第19話 溶け得ぬ記憶の幻 凍幻鳥
「な、何だありゃあ?」
ライラが驚きながら言う。
「凍幻鳥だ。」
「あれがそうなのか?」
砂に落ちた巨大な氷塊はスッと消えていき、凍幻鳥は翼を広げ、宙に舞い上がった。
黒茶色の羽毛。翼の先と頭部は蒼白い色をしている。
黄色く鋭い爪を持つ足と鋭い嘴。眉間の辺りには蒼い宝玉が付いている。
ランクBの強さであるが、渡り鳥であり、一定の時期に北の大陸に向かう途中で現れるだけの為、王国の評価としては一応枠外の特殊となっている。
「さっきのデカい氷に呑まれたら終わりだ。気を付けろ!」
ディケンズがモウズに駆け寄り、ソールオングルを取り出す。
「要は攻撃を食らわなきゃいいんだろ?」
言ってライラが走り出した。
凍幻鳥の尾羽に向けて跳んで切りかかるが、ひらりと躱される。
そのまま羽根を広げると、周囲に無数の氷の礫が形成される。
「・・・やべ。」
ライラは横に走り、飛んでくる礫を避けるが、数が多すぎた。
ひとつがライラの顔目掛けて飛び、避けきれないと悟ったライラが衝撃に備える。
しかし、礫はライラの顔をすり抜けていった。
「幻?」
気づいたライラはすぐさまカットラスを構える。
「くそったれ。見かけ騙しかよ。」
再度、凍幻鳥に取り付こうとしたが、次に飛んできた礫が腹に当たる。
「うっ!」
続けて飛んできた礫を籠手で払いのけた。
「今度は本物かいっ!」
「奴は本物と幻の氷を織り交ぜてくる。気を付けろ!」
「先に言え、先に!」
ディケンズの忠告に悪態を着きながら、一斉に飛んできた礫を砂に潜り回避した。
ライラを狙っていた凍幻鳥に向け、ディケンズが光弾を撃ち込む。
音に反応して避けようとしたが、翼を掠めて爆発すると、凍幻鳥が地面に落下した。
砂から飛び出したライラが、地面で踠いているところへ切りつけた。
命中するも、分厚い羽毛が刃を拒み、何枚かの羽根が宙を舞う。
態勢を整え、ライラを振り払った凍幻鳥は、翼を伸ばしてジャンプするように宙に舞うと、そのまま宙返りして地面に思い切り着地する。
その瞬間、周囲の砂の中から氷塊が突き上がるように飛び出し、二人は衝撃で吹き飛ばされた。
「ぐはぁ!」
受け身を取ったディケンズは、すぐに光弾を撃つが、今度は飛んで躱された。
それを見たライラが走り出し、地面に残っていた氷塊を踏み台に高く跳躍し、凍幻鳥の尾羽に取り付く。
凍幻鳥は振り落とそうと、回転しながら高く上がった。
必死にしがみつくライラにディケンズが叫ぶ。
「ライラ!振り落とされるなよ!」
「言われるまでもねぇ!」
空中で暴れながら脚で蹴落とそうとするのを避けながら、ジリジリと登っていき、背中にカットラスを突き刺す。
血が吹き出し、呻き声を上げた凍幻鳥が一際暴れる。
耐えきれず、手を離したライラは落下の瞬間、魔力を込めると、水に落ちるように砂の中へダイブした。
暫くして飛び出してきたライラにディケンズに声を掛けた。
「大丈夫か?」
「ああ、そこそこ深くまで行ったな。奴は?」
「まだ飛んでやがる。」
ディケンズが見上げた先で凍幻鳥は一ヶ所に留まり、ライラたちの方を向きながら、翼を広げる。
そして威嚇するように甲高い鳴き声を上げると、額の宝玉が光りだした。
辺りに蒼白い光が広がり、微細な氷の粒が現れる。
それは霧のように辺りに充満し、気温を下げた。
「今度は何だ?」
「奴さん、本気を出したようだな。」
凍幻鳥が上空をくるりと一周すると、氷の粒が集まり、に人と同じくらいの大きさの氷塊がいくつも形成される。
二人は身構えた。
その大きさを見て、ディケンズが言う。
「おいおい。当たったら痛ぇじゃ済まねぇぞ。」
「あれも何個かは幻なのか?」
「さぁな。幻に賭けるにはリスクが高すぎる。」
二人は的を散らす為、同時に左右へ走り出す。
凍幻鳥が翼を振り下ろし、氷塊が二人に次々と飛んでいった。
ライラは蛇行しながら走って避け、そのまま飛び込むように砂に潜る。
ディケンズは走っていたが、逃げ切れないと踏み、ソールオングルを構えて、氷塊に放った。
