第18話 砂漠の観測者
ドサッと言う音と共に砂漠の大地にオークが倒れる。
ライラはカットラスに付いた血を払った。
「サクッと終わったな。」
近付いてきたディケンズがオークの持っていた斧を拾い、自分のと見比べる。
何かの紐や皮で荒々しく作られているが、強度は問題無さそうだった。
「ちょっとデカいな。ホルダーを調整するか。」
ライラが少し離れたところに逃げていた、オークのモウズを連れてくる。
「さぁ、お宝さんのご登場だ。」
「お宝って、それは返す奴だぞ。」
「まぁまぁ、雰囲気だけでも楽しもうぜ。では早速。」
モウズに着けてあった袋を外して、中身を確認した。
ライラの顔から表情が消えていく。
「・・・お宝って感じでもねぇな。」
「そりゃあ、田舎町の店から盗んだもんだからな。大したもんは無いだろ。」
「多少の金は入ってるけど、依頼に出すほどかねぇ。」
「まぁ、物の価値なんて人それぞれだからな。」
「まぁ兎に角、剥ぎ取るようなもんも無いし、さっさと帰るか。」
「ああ、これなら明日にはブレイドホーンを狩りに行けるさ。」
「だな。」
二人はオークたちの持ち物を幾つか、拝借してメイリスへ戻った。
翌日。二人はエリーの店で水と食料を確保した。
ブレイドホーンの居場所は、今までの所より、少し砂漠の奥である。そこまで危険な場所ではないが、必然的に泊まり掛けになるため、準備が必要だった。
出発して数時間経った頃、上空から二人を見つめる目があった。
その者はディケンズを見て、ライラを見る。
再び、ディケンズを見て、狙いをつけると、そのまま急降下し始める。
それは突然の衝撃。
ディケンズの背中に爪が食い込むと同時にディケンズが「イィィッ!」と悲痛な悲鳴を上げた。
「着陸完了なの~!」
ディケンズの背中に降り立ったハーピーの少女が可愛らしい声で元気に言った。
ライラが声を掛ける。
「おっ!ポッポリーじゃねぇか。久しぶり。」
「ヤッポポー!」
ポッポリーは両翼を広げながら、不思議な挨拶をする。
「おいっ!ポッポリー!痛ぇからとりあえず離れろ。」
「はいなの~!」
そう言うとポッポリーは、ディケンズから離陸し、ディケンズのモウズの頭の上に乗った。
金髪のボーイッシュなショートカットをしたハーピーの少女。人間なら5才くらいの見た目だが、胸の辺りから羽毛に包まれ、手の代わりに翼があり、脚は鳥のそれである。
身体には、大きな長方形の布に穴を開けた物を頭から被っており、身体の前後に布が垂れ下がっているような状態で、その布にはハーラル王国の紋章が描かれている。
「ポッポリー。誰かに着陸するのは止めなさい。」
ディケンズが背中に擦りながら咎める。
「違うの。ポッポリーはちゃんと約束守っただけなの~。」
「約束?」
ポッポリーは翼でライラの方を指しながら言う。
「こないだライライにあった時にね、人間だと危ないから、着陸するならディッケンにしなさいって言われたの。」
「おい。」ディケンズがライラを睨む。
「いやぁ、人間よりは頑丈だから。その方が良いかなぁ~って。」
「頑丈だろうが痛ぇもんは痛ぇんだよ!」
ディケンズはポッポリーに向き直る。
「兎に角、お前さんの爪はもう充分鋭いんだから、着陸は禁止だ。いいな?」
「は~いなの!」元気良く返事した。
「ところでポッポリーがいるって事は、奴は近いのか?」
ライラが尋ねる。奴とは不浄王ケイオスヘッドの事だ。
ポッポリーに課せられている任務。それが不浄王の監視だった。
そもそも、砂漠にハーピーは生息しない。ハーピー限らず、飛行を主とする生き物には、灼熱の太陽と砂地から照り返しを受ける砂漠の環境はあまり向かず、ハーピーも本来は気温の低い高山地帯や日陰の多い渓谷を住処にする。
ポッポリーは元々、旅の行商人が何処かで手に入れた赤子のハーピーを籠に入れ、客寄せにしていたところを、ハーラルの国王ダンクロアが不憫に思い、買い取って王宮に建てた塔の上階に住まわせていた。
その見た目と無邪気な性格から、皆に可愛がられていたが、ただただペットの様に扱うのは、行商人と変わらないと考えたダンクロアはポッポリーを軍の一人として、住居と食料を提供する代価として、不浄王の監視の任務を命じた。
