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砂上の狩人  作者: eight
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第21話 幻を穿つ者

突然の衝撃に、二人は現実世界へ引き戻された。

二人は砂の大地に転がる。

「おい!今度は何なんだ!」興奮冷めやらぬライラが吠えた。

自分たちを吹き飛ばした方向を見たディケンズが慌てて言う。

「ライラ!逃げるぞ!」

ライラもそちらを見た。

「マジかよ・・・」


二人の目に映る者。それは不浄王ケイオスヘッド。

砂上の頂点に君臨する魔物。

人間より一回り大きい類人猿のような体格だが、毛は一切生えていない。筋肉質ではなく、白く厚い皮に包まれており、それがポッポリーが白団子と呼ぶ由縁である。

ムチの様な長い尾の先にはブーメランのような(やいば)がついていた。


左右非対称の枯れ枝のような角を持つその顔には目も鼻も口も無い。ただ渦巻き状の穴が空いているだけだった。その穴の先は見えず、まるで深淵を思わせる暗闇が広がっている。

特殊は魔法は使わないが、その筋力は強大で、今も正にその手で凍幻鳥の頭を掴み、地面に叩き付けていた。


ディケンズは遠くに退避しているモウズを見つけた。

不浄王がいる以上、呼んでも来ることはない。

「あっちだ!モウズまで走るぞ!」

駆け出した二人はモウズに飛び乗って逃げる。

ライラはモウズに後ろ向きに座り、対峙する2頭の魔物を見ていた。


地面に押さえつけられた凍幻鳥は、抜け出そうともがき、その鋭い爪で蹴るが、不浄王は頭を放し、下がって避けた。

空へ逃げた凍幻鳥が翼を広げ、人ほどの大きさの氷塊を幾つも作り出す。

咆哮と共に氷塊が襲いかかるが、不浄王はその場から一歩を動かなかった。

何かの感覚で察知するのか、幻の氷塊を全て無視し、本物の氷塊だけを拳で打ち砕く。


最後の氷塊を受け止めた不浄王は、そのまま投げ返す。

躱した凍幻鳥に向け、大きく跳ぶと空中で前転し、しなった尻尾の先の刃が、その翼を捉えた。


血と羽を撒き散らし、バランスを崩して落下した凍幻鳥に不浄王が馬乗りになる。


「いつか、あれとやり合うのか・・・」

勝負が見えた時点で前に向き直したライラが呟いた。

「それまでに死ななければな。」ディケンズが返し、二人はメイリスへと帰った。





「あぁ~本当に生きてて良かったよぉ!」

ルネラは我が子の様に二人を心配した。

「大袈裟だな。ルネラさんは。」

「本当だよ。毎日、まだかまだかってうるせぇったらありゃしねぇよ。」そう言うドイルも、何処か安堵の表情だった。

「まぁ、確かにブレイドホーンを狩るのに一週間じゃ、心配もするさ。」

隣で飲んでいたハモンドが言う。

二人が氷に囚われていた間に3日が過ぎており、メイリスに戻ったのは出発してから一週間後のことだった。


「仕方ねぇだろ、状況が状況だったんだ。」ディケンズが飲みながら返した。

「でも不浄王に接近したなら、法に触れて捕まっちまうんじゃねぇのか?」ドイルがカウンターの向こうで調理しながら尋ねた。

「いや、奴の方から来たんだ。法に触れることはないだろ。」ライラがつまみを咥えながら答える。

「でも縄張りに入ったらアウトなんだろ?」

「ポッポリーの話じゃ、縄張りはもっと西のはずだ。それに暫くは動かねぇって言ってたしな。」

「恐らくだが、俺たちが捕まったことで、凍幻鳥が留まったからな。その魔力に反応して移動してきたってことだろう。」

「なるほど、想定外の動きってことか。」

「ああ、だから明日にでもニグに行って報告してくるさ。不浄王のルートが変わっちまってる可能性があるからな。」

「なんだい。折角戻ってきたのに、またすぐ行っちまうのかい?言伝てを送ればいいじゃないか。」ルネラが寂しそうに言った。

「いやぁ、アタシの剣を新調したいからな。そのついでだ。」そう言って折れたカットラスを見せた。

「すぐ戻ってくるさ。」


その後、ライラたちは凍幻鳥と不浄王の話を酒の肴に盛り上がった。

だがライラは、ディケンズに声を掛けた少女に関して触れることはなかった。

誰にでも触れられたくない過去はある。自ら話さない限り、ライラは忘れることにした。



夜も更けた頃、ライラは自室に戻った。

窓枠に座り、一人で外を見ていた。

夜の砂漠は暗く、そして寒い。

町の灯りはほとんど消え、町の入口を示す篝火だけが、仄かに辺りを照らしていた。

ライラは暗がりの中で今日の幻を思い出す。

自分を産み、自分を捨てた顔も知らぬ女。

何処にいるか、そもそも生きているのかすら定かではない。

見つければ、ツケを払ってもらうつもりだが、わざわざ探す気も無い。

今日、出会ったあの時、自分でも押さえられぬほどに覚えた怒り・・・

