると二番目に訪れることになる町である。
然程大きな町ではないが、ギルニアの中では緑が多い。そして最大の特徴は、どこの町にもいるはずの憲兵の姿がない事だ。
町に入った二人を見た一人の男が、酒場に入っていく。
暫くすると一人の女が現れた。
「あたしのシマに足を踏み入れた奴がいるって言うから来てみたら、砂女とトカゲ野郎か。」
「ミゼット。ちょっと邪魔させてもらうぞ。」
ミゼット・グラニス。
ヨーズリーの狩人で、町の狩人たちを力で捩じ伏せて、憲兵すら追い出し、事実上、町を統治した。
町の住人への残虐行為などは見られない為、国としても警戒はしつつ、現状維持の姿勢をとっている。
肩まで届かぬほどのウェーブの赤髪に、眉の上の額辺りから上に向け、2本の角が生えており、その片方は折れている。
その見た目通り、人間ではなく、魔界出身の魔族であり、元々南の大陸にある小国で神職を偽り、要人暗殺を行っていたと言われている。
その名残なのか、白い布を纏った上半身と赤いスカートのような巫女装束と呼ばれる服を着ている。
「何の用だ?」
「近場で狩りの予定があんだよ。」
「あぁ?ここらの依頼がメイリスに行くわけないだろうが。」
「実は正式な依頼じゃないんだ。」
そう言うとディケンズは経緯を説明した。
「こいつは面白ぇ!」ミゼットは笑う。
「砂漠の頂点とは、清々しい程のバカだな。死んだらお前らの財産はあたしが貰ってやるよ。」
「いってお前もルクディロスを倒したんだろ?」
「当たり前だ。お前ら雑魚と一緒にするな。」
「あぁ?何だと!」ライラが吠える。
「やるか?」
「やってやろうじゃねぇか!」
挑発に乗り、喰って掛かるライラをディケンズが止める。
「おい。ライラ!」
「ほら、来いよ。」
ミゼットが顔を突きだし、自分の頬を指差しながら挑発した。
ディケンズの制止を解き、ライラが右ストレートを繰り出す。
もろに入ったが、ミゼットは微動足りせずにニヤリと笑うとライラの首を掴み、投げ飛ばした。
「がはぁ!」
「魔物も逃げ出すほどのへなちょこパンチだな。」
「何だとてめぇ!」
立ち上がり、再び走り出すライラをディケンズが遮る。
「止めとけ。目的が違うだろ。」
ミゼットの方にも子分の狩人が近寄る。
「ミゼット様、こないだの件もあるんで、余り騒ぎを起こしては・・・」
「まぁ、仕方ない。遊びは今度にするか。酒場と宿屋は好きに使えばいい。勿論、金は払えよ。」
そう言ってミゼットは酒場に戻っていく。
「待ちやがれ!」
興奮するライラをディケンズと子分の一人が宥めて、何とかその場を収めた。
その夜、宿屋で二人は明日の準備を進める。
安宿ではあるが、必要な物は揃っており、適当に食事を済ませた。
ディケンズはソールオングルの整備を行い、ライラはデザイルと剣を紐で結びながら愚痴る。
「ミゼットの野郎!舐めやがって。」
「あの女は元々ああいう性格だろ。一々相手にしてたらキリがねぇぞ。」
「分かってるけどよ・・・」
「と言うかお前、さっきから何してんだ?」
ディケンズは訝しげにライラに尋ねた。
「何って、結んでんだよ。モドンのジイさんが言ってたろ、ルクディロスは足に生えてる毛で静電気を作るって。だからこいつを足元で滑らせて、毛を切っちまおうって事だ。」
「そんなに上手く行くもんか?」
「さぁな。まぁ、物は試しだよ。」
「そいつを滑らせて、お前の得物はどうするんだよ?」
「始めに試してみて、ダメなら普通に戦うさ。」
翌日、モウズに乗って町を出る二人だったが、二人の隣にはもう一頭のモウズがいた。
「おい。何でアイツがいるんだよ。」
そこにはミゼットが乗っている。
「見学だとよ。」
「心配するな。手出しはしない。ただの暇潰しだ。」
「邪魔すんなよ。」
ライラの言葉を鼻で笑う。
「死に掛けたら、助けてやらんでもないぞ。」
「ふざけんな。」
「おいおい。止めろって。ミゼットもあんまり挑発するなら、付いて来るなよ。」
「ここらは、あたしのシマだ。好きにさせてもらう。それに町周辺の警戒はあたしの仕事さ。」
「律儀にそんな事してるのか?」
「町では好き勝手やってるからな。あたしだってそのくらいの義理は果たすさ。」
「へぇ、意外だな。」
暫く進むと大きな岩が幾つも見えてくる。自然の物ではない。朽ちかけてはいるが、長方形に綺麗に切り出されている。所々に装飾や古代文字のような物も見えた。明らかな人工物である。
「遺跡跡か・・・」ディケンズが呟く。
「地上の物じゃない。砂漠の地下、中層には遺跡群が広がってるそうだ。恐らくその残骸だろうな。」
「そういやルーゼスの奴がそんな事言ってたな。」ミゼットの言葉にライラが納得した。
「中層の遺跡を治めてる奴は、あたしと同じ人型の魔族らしい。ケイオスヘッドより強いんだとよ。」
「人型でか?」
「ああ。」
「とんでもねぇのもいるもんだな。」
「恐らく、地の利を得てるんだろう。ライラと同じ砂魔法の使い手だろうな。」
「こんなもんがあったって、そんな強くなる思えねぇけどな。」
言いながらライラが砂の玉を作り出す。
「外魔法ってのは底が無いんだよ。極めて地の利を活かせば、他の魔法を凌駕する。まぁ、お前には無理だろうがな。」
「一言余計なんだよ。」
「外魔法も修練すれば、強くなるもんなのか?」ディケンズが尋ねた。
「さぁな。外魔法に詳しい奴なんざ、ほとんどいない。魔法研究所の奴らにでも訊けばいいんじゃないか?」
「気が向いたら、行ってみるか・・・」ライラは呟き、砂の玉を放り投げた。
「そう言えば、ロコメダの奴らの話を聞いたか?」
「あのイカれた連中か。」
「マディオンまで活動区域を広げてるらしいぞ。」
「いや。こないだ町に来たさ。」
「ヨーズリーにか?」
「ああ。」
「で、どうなったんだ?」
「話し合う理由なんてないさ。六人のうち、一人残して殺したさ。」
「殺した!?」
「おいおい。」
「こっちに来てから、人を狩ることはほどんど無かったからな。良い気晴らしになったよ。」
「気晴らしってお前・・・」
「残りの一人に『喧嘩売る気ならもっと大人数連れて来い』って伝えて逃がしたさ。」
「面倒なことになるぞ。」
「あたしは悪魔だ。狩りの対象になってもおかしくない立場だからな。人外の恐ろしさを身に染みて分からせりゃあ、奴らの価値観も変わるだろ?ああ言う連中は自分が安全な立場にいるから善人面してるだけだ。」そう言ってミゼットは鼻で笑う。
「本当に大人数引き連れてきたら、どうするんだ?」
「そりゃあ蹴散らすだけだろ。ギルニアには職業狩人が多いんだ。早かれ遅かれぶつかる。」
「それはそうかも知れねぇが・・・」
「心配ならメイリスの奴らにも言っとけ。ああ言う連中は度を超すと何するか分からんからな。」
ミゼットが鼻を動かし、モウズを止めた。
「・・・いるな。」ミゼットが呟く。
「本当か?」
「ああ、匂いがする。ここからは二人で行け。あたしはこの辺から見てるさ。」