光弾が氷塊に当たって爆発し、氷塊は四散したが、すぐ後から飛んできた氷塊がディケンズを当たる。
「ぐおぉ!」
ディケンズは衝撃で吹っ飛び、ソールオングルが地面に転がる。
凍幻鳥が追撃を仕掛けようとした時、背中に砂の玉が当たった。
振り返るとそこにはライラが立っている。周りにいくつかの砂の玉が浮いていた。
「ちょっとタイムだぜ。」
ライラが魔力を込めると砂の玉が一斉に飛んでいき、凍幻鳥の顔に当たり弾ける。目潰しを喰らった凍幻鳥はその場で頭を揺らしてもがき出した。
その隙にライラはディケンズに駆け寄る。
「大丈夫か?」
「何とかな・・・」無事ではあったが、まだ立てずにいた。
ライラは近くに落ちていたソールオングルを拾って構えた。
「アタシが始末してやるよ。」
「おい!馬鹿、やめろ!今は最大出力だ!」
「高火力なら、好都合じゃねぇか!」
ディケンズの制止を無視して、凍幻鳥に狙いをつける。
「今夜は焼き鳥だぁ!」
言いながら放った瞬間。砲撃の反動でライラが後ろに転がり飛ぶ。
「のおぁ!」
その反動で照準がズレて、光弾は左へ逸れていき、気配で察した凍幻鳥は上空へ飛んで逃げた。
「おい!何だよ。これっ!」
ライラは憤慨していたが、元々ソールオングルはディケンズに合わせて作られており、普通の人間が扱うのは難しい。ましてや最大出力であれば、ディケンズでさえ尻尾を使い三点で支えなければ、反動を抑えきれない。
「お前にゃあ無理だって言っただろ。」
ライラからソールオングルを奪い取ったディケンズが構えるが、目潰しを解消した凍幻鳥は上空を悠々と飛んでいた。
「こいつは当てるのは厳しいな。」
「すぐ上空に逃げるなんて、卑怯な野郎だ。」
「すぐ砂に潜る奴が言うなよ。」
「アタシはいいんだよ!」
言いながら、八つ当たりで氷塊を殴ると、バキッと欠けた。
「ん?こいつ意外に脆いのか?」
ライラが氷塊を触る。
「そりゃあ、粒が集まってるからな。そこまで硬くないんじゃないのか?」
ライラが少し考えて、凍幻鳥を見上げた。
「どうした?」
「あの野郎、もうちょっと下ろせるか?」
何か手があると察したディケンズが返す。
「やれるだけはやってみる。」
「頼む。」
ライラは走り、別に氷塊の方へ向かって砂に潜る。
ライラを見失い、ディケンズに標的に絞った凍幻鳥がまた、周囲に氷塊を作り出した。
ディケンズは狙いを定めると、凍幻鳥の斜め上にある氷塊が光弾を放つ。
氷塊に当たった光弾が爆発し、それを躱すために凍幻鳥が高度を下げた。
ライラが砂の中で、砂に埋まっている氷塊の底にデザイルを突き刺し、地上に飛び出す。
凍幻鳥を見上げて言う。
「ディケンズ!もうちょい下げてくれ!」
「簡単に言うな!」
氷塊を遮蔽物にしていたディケンズがぼやきながら、今度は頭部を狙って撃つ。
横に躱されたところへ、背後からライラが砂の玉を頭部へ放った。
背後からの気配をだけを感じた凍幻鳥は、思わず下に躱した。
その瞬間にライラは右手をデザイルに向け、左手で手首を掴んで魔力を込める。
刺さった氷塊ごと、デザイルがカタカタと揺れ出す。
「行けっ!コラァー!!」
ライラが叫びながら手を振り上げると、氷塊が地面から浮き上がり飛んでいく。
氷塊は振り返った凍幻鳥の腹部に直撃し、凍幻鳥はバランスを崩してそのまま地面へと落下した。
ライラは駆けながらカットラスを引き抜くと、その首目掛けて渾身の力で切りかかる。
刃が凍幻鳥に触れた瞬間。キンっ!という有り得ない金属音が響く
「あ?」
その瞬間、視界が氷のようにバキッと割れた。
そこにはライラと同様に斧を振り下ろすディケンズの姿があり、金属音は二人の武器がぶつかる音だった。
「何だ?」
ライラのカットラスが耐えきれず、中程から折れる。
「一体なんな・・・」
言い掛けた時に二人のいる場所が暗くなる。何か大きな物が太陽を遮っている。
二人は目を見合せ、上を見た。
「しまった・・・」
ディケンズが言うと同時に巨大な氷塊が二人の元へ落ちた。




