第22話 偏見
「えぇぇーーっ!!」
エリーが響き渡るような大声で驚いた。
その声は酒場の外まで届き、外を歩く通行人の数名が、何が起きたのかと酒場を覗いている。
「ディ、ディケンズさんって男性じゃないんですか!?」
「まぁ、女でも無いけどな。」
「え?え?」ライラの補足にエリーの頭の上で疑問符が浮かぶ。
「そもそもリザードマンに性別は無い。」
「え、でも、だったらどうやって子孫を残すんですか?」エリーが当然の疑問をぶつけた。
ディケンズはどこから説明するかと思案する。
「だからさっきデルリザードの話をしただろ?」
再びライラが口を挟む。二人はエリーに凍幻鳥との戦いの話をしていた。
「あれがもとだ。」
「もと?」
「そもそもリザードマン何て種族は生物学的には存在してない。」ディケンズが引き継ぐ。
「お前たち人間が勝手にそう呼んでるだけだ。」
「え、そうなんですか?」
「デルリザードの中で、戦闘経験を積んだ一部の者が、ある日突然進化した戦闘特化の姿。謂わば突然変異種がリザードマンだ。だからリザードマンが子孫を残すことはない。と言うかそもそも生殖機能自体失われてる。種の存続と言うなら、里に残ってデルリザードを守ることだな。」
「でもディケンズさんは里を出たんですよね?」
「ああ。本来ならデルリザードを天敵から守る為の進化だが、折角強い肉体を得たんだからな、真面目な一部の奴以外は大抵好き勝手生きるのさ。」
「へぇ~。何か不思議な感じなんですね。」
「アタシたち、人間の常識だけで考えたらダメだぜ。」
「詳しくは知らんが、北の大陸には国の騎士団の副団長になった奴もいるらしい。」
「そいつはすげぇな。」
「でも獣人の方ってあまり見ませんよね。」
再びエリーザが疑問を呈した。
「ギルニアはほぼ砂漠だからな。自然の中で暮らすには過酷過ぎる。獣人自体少ないだろうな。」
「でも、町でもあまり見掛けなくないですか?」
「そもそも人間に混じって町で暮らす奴はあまりいない。人間の中には獣人に偏見や差別意識を持つ者も少なくないからな。」
「えぇ!そうなんですか・・・ディケンズさんも?」
「俺やルルは比較的大丈夫だな。差別されると言うよりは畏怖を感じてる奴が多いだろう。」
「お前は兎も角、ルルもそうなのか?ラビリタスなんて子供が喜びそうな見た目だけどな。」
「いや、一定以上の年齢をいってる奴だとな・・・」
「黒兎動乱の事かのぅ。」
離れたカウンターで軽食を取っていた老人が言う。
「知ってますか?」
「ええ。」
「黒兎動乱?」
ライラの疑問に老人が語り出す。
「今から70年程前にな、デマルド大陸にあったタルタニアと言う小国に、黒い毛を持つラビリタスが突如大挙して、一晩で国を滅ぼすという事件が起きたんじゃ。その後、ラビリタスたちは隣国の兵たちによって制圧されたんじゃが、その事件を知っている世代はラビリタスを不気味に思っている者も多いのぅ。」
「へぇ~そんな事があったのか。」
「まぁ、毛色が違うからルルとはまた別の種だろうけどな。」
「でも種族で差別するなんて、酷いですよね。」
「確かにな。アタシはそいつが自分にとって利用価値があるか無いかでしか判断しねぇな。」
「それはそれで酷いです。」
「そうかぁ?世の中そんなもんだろ。」
「まぁ、仕方ないさ。偏見なんてもんは、そいつの生まれ育った環境や教育、経験から刷り込まれていくもんだ。一度ついちまえば、そう簡単には無くならん。」
「それはそうかもですけど・・・」
「無理に解り合おうと時間を無駄にするより、初めから距離を置いて、関わらないようにするのが無難さ。」
「う~ん。」
エリーは納得いかなそうだったが、ディケンズは話を切り上げた。
「んで、良いのは有ったのか?」
「あ?ああ、そうだった。丁度お誂え向きの依頼があったぜ。」
ライラはそう言って、キープしていた依頼書を渡した。
「シュプラブの樹皮か。確かに丁度いいな。」
「だろ?まず間違いなく居るだろうしな。」
「何か狩りに行くんですか?」
「狩りはついでだな。目的はサボテン取りだよ。」
ライラがエリーの質問に答える。
「サボテン?」
