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砂上の狩人  作者: eight
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第16話 砂中巡り

何も無い砂地から、ズボッ!と音ともに手が現れる。

その手は小型のピッケルが握られていた。

ピッケルを放り投げると、地面に手をついて力を入れ、ライラが砂地から這い出した。

もう片方の手には鉱物の入った袋が握られている。

「ふぅ。」

犬の様に身体を震わせ、砂を払ったライラが一息ついた。

「やっぱ、重いもん持ってると出るのも大変だな。」


あれから一週間。

エドゥリアの薬の効力は絶大で、ライラの腕の傷は、激しい戦闘は厳しいものの、普通に動く分には問題ないほど、回復していた。


ここはメイリスから出て北に少し行った場所。危険な魔物は居らず、巨大な岩が乱立しており、砂漠の鉱物資源の採取場所として多くの鉱夫たちが作業をしている。


ライラはそこで鉱夫たちの作業対象外となる砂中での採掘を行っていた。

目的は籠手の材料であるハルマ鉱石、そしてアルドギドス戦で失ってしまったデザイルを作り直す為のデザーク結晶。だが他の鉱石も手当たり次第採っていた。


近くにいた鉱夫の一人が話し掛ける。

「潜りの嬢ちゃん。随分と大漁だな。」

「おうよ。地下は資源の宝庫だぜ。」

「羨ましい限りだよ。俺も潜れたら良いのになぁ」鉱夫は愚痴を溢す。

「これをやるよ。」

ライラは袋から一つの鉱石を取り出し、鉱夫に投げた。


受け取った鉱夫は驚きながら言った。

「ミスリルじゃねぇか!良いのか?」

「ああ。早急に必要でもないし、その量じゃ剣にもならねぇ。ピッケルを貸してもらったお礼だよ。」

「こいつはありがてぇ、済まねぇな嬢ちゃん。」

「気にすんな。」

「お、そうだ。ちょっと付いてきな。」

そう言って鉱夫はライラを案内する。


「ここだ。」

案内された場所には大きな岩があった。

「この岩か?」

「いや、それじゃなくて、こっちだ。」

鉱夫は岩の隣の更地を指差す。

「ここが何なんだ?」

「ここには元々横のやつと同じくらいの岩があってな。中に多くの鉱石があったから、皆で取り尽くした結果、更地になっちまった訳だ。」

「んで、それがどうしたんだよ?」

「岩は地表だけじゃないだろ?」

「なーるほど。」ライラの広角が上がる。

「そう言うことかい。ここは任せな、分け前をやるから、盗まれないように見張っていてくれ。」

「おう。」


ライラは新しい袋とピッケルを持つと立ったまま、砂の中へ落ちるように消える。

地面の中は勿論、砂で埋め尽くされている。だがライラには、まるで水の中に入ったような感覚になる。

視界はそこまで良くは無い。目の前は見えるが遠くなるにつれて、ぼやけて見える。

息は出来るが魔力が切れれば、文字通り生き埋めになる。その為あまり深く潜ったり、砂中での戦闘は危険をだった。



ライラの斜め上に小さなサソリがいた。ただ砂の中を潜行しているだけだが、ライラには何もない空間を歩いているように見えている。

サソリが止まった。

砂の中である以上、ライラの姿は見えない。しかし、砂の中に潜る者は大抵、目以外の何かしらの器官で周囲を把握するものだ。

何かは分からないが、自分よりも遥かに大きい生き物がそこにいることに警戒して、サソリは暫く止まっていたが、危険は無いと判断して、またそろりと動き出した。


ライラは砂中をゆっくりと沈みながら岩の表面を確認する。

何か光る物があり、確かめると鉄鉱石だった。

需要は多いが、比較的取れる為、高値は見込めない。

ライラはとりあえず、無視し目当ての物を優先して岩の周りは調べていった。


30分が経ち、ライラが再び砂の中からピッケルを持つ手を突きだした。

砂を払ったライラに鉱夫が話し掛ける。

「どうだった?」

「十分採れたよ。でも一人だとやっぱきついな。目的のもんは採れたし、今日はこれ位にしとくさ。」

「そうか。またやる時は知らせてくれ。手伝うからよ。」

「了解。」

ライラは幾らかの鉱石を分け前に渡し、メイリスへと帰った。



戻った時は昼時で酒場の中に人はほとんどいない。

軽く朝食を食べる事は多いが、昼は仕事で出ている者がほとんどで、町にいる者も自宅で済ませる事が多い。

テーブル席に狩人が二人、カウンターではハモンドがカウンター越しにエリーと話していた。


