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砂上の狩人  作者: eight
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第17話 アトリエ「ルプランデル」

二日後。

ニグの武器屋にライラたちはいた。


「おっちゃん、材料揃えてきたぜ。」

「おう。そこに置いときな。三日後には出来てるさ。代金はその時でいい。」

武器屋の店主は別の作業をしながら、ぶっきらぼうに答えた。

ライラはわざと音を立てながら材料の横に数枚の硬貨を積む。

「ちょっともう一件、寄るとこがあってな。帰りしなに、またここに寄るつもりだ。」

音に気付いた店主が硬貨を見て、ライラを見た。

「そう言うことか。任しとけ。」

「頼んだぜ。」


武器屋を出た二人は居住区に向かう。

「ディケンズは材料確認しとかなくて良かったのか?」

ライラが訊いた。

「材料?」

「新しい斧の当てがあるんだろ?鉱石類もいるんじゃないのか?」

「ああ、その件なら大丈夫だ。出来たもんをそのまま頂くつもりだからな。」

「盗むのか?」

「違げぇよ。」

「じゃあ何だよ。」

「カズリムオークだよ。」

「あぁ、あのバーサーカーから奪うのか。」

それは砂漠に住むオークの一種。数体の群れで動き、一際大きいボスは両手に斧を持っている。

単体であれば弱いが、群れをなすことからランクはC扱いだ。

「奴の斧は見る限りじゃあ、鉄より質が良さそうだ。暴れまわっても壊れないところを見ると耐久も申し分ない。何よりタダで手に入るってのが魅力だな。」

「依頼がありゃあ、尚更良いな。」

「ああ、後でギルドに確認してみるさ。」

「兎に角、次の獲物は決まりだな。」



二人が居住区を抜けると、エドゥリアのアトリエであるルプランデルが見える。

中に入るとローゼルとエドゥリアの二人が立っていた。

「ほらぁ!やっぱり来た。」

「いらっしゃいませ。」

「よぉ。」

「やっぱりってなんの話だ?」

ライラが問い掛ける。

「マスターが10分ほど前にライラ様の匂いがすると。」

「10分前って居住区に入るかどうかくらいだぞ。」

ディケンズが驚く。

「のっけから、気色の悪いこと言いやがるな。」

「それで、何のようですか?」

エドゥリアがライラに近寄り手を握る。

「愛の告白ですか?」

「どうしたらそうなるんだよ。」

「私はいつでも構いませんよ。」

「アタシは構うんだよ。」

ライラは袋からデザーク結晶を取り出す。

「用件はこいつだよ。」

「あっ。」


アルドギドス戦で無くしたデザイル。

デザーク結晶は脆く、普通の工房では加工出来ない。無理やり強度を高めれば、他の化合物の比率が高まり、砂魔法で自由が効かなくなる。

しかし、錬金術の技術ならば、剣と変わらぬ強度を出すことが出来る。


エドゥリアはアルドギドスに受けたライラの傷を思いだし、少し顔を曇らせた。

察したライラが包帯を巻いた腕を上げながら言った。

「そういや、あん時はありがとな。あの薬のお陰で、かなり早く治ったよ。」

「いえ。またいつでも頼って下さい。」

エドゥリアは照れ臭そうにはにかむ。


「このサイズの結晶なら、前より大きめのが作れますよ?」

「いや、ほとんど陽動で使うから、前と同じでいいや。でかすぎると邪魔になる。」

「分かりました。じゃあ、早速やりますね。」

「すぐ出来るのか?」

「持ち手が前とちょっと変わっても良いなら一時間位で出来ますよ。」

「そうか。なら頼む。」

エドゥリアが楽しげに工房に向かいながら、ローゼルに言った。

「ローゼル!臨時休業。」

「御意に。」


エドゥリアは工房へ行き、ローゼルが店先の看板を下げたところでディケンズが言う。

「まだ昼過ぎなのに、店閉めちまっていいのか?」

「ままあることです。」ローゼルは気にせず答えながら、二人にお茶を淹れる。


暫くの間、二人は店を物色した。錬金術に関して知識のない二人には珍しいものばかりである。

「これは何なんだ?」ライラが一つの道具を指差す。

「それは農家の方向けの物で、一定時間で自動的に水を撒く装置です。」

「ほ~ん。」


「普段、戦闘用のもんしか見ねぇから、改めて見ると面白いもんだ。」ディケンズがお茶を飲みながら言う。

「戦闘に転用出来そうな物もありそうだな。」

「こちらで提示しているのは用途の一例に過ぎません。道具をどう使うかは、使う者次第だと。だからマスターからは購入者の真意を見極めるよう、仰せつかっております。」

「なるほどな。」

「錬金術は不可思議であり、突き詰めれば際限はありません。故に悪用には最も注意が必要なのです。」