「ああ。今度の相手が雷を使う奴でな。耐性を上げる為の丸薬にウラムサボテンが必要なんだよ。シュプラブってのサボテンに擬態して近寄ってきた虫や鳥を捕食する植物の魔物だ。」
「植物の魔物なんて珍しいですね。」
「まぁ、砂漠ではあんまり見ねぇな。」
「危険なんですか?」
「いや、そんなことはねぇな。ただ棘に麻痺毒があるから、一人だと痺れてそのまま砂漠の暑さで逝っちまうかもな。」
「気を付けて下さいね。」
「おう。」
二人はモウズに乗って砂漠を進む。
ライラは新調した剣を見ていた。
ブレイドホーンの角はカットラス程、湾曲していない為、どちらかと言えば直剣に近い形だった。
「どうなんだ?」ディケンズが尋ねる。
「悪くないな。ちょっと力の入れ具合が変わるから慣れがいるけど。」ライラは軽く素振りしながら答えた。
「しかし、黒兎動乱なんてのがあったとはな。」
「当時、隠す動きもあったらしいが・・・噂が広まる方が早かったみたいだな。」
「にしても、一夜で国を滅ぼすか・・・中々にえげつねぇな。ルルも本気出したら、そんぐらいヤベぇってことか?」
「どうだろうな。まぁ、確かに普段大人しい方が、暴れたらヤバいとは言うな。」
「そもそもルルはどこの生まれなんだ?」
「さぁ?自分から話すタイプでもないしな。ブロウの話じゃあ、ニグに来た時には一人だったらしいぞ。」
「ほ~ん。今度会った時、何となく聞いてみるか。」
他愛もない話をしていると目的の場所に着いた。
辺りに群生するウラムサボテン。緑色の表皮に黒く細い棘、所々に黄色い筋が見える。このサボテンの果肉を乾燥させ、薬効を高める別の原料と混ぜ合わせることで丸薬が出来る。
「そんなに量はいらねぇよな?」
ライラが棘に気を付けながら、剣でサボテンの果肉を削ぐ。
「ああ、でも折角取りに来たんだ。多少多めに採って薬屋に売ればいいさ。」
「いって、雷耐性なんかそんな需要があるとも思えねぇけどな・・・っ!」
殺気を感じたライラが剣を切り上げ、向かってきた触手を切り裂いた。
「ほい来た。」
サボテンの向こう側にそれはいた。
胴体はサボテンと良く似た姿をしており、棘の付いた触手を丸めて、枝分かれした小株に似せている。登頂部には花の代わりに、良く似た形の口があるが、時期の関係で他のサボテンは花をつけていない為、悪目立ちしていた。
「正直、こいつをサボテンと見間違えることなんてねぇと思うけどな。」
「虫にはそう見えるんだろ。」
大した相手ではない。だが、立地が悪く、棘を持つサボテンに囲まれた場所で戦うのは少し難儀だった。
「おい、ディケンズ。ソールオングルで何とかならんか?」
ライラはサボテンとシュプラブの触手攻撃を巧みに躱しながら言う。
「依頼品は樹皮だぞ。燃えたらどうする。」
「ああ、そうだった。ったく、面倒くせぇな。」
ライラは飛んできた触手を躱すと、棘の無い部分を掴み、デザイルを突き刺す。そのまま地面に刺すと魔力を込める。
デザイルが砂の上を進みだし、植物の為、体の軽いシュプラブはそのまま引きずられるようにライラの前まで来る。
剣で頭部と思われる場所を切り裂くとシュプラブは沈黙した。
「一丁上がり。」
「必要なもんをさっさと取って帰ろう。」
幾つか素材を剥ぎ取りながらライラが言う。
「こいつの麻痺毒は大型に効くのかねぇ?」
「多少使えるだろうが、棘だけあっても供給元がないから駄目だろうな。」
「そか。」
ライラは棘を放り投げた。
「そう言えば、知ってるか?」ディケンズが切り出す。
「ん?」
「ロコメダ愛護団体の奴らがマディオンの辺りまで来てるらしい。」
マディオン共和国はギルニア砂漠の北の地を領地にする国。
「ロコ?なんだそいつら?」
「魔物も生きてるんだから、無闇に殺さないようにしましょうって奴らだ。」
「アタシらには耳が痛ぇな。」
「ここらじゃ動いてなかったんだがな。マディオンに現れたって事は時間の問題だろうな。」
「しかし解せねぇな。魔物に人が襲われる事例なんてどこにでも転がってるだろ。守ろうなんて思うもんかね。」
「まぁ、命の大切を謳うのは分からんでもないがな。完全なる善意か、イカれてるか、見えない所で金が動いてるんだろう。」
「関わらんの一番か。」
「そう言うことだ。」