不浄王は縄張りにいる者を見境無く襲うが、上空からでは襲われる心配はない。
彼女は上空から不浄王の動向を監視し、縄張りを変えれば、王国と近くの町、周囲にいる人間へ報告し、注意を促す。
「白団子さんはもうちょっと向こうにいるの。この前、移動したから多分大丈夫なの。」
ポッポリーは北西を指しながら言った。
「ポッポリーは今から王様に教えに行くの!」
「そう言うことか。じゃあ気を付けてな。」
「気を付けるの!二人も気を付けるの!」
「ああ。それじゃあな。」
「バイバイなの~!」
言って、ポッポリーは空へ羽ばたく。
その時、ライラが声を掛ける。
「ポッポリー!」
空中で振り返ったポッポリーに向けて、ライラが先程仕入れた獣の肉を一切れ、高く投げた。
旋回したポッポリーが口で見事にキャッチする。
「あふぃはとはお~!」
彼女は礼を言うと、ニグへ向けて飛んでいった。
「相変わらず、元気だな。」
ディケンズが後ろ姿を眺めながら言う。
「不浄王がこの辺りまで来てるって事は、メイリスも時期に外出禁止になるな。」
不浄王の危険性を考え、接近した町の者は王国関係者でさえ、町の外に出ることが禁じられる。
「ああ、面倒だが仕方ねぇ。」
陽が傾き始めたので古い宿泊所で一晩明かした二人は、翌朝、再び北へと歩みを進める。
比較的、植物の多い場所へ進むと、前方に草食動物の群れが見えてきた。
その中にブレイドホーンの姿もあった。
保護色となる砂色の毛皮。モウズよりも一回り小さい身体だが、名前の通り、頭には剣のような形状の一本角が生えている。
天敵に対する反撃の他に、オス同士の縄張り争いやサボテンの棘を落とすのに使われる為、本物の剣と相違ない切れ味を誇る。
「やっといやがった。」
ライラが言うと同時にモウズを走らせる。
「おいっ!バカ!」
ディケンズが制止を掛けたが、突然走り出したことで、驚いたブレイドホーンが凄い速度で逃げ出していく。
二人は必死に追いかける。モウズの足は早いが、人が乗っている分、距離を縮めることは難しかった。
「あんな立派な武器があるのに、挑んでこないのかよ。」ライラがぼやく。
「草食動物の角なんて基本的には、窮地に立たされた時の最終手段だ。のっけから追い掛けたら、そりゃあ逃げるだろ。」
走り続けていると、段々と速度が落ちてきたが、それはモウズも一緒であった。
「ちきしょう。キリがねぇ。」
ライラがデザイルをブレイドホーンの前に放り投げる。
ブレイドホーンは驚いて方向を変え、左に逃げた。
ライラは手を翳してデザイルに魔力を込める。
砂の上でカタカタと震えたデザイルがブレイドホーンの前まで這い、目の前で跳び上がる。
驚いて前肢を上げて止まったところへ、モウズから跳んだライラが切りかかった。
背後から首筋に入った一太刀でブレイドホーンが崩れ落ちる。
ライラは死体に近づき、その角を切り落とす。
遅れてきたディケンズがモウズから降りながら言った。
「何も殺さなくても良かったんじゃないか?ソールオングルで気絶させれば、角だけ取れただろ。」
「どの道、角を失えば、捕食者に殺られるさ。それに角は求愛や縄張り争いにも使うんだろ?尊厳を失ったまま生かす方が残酷だ。」
「まぁ、そりゃあ一理あるが・・・」
「それにルルじゃあるまいし、狩りの対象に慈悲を与えてたら、キリがねぇぞ。肉まで処理してやるのが、アタシたちの弔いだ。」
ライラは包帯と使わない袋を破いて、その鋭い角を丁寧に包み、モウズに取り付けた。
二人が残り毛皮や肉を剥いでいると、気配を察したモウズたちが離れた。
「ん?」
その時、ライラの頭にコツンと何かが当たる。
頭を触り、手を出すと空から小石程度の氷が、いくつも落ちてきた。
「おお!ディケンズ。雪だぞ、雪!初めて見たよ。ギルニアにも降るんだな。」
「雪?」怪訝そうな顔をしたディケンズが落ちてくる物を確認し、察した。
「ライラ!雪じゃねぇ!雹だ!走れ!」
走り出したディケンズに戸惑いながらもライラはついて走り出す。
「おい!一体何なんだ!」
「跳べっ!」
二人は大きく跳んで回避する。
二人がいた場所に巨大な氷の塊が落ちた。
衝撃で舞った砂煙が晴れた時、氷の上に鎮座する一羽の怪鳥の姿があった。