「ローゼルは独立はしないのか?」

ディケンズが尋ねた。

「独立・・・ですか?」

珍しくローゼルに戸惑いの表情が浮かぶ。

「だってお前はホムン何たらとか言う弟子なんだろ?いつかは一人立ちするんじゃないのか?」

「ホムンクルスは錬金術によって精製される疑似生命体の事です。」

「ん?つまりどう言うことだ?」

「私は弟子ではなく、マスターに使役される為に造られた存在です。」

ディケンズとライラが顔を見合せる。

「つまり、ローゼルも錬金術で造り出されたって言うのか?」

「そうです。」


ライラが声を上げて笑う。

「普段は堅苦しいくらいなのに、たまにとんでもねぇ事を言うよな。」ディケンズも笑いながら言う。

ローゼルは楽しそうな二人に、それ以上訂正はせず、カウンターを拭いた。


その時、エドゥリアが戻ってきた。

「出来ました!」

「早ぇな。」

「はい!」エドゥリアは嬉しそうに返事する。

受け取ったライラが新しいデザイルを確認する。

サイズはそのまま、持ち手はシンプルな作りだが、ライラの手にフィットしていた。

「丁度いい感じだ。」

「はい。ライラ様仕様です。」

「マスターはライラ様の身体情報を熟知しておりますので。」

「何でだよ。」ライラが思わず突っ込む。

「日々、情報収集に努めてます。」

エドゥリアが鼻息荒めに言う。

「出所はどこだよ。」

「まぁ、良いじゃねぇ。使いやすいなら。」ディケンズが収めに回る。

ライラはディケンズを見つめ、段々目を細めていく。

ディケンズは思わず、目を逸らした。

「お前か・・・」

「いや、まぁ、そのあれだ。情報も金になる時代って事だ。」

「全然、答えになってねぇぞ。」

「あ!そうだ。ローゼル!エリーの奴が遊びに来たいって言ってたぞ。」

「話を逸らすな。」

「いつでも好きな時にお越し下さいとお伝え下さい。」

「おう。エリーもよろこ」

ライラがディケンズの頬を両手で摘まむ。

「おめぇ、幾ら儲けやがった!」

「止めろ止めろ。」

「分け前を渡せ!」

「そう言う問題なのか?」

「違ぇけど、アタシが貰う権利はあるだろ!」


「怒るライラ様も素敵。」

「もう腕も問題なさそうですね。」

揉める二人をエドゥリアたちは楽しそうに見ていた。






「ハッハッハ!それでデザイル代を払ったって訳か。」

テーブル席に座ったブロウがジョッキ片手に言った。

「デザイルだけじゃねぇよ。籠手代までこっち持ちだ。」

酒を煽りながらディケンズが答える。

「そいつは災難だな。」

「どこがだよ。アタシの情報で得た金なら、アタシに使う権利があるだろ。」

ジョッキを空にしたライラが言った。

「まぁ、間違っちゃいねぇ。」

「情報があって、相手が欲してる。そこに金銭が動くなら、それは仕方ない。」ルルが静かに言った。

ラビニタスという種はアルコールを受け付けない為、ルルが手にしているのはアイスミルクである。

「おいおい。ルルまでそんな事言うのかよ。」

ライラの言葉にブロウがまた笑った。


「んで、次は何を狙うんだ?」

「カズリムオークから斧を頂くつもりだ。」

「なるほどな。大物狩りはその後か。」

「アタシのカットラスも新調してぇんだが、何か良いの知らねぇか?」

ブロウとルルは少し考える。

「鉄の上ってなるとやっぱミスリルじゃねぇか?」

「ミスリルかぁ。悪くねぇけど、重さがちと気になるな。」

「言っても、そこは仕方ねぇんじゃねぇか?」

「だよなぁ。」

ミルクの入ったジョッキを抱えるように持っていたルルが呟く。

「ブレイドホーンの角。」

「ブレイドホーン?あの鹿か?」

「軽いし、鉄よりは切れ味があるはず。」

ルルの言葉にディケンズが便乗する。

「確か、ブレイドホーンの反撃が致命傷になってデカぶつが死んだって話も聞いたことがあるな。」

「ほ~ん。悪くねぇな。籠手を受けとる時に武器屋のオヤジに相談して、材料訊いとくか。」





ルルたちと別れ、装備を受け取った二人は、モウズに乗ってメイリスを目指していた。

「カズリムオークって事はちょい北だな。」

ライラがモウズの長い毛をくるくる巻いて遊びながら言う。

「ああ。さっきギルドで確認したら都合良く依頼があった。」

「そうなのか?」

「イルミドールで窃盗があって、盗んだ野郎が逃げた先で襲われて、盗難品をオークに持ってかれたんだってよ。」

「何かアホみてぇな話だな。」

「依頼になるならこっちとしては有難いけどな。」

「まぁ、カズリムオークならサクッと終わるだろ。」

「ああ、明日にでも行こう。」


陽が傾き始め、長い影が砂漠へ伸びていた。


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