心の整理はついたつもりだったが、奥底に拭い切れぬ何かがあった。

ライラは物思いに更けながら、外の暗闇を見つめ続けた。





翌日、二人はニグの王宮に来ていた。

「とまぁ、そう言うわけです。」

珍しく敬語で報告を終えたディケンズの前には、王国騎士団団長のヘイリッド・グランドルフが立っていた。

不浄王の情報と言うことで、団長直々に話を聞きに来たのだ。後ろには副団長のミゲイルと魔物研究所のモドンが控えている。

「なるほど。そう言うことか。」

四十前後のヘイリッドは端正でありながらも、どこか男臭い男だった。鍛え抜かれた肉体から繰り出す剣技と雷魔法を得意とし、若い頃はギルニアの剛雷の異名で恐れられていた。

「ああ。ポッポリーに伝えてやってくれ。じゃないと迷子になっちまうかもしれないからな。」

ディケンズがモドンを見ながら言った。

モドンは承知したと頷く。

「有益な情報に感謝する。」

「いえ、不浄王の動向は我々にも影響がありますので。」

「お前たちの不浄王への接触は不可抗力である以上、不問とするので安心して構わない。」

「助かるぜ。誰かさんと違って、団長様は寛大だな。」

ライラの言葉にミゲイルが顔をしかめた。


「それでは、俺たちはこれで。」

ディケンズの言葉で、二人が振り向き帰ろうとした時、ヘイリッドが声を掛けた。

「ところでお前たち、聞くところによると何やら危険な遊びをしているらしいな。」

二人が振り返る。

「まぁ、間違っちゃいねぇな。」

危険な遊びとは言い得て妙だった。

「ひとつ、私の依頼を受けてみないか?」

「団長殿の?」

「ああ。実は陛下より、鎧を新調してはどうかとお話があってな。」

団長として荘厳な装飾のある鎧であったが、長く着ているのであろう。確かに少し草臥れていた。

「正直な話をすれば、実用性のない装飾など興味は無いのだが、陛下の言葉を無下には出来ん。そこでお前たちにルクディロスの雷角を取ってきて貰いたい。」

「ルクディロス・・・砲角犀(ほうかくせい)か。」

砲角犀ルクディロス。角の先から雷撃を放つサイ型の魔物でランクはBである。

「そうだ。やってみるか?」

「報酬は?」

「10万ルック。」

二人は目を見合せ、頷く。

「乗らせて貰う。」

「そうか。ではギルドを通してメイリスに依頼を送っておく。」

「分かりました。」

「任しときな。」


「ではついて参れ。」

モドンが言った。

「ルクディロスなら研究所に情報がある。」



二人はモドンと共に、魔物研究所に向かった。

ライラが歩きながら、周囲を物色していると、モドンは前を歩きながら言った。

「今度は何も盗るんじゃないぞ。」

「おっと。」

ライラの言葉にホッホッホッと笑う。

「研究所に情報があるってことは、誰かが倒したのか?」ディケンズが尋ねる。

「二年前にミゼットがな。」

ギルニア砂漠の北西の町「ヨーズリー」の狩人で、事実上、町を牛耳っている女狩人だった。

「ミゼットならあり得るか。」

「アイツ自体化けもんみてぇなもんだしな。」

「目障りだからやったそうだ。」

「相変わらずだな。」



研究所でモドンが資料を広げ、二人はマジマジとそれを見た。

「ルクディロスの雷撃は足元にあるこの線毛で生じた静電気を体内にある器官で増幅し、角の中心に繋がる穴から放出するのじゃ。」

「小回りは効くのか?」

「いや、この体躯では無理じゃろう。」

「なら正面には立たず、背後から攻めるか。」

「その方が安全じゃが、奴の甲殻は堅牢じゃ、柔らかい箇所は恐らく、足の裏と頭部じゃな。」

「頭部が?」

大抵の生き物は急所の周りほど、硬くなる事が多い。

「詳しくは分からんが、恐らく雷撃を放出する影響じゃろう。」

「ほ~ん。じゃあ、リスクを取ってでも正面衝突か?」

「いや、出方次第だろうな。」


二人があれこれ作戦会議をしていると、資料の中から一枚の紙がはらりと落ちる。

「ん?」

ディケンズが拾い上げて見ると、そこには子供の落書きのようなルクディロスが描かれていた。

「何だこれ?」

「ああ、ポッポリーが最近、絵を描くのにはまっておってな。たまにここに来ては描いていくのじゃ。」

ライラが紙を取り、眺めた。

「アイツ、翼なのにどうやって描いてんだ?」

「脚で器用に描いておったのぅ。」

「ほ~ん。大したもんだな。」

「お主らが魔物を倒して、情報を得れば、あの娘のコレクションも増えるやもしれんのぅ。」

「んじゃ、ポッポリーの為にもアタシたちが片っ端からしばいていくか!」

ライラが気合いを入れる。

「そうじゃのぅ。」

モドンはホッホッホッと笑う。


「いや、俺たちが倒したって、全体像が見れるわけじゃないんだから、関係ないだろ?」


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