「だから、かみさんにそう言ってやったんだよ!」

「えぇ~酷い。奥さんが可哀想です。」

「いや、でもその後はボコボコに殴られたよ。」

そう言ってハモンドが、ガハハ!と笑う。


「よぉ!」

挨拶しながら隣に座った。

「おう!おはようさん。」

「お帰りなさい!」

「出てたのか?」

「ああ。こいつを掘りにね。」

ライラが鉱石の入った袋を見せる。

「ハルマ鉱石じゃねぇか!」

「ああ、籠手の材料でいるんだけど、ディケンズの奴が掘った方が安上がりだって言うもんだからな。ハモンドもいるんだろ?」

「良いのか?」

「一個1000ルックでどうだ?」

ハモンドは目を細めて、少し考える。

「600!」

「900。」

「700。」

「850。」

「・・・750!」

ライラが妥協しようとした時、ハモンドがニヤついたのに気づいた。


ライラはテーブル席に座ってる狩人たちに声を掛ける。

「なぁ!ハルマ鉱石ってニグの鉱石屋で買ったらいくらくらいだ?」

テーブルの二人は見合せ、二三言葉を交わすと一人が答える。

「採れ高にもよるだろうけど、大体1200ルックってとこだな。」


「お前、ふっかけやがったな!」

ライラが凄んだが、ハモンドは笑いながら言った。

「そもそも相場を調べねぇで売る方がおかしいだろ?」

ぐぅの音も出なかったライラは開き直って言う。

「1000だ。それ以上はまけねぇ。」

「もう一声いってくれ。家庭持ちは何かと金が掛かるんだよ。」

ライラは渋い顔をしたが、諦めて言った。

「じゃあ900だ。それでいいだろ。」

「助かるぜぇ、流石はライラ様!」

ハモンドは金を出し。ハルマ鉱石を二つ買った。



ライラが本日二度目のハーブティを飲み、ハモンドが食事を終えた頃、ハモンドが切り出した。

「そんで、これからどうするんだ?」

「とりあえず、武器の新調だな。タフさじゃ魔物の方が上だからな。ちょっとでも攻撃力は上げたい。」

「当てはあるのか?」

「アタシのカットラスは正直まだどうしようかってレベルだが、ディケンズは当てがあるらしい。」

「そうか。」

「ああ、まだ腕が本調子じゃねえから、もうちょいしたら狩りに行くさ。」


「ディケンズさんは今、いないんですか?」

エリーが会話に加わる。

「そういや、今日は見てないな。」

「アイツは昨日から虫取りだよ。」

「虫取り?」頭に疑問符を浮かべているエリーに対し、ハモンドは「ああ、そんな時期か。」と納得した。

「反鏡蝶だよ。」

「反鏡蝶?」再び疑問符が浮かぶ。

「ニグの工房でたまに飛んでるだろ?」

「工房には行くことないから、分かんないですね。」

「確か、リフリアタテハじゃなかったか?」

ハモンドが助け船を出す。

「あ!あの青い蝶々。」

「そんな名前なのか?」

「でも、何でリフリアタテハを?」

「反鏡蝶ってのは6種類いてな。あの蝶の羽は魔法を跳ね返す性質がある。」

「えぇ!凄い!」

「ディケンズが捕ってるのは、その中の氷を反射する反氷蝶だ。」ライラがハモンドの説明を引き継いだ。


「これから暑さが増してくる時期は、火を扱う鍛冶工房の中が地獄みてぇに暑くなるんだよ。普通の氷じゃあ、すぐ溶けるし、氷魔法の道具は高い。だから、工房内に虫籠を何個か置いて、そこに弱めの氷魔法をぶつけるんだ。そうすりゃあ勝手に反射しあって広範囲に広がる。おまけに暫くは反射しあうから長持ちするって寸法だ。」

「へぇ~良いですね。でもちょっと可哀想。」

「まぁ、それを言われちまうと何も言えねぇな。」

「でも、町中では見ないですよね?」

エリーの疑問に今度はハモンドが答えた。

「基本的に町に入れるのは厳禁だからな。」

「そうなんですか?」

「メイリスにも町の入口に花があるだろ?」

「プレシスタリアですか?」

「あれを反鏡蝶は嫌うんだ。そうやって中に入れないようにしてるのさ。」

「アタシもよく知らねぇが、昔に別の大陸の町で、兵が訓練中に放った火の魔法を反炎蝶の群れが反射して大惨事になったんだとよ。」

「それ以来、大概の町の周辺にはあの花を植えるか、その匂いをいれた袋を吊るすのさ。」

「そんなことがあったんですね。」


「兎に角、反鏡蝶取りは面倒だけど、確実に金になるって訳よ。」

「アタシは嫌だけど、ディケンズはマメな奴だからな。まぁ、アイツが戻ったら、そろそろ動くさ。」



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